計画通り
クレアがレグルスに会ってから7日後。
とある都市の城門では二人の兵士がいる。
「しっかし眠いな~」
一人の兵士がぼやいている、それにもう一人が反応する。
「三日もおんなじこと言って飽きないのか?」
「しゃあねえだろ、いつもなら休日だったのに危険だってことで駆り出されているんだぞ」
「まぁヒメナル様直々の命令なら仕方ないよな、それにその分の割り増しで給料もらえるんだからいいだろ」
眠気を覚ますように会話を続けている。
そこに一際強い風が吹く。
「うわっ」
「火をつけろ!」
周りにある光源である灯火が消えて真っ暗に成る、兵士は冷静に火をつけ灯火を灯す。
光が戻ると先程と同じ風景が写る。
「・・・・・・ふぅ、びっくりしたな」
「・・・・・・ああ暗いうちに獣に襲われたらかなわん」
二人は再びしゃべりだした。
「こんな簡単な術すらも感知できないなんて」
既に侵入されていることも気づかずに。
その後、侵入者は貴族のいる館にまでやってきた。
「やはり警戒されていますね」
館には多くの兵士が守っている。
「しかしこれだけいても実力が伴っていなければ意味ないですね『消音』『透明化』」
使ったのは無属性魔術『消音』『透明化』だ。効果は字のとおり自分のから出る音を無くすものと自分の姿を隠すものだ。
「(これなら問題ないでしょう)」
侵入者は屋敷の中を進んでいく。
「ここですね」
貴族の寝室と思われる部屋に入る。中には大きめのベットがあり二人分の膨らみができている。
「(暗殺者なら此処で殺すのでしょうが、今回私はただの通達者ですから)」
侵入者はこの部屋にメッセージを残してこの都市から去る。
「う~む・・・・・ん?なんじゃと!」
貴族の部屋の窓には真っ赤な文字でこう書かれていた。
『3日後の日が真上に昇るころに領地にいるすべての奴隷を北の城門に集め引き渡せ、さもなくば我々は同胞を救うためいかなる手段でも使用する』
この貴族はこの文字が何を意味しているか理解した。
それからこの貴族はすぐさま行動に移った。
3日後、北の城門には千人以上の亜人奴隷が集められている。
「しかし本当に来ますかね」
城壁にいる兵士の一人が不満を言う。
「仕方ないだろ、ヒメナル様の言葉に従わないわけには行かない」
城壁上にはほぼすべての兵士がいる。そのうちの一人が気づく。
「何かこちらに来たぞ」
北門の道に二つの影が現れる。
「どうやら素直に開放してくれるみたいですね」
「よかったです。クレア様が強いのは知っていますが、私はまだ弱いので」
一人はクレアでもう一人は猫耳と尻尾をしたスレンダーな体系の少女だ。
「メザリ、貴方も時期に強くなりますよ」
「勿論、強くなるよう努力しているのですがクレア様たちのようになるまでにどれくらいかかるか・・・・」
その言葉にクレアは眼の光が無くなった。
「・・・アレを経験すれば貴女も私のようになりますよ」
「(修行のことを聞くと毎回眼が死んだようになる・・・)」
メザリはクレアの顔を見ながら思う。
奴隷達の距離が近くなるとクレアは顔を引き締める、そしてこっそり一つの魔術を発動する。
「どうやらこの都市周辺にはもう同胞はいないようですね」
「はぁ~やっぱりクレア様はすごいです」
隣にいるメザリは憧憬をクレアに向ける。
「それより行きますよ」
城門に近づくと門から何人もの兵士がやってくる。
「君達が亜人の国の使者ですか?」
「そうです、それで同胞達は?」
「無論、引き渡します」
そこからはスムーズに進み、奴隷全員が城壁の外に出る。
「これでこの都市部にいる亜人すべてです・・・・・・・・・ただ領内にいるすべてといわれたら、それは不明でして・・・・」
兵士は汗をかきながら言う。
「それでしたら問題ありません、私達は奴隷になっている亜人を解放しに来ただけです。奴隷にされてない同胞には別に勧誘しに行くつもりですから」
そういい兵士の前を離れる。
「さて私達の同胞達よ、私達は国を復興させ貴方達を奴隷から解放するためにやってきました。そして貴方達をわが国に連れて帰ろうと思います。拒否したいものはいますか?」
亜人達の顔を見ると此処に残りたいと思っている者はいないようだ。それを確認したクレアは兵士に再び向き合う。
「では我々はこれで失礼します」
クレアはとある物を取り出し使用すると亜人全員の姿が掻き消えた。
クレアが使用したのは魔法石だ。
魔法石とは魔法をあらかじめ仕込み好きなタイミングで発動させることができるものだ。
ちなみに仕込まれていたのは時空魔法『瞬間移動』だ。効果は指定した範囲に一定の人数までを瞬時に移動させる。
「さて、ようこそ私達の国ネルファイスへ」
亜人たちの世話をほかの者に任せクレアはティアの元に向かった。
「ティア様、クレアただいま帰還しました」
「お帰りなさいクレア今回はどうだった?」
「今回は抵抗無く引き渡しを終えました」
「そうなら前みたいに戦闘は無かったのね」
実は以前に引渡しを拒否され戦闘になったことがある。結果、その都市は廃墟となった。
「まぁ、私達と同程度となると何段階も進化した魔物かステラが出てこないといけないから」
「そうですね」
コンコンコン
「どうぞ」
「失礼します、ティア陛下に書類をお届けに来ました」
やってきた者は30センチほどの書類を抱えてる。
「また来た・・・・・・」
ティアは机に突っ伏しながらうめく、部屋には他にも書類が山積みになっている。
ティアが女王となったことにより幾つものやらなければいけないことができた。議会の体制を整え、戦士団の細分化、食糧問題、外敵駆除、住民登録、武器製造、職の提供、学校、エトセトラエトセトラ。
「もういや・・・・」
「ですがティア陛下にやってもらわなければいけないものだらけです」
いや正確には、テオドールから王になるための細かい知識を教え込まれたティアにしかできない案件だ。
「・・・・クレア」
「わかりました、わかる範囲で私も手伝いましょう」
その作業は夜まで続いた。
「ティア様、今日はここまでにしましょうお体を壊されてはいけません」
クレアの言葉にティアは苦笑する。
「私達のこの体は早々壊れないけどね、でもありがと今日中に終わらせなきゃいけないのは終わったし」
「そういえばテオはどちらに?」
「ああこの国の戦士団を鍛えなおすとかで非番の人たちを連れてどっかいっちゃった」
「そうですか・・・・その人たちが無事に戻れればいいのですが」
「心配ないと思うわよあの空間に行くわけじゃないし」
二人はあの空間で何があったか思い出し身震いする。
「この話はやめましょ」
「そうですね、それとこの後の予定ですが」
クレアがティアに予定を確認する。
「まず私達の同胞を解放する。今まで開放できた都市が7箇所で残りが15箇所あるわ、小さい村とかも含めればもっとあるけどそっちは戦士団に対応してもらうつもりよ」
「でもそれはこの国の近くだけですよね?南のほうにはもっとたくさんの同胞がいますが?」
「そうねでも今言った15箇所の開放が終わったらヘクメス王国で動きがあると思うの、その動きを見てから動いたほうが効率がいいわ」
ティアはクレアの疑問に答える。
「では問題ないのですね」
「ええ、むしろ問題なのは国内のほうよ急いで国を整えないと私達が過労死しちゃうくらい仕事増えるわよ」
「それは嫌ですね。フフ」
こうして日が過ぎていく。
クレアが予定していた都市の亜人をすべて開放し終わる頃、王城ではネルファイス周辺のことで貴族達が集まっていた。
「―――では被害を報告してもらえるか」
王の言葉で宰相が被害を読み上げる。
「周辺にある22都市のうち無事に済んだのは4箇所、それも亜人を穏便に開放した結果であり。残りは反発して都市を攻撃され最低でも半壊、一番ひどいのはすべての城壁すべて破壊され残ったのは家数件という結果です。さらにはそれをなしたのはたった一人との報告が入っています」
これには貴族も驚く。そして自分の領地にも被害が出るのかと考えるものも出てきた。
「では即座に討伐軍を編成し打ち倒さなくては」
「それはいい考えだ」
「陛下、此処で手を打たねばさらに被害が広がりますぞ」
貴族達は全員が戦争だ、戦いだ、などいってネルファイスとの戦争を望んでいる声を上げる。
(だからあれほど敵対するなといったのに)
王座の近くにいるルナリアはこう思わずにはいられなかった。
「では敵対してさらに強い者と戦うのか?」
王の言葉に貴族が息を呑む。
「そ、そこまで王が警戒する相手がいるのですか?」
「いるとも、現にルナリアはその存在を確認している」
貴族全員の視線がルナリアに向かう。
「ええ、おそらく攻めてきた一人が何十人いても勝て無い相手があの国には少なからず一人は存在しております」
この言葉には貴族も真っ青になる。
「(ここにきてようやく相手の強大さに気づいたみたいね)お父様、提案があります」
「どのような案だ?」
「あの使者の言っていたとおり不可侵条約を結ぶのです」
ルナリアの言葉に貴族が不満そうにする。それもそうだこれはいわば降伏したも同義だ。
「それはどのような意味かわかった上での発言ですか?ルナリア様」
「ええモチロンわかっていますベトロント侯爵」
両者の視線がぶつかる、だがベトロントは視線を陛下に向ける。
「私めは陛下の判断に従います。どうぞご決断を」
「これでいいのチールちゃん」
夜に自室でチールに話しかけるルナリア。
「問題ないで、これでアイツは動くはずや。動かんならそれはそれで問題ないからな~」
質問してきたルナリアを安心させるように言うチール。
先程の謁見で王が決めたのは、国内にいる亜人を開放しネルファイスに引き渡す、だ。そしてそのためにルナリアがネルファイスに訪れるのだ。
「まぁ、ほぼ確実にルナはんは誘拐されると思うとるけどな」
「う~、やっぱりそうよね」
此処で言うアイツとはベトロントのことだ。
「モチロン護衛は付くとは思うけどルナはんの身柄を手に入れたいベトロントからしたら絶好の機会やろうからな」
その言葉にルナリアは嫌な顔をした。
「・・・本当に大丈夫なの?殺されたりしない?」
「大丈夫や、ルナはんの護衛にはワイとターさんが付くからどんな状況でも死ぬことはまず無いで、なっターさん」
するとルナリアの影からタナトスが現れる。
『しかり、我々がいる限りその身が危険に成ることはまず無いと思え』
自信満々のチールとタナトスを見てルナリアはため息を吐く。
「本当にこれがこの国のためになるの?」
「なるで、この国の内乱をとめることができて帝国との間にはネルファイスができて侵略の可能性が低くなる。問題ないやんか」
「そうなんだけど・・・ベトロントは私を捕まえてその責任をネルファイスに押し付ける」
「そうなると思うで」
「その後、ネルファイスとの戦争にライル兄さん達を駆り立てる」
「国家の意地うんぬんでそうなると思うで」
「その後は?」
ルナリアにはその後のことが予想できなかった。
「わからん」
「は?」
チールは一切飾ることなくわからないといった。それにはルナリアも固まった。
「いくつか予想はできとるんや、だが確証はできんのや」
「そう・・・・ならチールが一番可能性が高いと思う状況を教えて」
「う~んそうやな」
チールは短い前足を頭に当てて考える。
「まぁネルファイスとの戦争は負けるのは確定やな。その後での敗戦の責任で王を非難して王位を譲らせようとする。その王位継承に異議を唱えて内乱てとこやと思うんや」
チールの予想を聞きルナリアは考える。
「(・・・・十分ありえる話ね)・・・・・・・・・はぁこっちにもメリットがあるからいいけど」
「なら餌役頼んだで~」
チールは専用に作られた寝床で寝て、タナトスはルナリアの影の中に戻っていった。
こうして時間が過ぎていく。
そして二日が過ぎる。
「それではお父様行ってまいります」
「うむ、ルナリアよ其方に託した任をしっかり果たしてきてくれ」
「はい」
王城前には50人近く者人がおりルナリアを見送っている。王は視線を護衛に向ける。
「どうかルナリアを守ってくれ」
「我々白月騎士団の名の下にルナリア殿下をお守りすることを誓います」
王は護衛の言葉に満足そうにうなずく、そしてルナリアたちはネルファイスに向けて出発した。
それを王城の窓から見ているものがいる。
「お姉さま行っちゃいましたね、ステラ」
「そうですねメルダ殿下」
見ていたのはメルダとその護衛であるステラだ。
「ステラさんもお姉さまについていきたかったのではないですか」
「本音で言えばそうなのですが、あの者が付いている時点で私など足手まといにしかなりませんから」
そういってステラは残念そうな顔をする。
「チールはそんなに強いのですか?」
「ええ私など戦いが始まったら数秒で膝をつくことになるでしょう」
ステラの言葉にメルダは眼を輝かせる。
「なら安心ですね」
「はい、それにあの御仁もいられるのでまったく心配は要らないでしょう」
こうしてステラとメルダはルナリアを見送る。
ルナリアは順調にネルファイスの道を通っていき、残り2日の距離まで来た。
(チールちゃん、今どこにいるの?)
{今馬車の下の部分にいるで}
(そんなとこに!)
{まぁそこまで問題はないからな}
{チールはそこに自分の部屋みたいなものを作っていて快適な状態だぞ}
(部屋?)
{巣と言い換えてもいい}
{巣とは何や、巣とは。これは立派なマイホームやベットもあるし家具もある、揺れるのが玉に瑕やけどそれも問題ない範囲や}
{・・・・・いや外見は完全に巣としかいえないが}
{おし、ターさん帰ったら話し合いな}
チールとタナトスのやり取りを聞いてルナリアは笑う。
「ルナリア殿下、何か面白いことがありましたか?」
「ああ、いえ、思い出し笑いです」
「そうですか。それとこの近くに湖があります。休憩なされていきますか?」
護衛がそう尋ねてくる。
「ですが」
「長旅でルナリア様もお疲れでしょうし、何よりこのまま急いで進むより安全のために皆疲労を回復するために休憩するべきだと考えます」
この言葉にルナリアは少し考えうなずく。
「なら休憩しましょう」
「わかりました」
一向は湖に向かう。
湖に到着するともう日が落ちそうになってきている。
「ルナリア様、本日はここまでのようです」
「そうですか、もう少し進めると思ったのですが」
「・・・残念ながらこのあたりには村などは無く、最も近くの村までには最短でも明日の朝頃になってしまいます」
「・・・わかりました」
ということで本日はこの湖で夜を明かすことになった。
そして翌朝
「おはようございますルナリア様、起きていられますか」
一人の護衛(♀)がルナリアに声をかける。
「起きていられますか?」
その後も何度か声を掛けるが一向に返事が返ってこない。
「・・・・ルナリア様、失礼します」
何かあったのではと護衛はルナリア専用に立てられたテントの中に入っていく。
「え?」
護衛が驚いた理由はただ一つ、テントの中には誰もいなかったのだ。