ルナリア帰還
「王都が見えてきました」
ネルファイスにたどり着いた翌日、ステラたちも王都にたどり着いていた。
ステラたちは6日掛けて王都に来た。
「ステラ、門番には私が説明しますので、そのまま進みなさい」
本来、王都に入る際は門番の検問をされてからなのだがグランやルナリアといった王族や地位の高い貴族などはそれをせずに入ることができる。
「止まれ」
案の定、門番に止められる。
「この馬車には誰が乗っているんだ」
門番の問いにステラが答えようとする前に馬車の扉が開きルナリアが降りてくる。
「ルナリア様!」
門番はルナリアを知っていたみたいだ。すぐに近くにいた門番が上司を呼びにいく。少しすると隊長らしき衛兵がやってきた。
「良くぞご無事でルナリア様」
「私は無事です。それと私はお城に向かいたいのですが」
「わかりました、おい今すぐに道を明けろ」
隊長の指示で道を譲る。
「ありがとうございます」
「いえ、これも私の責務ですので」
ルナリアたちは城を目指して出発する。
城の前では近衛兵が馬車を迎えていた。そして奥には贅肉だらけで脂汗を流している豚、宰相ベトロント侯爵が待っていた。
「門番のほうから連絡ありました、ご無事で何よりですルナリア様」
「宰相もご健勝で何よりです」
二人は笑顔という仮面で挨拶を交わす。
「メルダ殿下もご無事で何よりです」
ベトロントはメルダの肩に止まっているチールに気づいて嫌な顔をする。
「おい、この獣をつまみ出せ」
ベトロントは近くにいる兵士に指示する。それにメルダは反論する。
「ダメです!」
「ですがメルダ様、城にこのような汚い獣を入れるなど」
「汚いなら洗えば済むことです!」
これにはベトロントも答えられなくなった。
「わかりました。おいそこの者、この獣を洗え」
「いえ私が洗います風呂の用意だけお願いします」
「・・・わかりました」
ベトロントはチールの事をあきらめた。次に視線を移したのは、二人の護衛をしていたステラだ。
「なぜここに大罪人がいるのです!」
ステラを指差して叫ぶ。それにルナリアが反応する。
「ステラのことですか?」
「そうです。この者は国に剣を向けた家の者ですぞ!」
「ええわかっています。彼女は反乱を起こしたとされ、その罪で奴隷に落とされています」
「ではなぜこの場にいるのですか」
ベトロントは返答によっては実力行使でステラを排除しようとしていた。
「ステラは知り合いの奴隷です。そして今は私達の護衛になってもらっています」
ルナリアは奴隷であることを話す。
「そしてステラは私の友達です。宰相である貴方でもそのような言い方は許しませんよ」
強く宣言する。
「ですが、その者は反乱を」
「ステラ自身が目論んだわけではありません」
「それでも彼の家の者が反乱を企てたのは確かです」
「ゆえに奴隷にその身を落として彼女の罰は終わったはずです。王が与えた罰に異論があるのですか?」
ステラの家に罰を与えたのは国王が決めたのだ、その罰に異論を言うことは国王の処罰に納得していないことを意味する。
「・・・仕方ないです、ならばこの奴隷はルナリア殿下が責任を持って見てくださいませ」
そういいベトロントはこの場を去る。
「・・・ルナリア様」
「大丈夫よ、私の近くで貴方に不快な思いはさせないわ」
ステラを申し訳なさそうな顔をしているがルナリアは笑顔で答える。
その場から動こうとするとメイドが近づいてくる。
「ルナリア様、レグルス陛下がお呼びです」
「お父様が?」
メイドがルナリア達を連れて城の中を進みレグルスの部屋に入る。
「お父様・・・」
中には相変わらずの姿の王妃と、以前とは変わりベットからも起き上がることができなくなっているレグルスがいる。
「・・・よかった・・・あやつは約束を果たしてくれたんだな」
「「お父様!」」
ルナリアとメルダがレグルスに駆け寄る。
「お体は大丈夫なのですか!?」
「ルナリア、少し静かになさい」
「はい・・・」
「陛下は数日前から急に状態が悪くなってしまったのです」
ベットの横に座っている王妃がルナリアに現状を話す。
「このままだとあと10日も生きられないと治癒士に言われました」
「そんな・・・」
ルナリアは悲しそうな顔をする、するとそこに
{家族の悲哀もごもご中、失礼しますわ}
メルダの肩に止まっていたチールがここにいる全員に声をかける。
「・・・・どこにいるんだ」
聞いたことの無い声に部屋の少し見渡しながらレグルスは尋ねる。
{ここやここ}
チールはメルダの肩の上で前足を振る。
「・・・リス?」
{わいの名はチール、テオドールの使い魔や}
「テオドールの・・・」
{そや、それとステラはん、王様に手紙を渡したって}
チールはステラに手紙を渡すように伝える。
「陛下、これを」
ステラはベットに横たわっているレグルスに手紙を渡す。
「これは?」
「テオからの手紙です」
「テオドールからか」
レグルスは手紙を受け取り読み少ししてから尋ねる。
「なるほど、お前はこの手紙を読んだか?」
「いえ、私は読んでおりません」
「そうなのか?」
{わいは読んだで}
「ここに書いてある内容は本当なのか?」
{できるかどうかなら、できるよ}
「なら頼む」
{わかった、ステラはん}
「何ですか」
{このおっさん治してやってや}
チールの言葉にステラは悔しい顔をして俯く。
「私にはできません」
「ふむ、だが手紙にはステラならできると書かれておるが」
「・・・私の治癒魔術は今ある物しかできません。腕のいい治癒士でも治せないなら私にも・・・」
その言葉に二人が反応した。
「そうなのか・・じゃあなぜテオドールはこのようなことを書いたのだ」
王様は心底わからないといった顔をして手紙を見る。
{なぁステラはん、たぶんテオはんが考えてるのはそれや無いで}
「え?」
ステラはチールを見る。
{別に魔術でもいいんやけど、ステラはんはもっと使い勝手のいいもんもっとるやん}
チールはステラの腰に視線を向ける。そしてその意図に気づいてステラがはっとする。
「アレを使うのですか」
「逆に今使わんで何時つかうん?」
少し考えてからステラは陛下に顔を向ける。
「もしお許しがあるなら、私が陛下の病気を治したいと思います」
「そうか、ではやってくれ」
レグルスはすぐに答える。だが
「それにはここである物を取り出すことを許してほしいのです」
「・・・・許可します、ですから夫をレグルスを助けてください」
レグルスの変わりに王妃が答える。
ステラは許可が下りると、右手を前に構えると。
「顕現しなさい『スター』」
と声に出す、すると右手から白い光の粒が出て鞘に収まっている剣になる。
鞘には星の輝きを思わせる宝石がいくつも付けられている、そしてステラはその鞘から剣を抜く。
「私は汝に乞い願う、汝の司る大いなる神秘の力を借り受けたい」
すると剣に描かれている星の紋様が輝きだす。それと同時に陛下のベットの下に星の紋様が描かれる。
そして魔力がたまり終わると紋様が浮き上がり光り輝く。
そして光が収まると。
ドサ
ステラが倒れる。
「ステラ!」
ルナリアがステラに駆け寄る、そして椅子に座らせる。
{・・・やっぱ倒れるんか}
「なんでステラは倒れたの?」
{簡単や原因は魔力切れ}
ステラの星剣【スター】のスキルにある【希望】は所有者の魔力と引き換えに所有者の望んでいる現象を引き起こすことができる。ただしそれが大規模なものや普通ではできない事となるととてつも無い量の魔力を消費することになる。それが普通の人の70倍の魔力を持っているステラであっても一度使えるかどうかといったほどだ、いやむしろステラだからこそ一回も使えるのだ。この剣はステラ専用に作られており他の人が使うとさらに魔力が必要になるのだ。
{10分もせずに起きるんやから、ほっとけばいいんや。それより気分はどうや?}
声を掛けられたレグルスは自身の体の変化に驚いている。
「・・・先ほどまで会った痛みがなくなっている」
「レグルス!」
「「お父様!」」
無事に治ったレグルスに三人が抱きつく。
{あ~、病気は治っても体はまだ衰弱しているから下手に動かさんほうが・・・・まぁ、これはヤボってもんやな}
家族の病気が治って喜んでいるの、それをチールは邪魔をしないように見守った。
「う・・・ん・・」
そうこうしているうちにステラが眼を覚ます。
「ここは」
「よかった、眼が覚めたのね!」
ルナリアはステラが眼を覚ましたのに気づき声をかける。
「ありがとう、君のおかげで体が楽になった」
「いえ、当然のことをしたまでです」
「だが我は王として、そなたに礼をせねばならない」
レグルスは少し考える。
「そうよな・・・」
「お父様、ではステラを奴隷から開放してはどうでしょうか」
{ちょい待ち、ステラは既に奴隷やないで}
「え?」
チールの言葉にルナリアが驚いている。
「そうかならほかの物を用意しなくてはな」
{そんなら、本人に聞いてみるのがはやいんやないか}
「そうだな、ステラよお前は何を望む」
レグルスのその言葉を聴きステラは考え込む。そして
「・・・・・もし願えるのなら、家族の汚名を晴らしてください」
「汚名だと」
レグルスはステラの言葉に引っ掛かりを覚えた。
「汚名とはどういうことだ」
「私の家、レリアバァル家はベトロントに反逆の罪を着せられたのです」
「詳しく教えてもらえるかな」
そこからステラは何があって家が潰されたかを教えた。
「そうか、そのようなことがあったのか」
「・・・信じてもらえるのですか?」
「さすがに全部を信じるわけには行かないだが、ラルゴが反逆したときその詳細な報告はベトロントが持ってきたんだ」
ちなみにラルゴとはステラの父親の名前である。
「仮にステラの言が本当であった場合、本来絶対に起こしてはいけないものだからな」
{宰相がそんなことやっているって知れたら貴族からの信頼が無くなっていく可能性があるんやからな~}
「そのとおりだ、そして宰相は王の一声で決まるといっても過言ではないからな」
「それならば」
「ああ、ステラよ我のほうでもベトロントのことは調べてみよう」
そうして話し合っていると、扉がノックされる。
「何者だ」
「ライル殿下、グラン殿下、ニコル殿下がお越しになりました」
「そうか中に入れろ」
レグルスが許可を出すと三人が入ってきた。
「父上、ルナリアが無事戻ってきたそうですね」
「無事でよかったよ二人とも」
「どこか怪我でもしたかい」
三人がルナリアたちに話しかけていく。その中でニコルが違和感を覚えた。
「父さん・・・元気になってない?」
「わかるのか」
ニコルの問いにレグルスは答える。そしてライルとグランも気づく。
「たしかに以前よりも顔色が良くなっていますね」
「まさか治ったのですか?」
「ああ、あの者のおかげでな」
レグルスはステラに視線を向ける。それにつられて三人も視線を向ける。
「えっと・・・その・・・」
4人の視線を向けられてステラが動揺する。
「彼女はテオドールの奴隷だったよな?」
「何でここにいるんだ?」
「テオドールが帰ってきた事は知らされてないけど」
三者三様の反応を見せる。
「なぜステラが?」
「テオドールが私達の護衛に付けてくれたのよ」
ルナリアは三人に護衛でここにいることを三人に伝える。
「なるほど、それはわかっただがどうやって父上を?」
ライルは疑問を抱いていた。
「あのね、突然剣が出てきたと思ったらステラお姉ちゃんは剣を取り出して何かしらの詠唱を始めたの」
メルダがライルたちに何があったか伝えようとする。
「そ、そうか、何はともあれ父上が無事で何よりだ」
その説明ではなんとなくしかライルにはわからなかった。
「三人とも済まぬな心配をかけて」
「いえ父上が回復してくださって私達は安堵しております」
「そうですね、父上が回復したのなら私達が争う必要が無くなるということですね」
「まぁ、僕もグラン兄上もライル兄上が王位に付くことを認めたから、そこまでひどい事にはならなかったと思うけど」
「ほう、そうだったのか」
三人の言葉を聴き、レグルスは安心したような顔を浮かべる。
「しかしグランとニコルはもう少し抵抗するかと思ったのだが」
「私は元々、家族と争うのは引け目に感じていましたので」
レグルスはグランの言葉を疑いはしなかった。なぜならグランはライルと似て家族思いなのを知っていたからだ。
「それでニコルはどうしてだ?お前は王の椅子に興味があったはずであろう?」
「簡単、王の椅子よりもテオドールの報酬のほうが魅力的だったから」
「その報酬はなんだ?」
「それはいえない」
「犯罪に手を染めるようなことは」
「しないしない」
その後もレグルスの追及をのらりくらりとはぐらかす。
「にしてもやっと争いが終わるな」
ライルの一言にレグルスも同調する。
「そうだな、我が回復し元通りになれば問題なくなるだろう」
{ん?}
この場にチールの声が聞(?)こえる。
「どうしたのだ」
{今テオドールから連絡あったんやけど、どうやら明日使者が来るらしいで}
「使者だと」
{そうやテオドールが作った国からの使者や}
「え、もうできたのですか?」
国ができたことを知らないステラ達は困惑している。
{まぁテオはんとオルはんが本気で国を作ろうとすれば3日と経たずに作れてしまうで~、というわけで明日使者が来るからで迎え頼むと言っとったで}
「急過ぎる、準備にも時間がかかるのに」
チールの言葉にレグルスは困っている。
{ちなみに準備できてへんなら実力行使で来るんと}
この言葉にステラの顔が引きつる、それと同時にルナリアも固まった。
「二人ともなぜそんな顔をしているんだ?」
グランは不思議そうな顔をしている。
「グラン、使者のほうはわからないけどテオドールのほうは単独でこの城を落とせるのよ」
「え?!それは本当ですか姉上」
グランはルナリアに驚き本当か確かめる。
{今の体じゃあろくに動けんと思うから、サービスしたる}
チールの額にある赤い宝石が一瞬だけ輝く。
{これですぐに動けるようになったやろ、ベットから降りてみ}
レグルスはベットから降りてみる。
「本当だ、先ほどまで少しけだるかったが今はなんとも無い」
{本当は体も元に戻そうかなと思ったんやけど、さすがに急に変わると怪しまれると思おて外見はそのままにしといたわ}
「気遣い感謝する」
{そんなら明日の使者の件よろしく頼むわ}
翌日は朝から王城が騒がしかった、なぜなら
「皆の者、心配を掛けたな」
玉座には王に相応しい衣装をしたレグルスが座っている。
陛下が回復したことが公表されたからだ。
「陛下が無事御回復なされたことに我々も安堵しております」
レグルスの前方には何人もの貴族が跪いている。
「うむ、それでは我が寝ていた間に起こったことを報告してくれ」
レグルスのこの言葉に何人もの大臣が現状を報告する。
一通りの報告が終わると。
「ふむ、なるほど先程報告にあったラガラ王国軍についてはどうなっておるのだ」
「現在、王子達が討伐軍を編成しております。そしてその後ろに軍を配置するようにしております」
「王位継承者をその戦いで決めると聞いたが、息子達の身は安全なのだろうな」
「ご安心を近衛兵から数名を殿下たちの護衛につけます、さらに敗北しそうになれば近衛兵にはどのような事態になっても撤退させるように指示しております」
こう王に告げる。だが王は納得しない。当然だ既にチールや息子達からどうゆう目的でこの策を取ったかを知っているからだ。
王が不機嫌になったのがわかったのか報告した貴族が怯える。
する突如、部屋の扉が空けられる。
「父上、ネルファイスの使者が到着しました」
「ご苦労だ、グラン」
やってきたのはグランと以前とは違いキチッとした服を着ているクレアだ。