いじめられっこの王様
自分の言いたいことを言った。
僕に役職がついた。
「いじめられっこ」
生まれたばかりの子猫をいじめてる奴がいた。僕は可愛そうだからやめてあげてと言った。
次の日、子猫をいじめてたのは僕ということになっていた。
僕はいじめていない、ヒーローは堂々としてるもんなんだ。
その日、正義は負けた。
幼稚園のころから、仲良くしていた。美佳ちゃんも、一緒に遊んでた奴らも、僕の側には近寄らなくなった。
机にはいたずら書き、僕の表情を見て笑ってる奴ら、周りでちらちら僕を見ながら陰口を叩いてる奴ら、聞こえてるつーの。
悲しかったよ。辛かったよ。どうしていいかわからなかったよ。
両親は心配していた、遊びにいかなくなった僕、暗い顔の僕、事情を泣きながら説明してる僕。
父は、おまえは間違ってない、強いなと頭を撫でてくれた。母は、泣きそうな顔をしていた。二人を見て僕は泣いた。
翌日、両親は先生に会いに行った。
「わかりました、様子を見ておきます。」
なにも変わらなかった。
「お腹すいたにゃ。」
「ご飯ちょうだいにゃ。」
あのとき助けた二匹の子猫は今日も元気に泣いている。
「クロ、シロ今ミルクあげるね。」
僕のことを必要としてくれるのは、両親と君たちだけだよ。
五年生の夏、僕は教室で一人きりになった。
暑かった夏が終わり、段々と涼しさが増してきた。僕は相変わらず一人です。
不思議だね。なんで僕一人に対してみんなでいじめるんだろう。
「それは君に対してみんなでかからないと勝てないからにゃ。」
「君の力が怖いんだにゃ。」
ヨチヨチ歩きのクロとシロは僕の膝の上でそっと眠りについた。僕は君たちの暖房じゃないんだけど・・・
いや、暖めてもらってるのは僕か?
動けなかった僕は、足がしびれて悶絶した。起こされたクロとシロは文句がありそうだったが、ご飯の時には機嫌が直っていたみたいだ。
僕は、余りに余った時間で絵を描くことにした。だって、誰も遊んでくれないからね。
学校の休み時間はいつも絵を描いている。
スケッチブックにクロとシロを書いている。
担任も僕のことを無視するようになった。授業中も絵を描いていていいかもな? 僕はわくわくしていた。
五年生の秋、僕は幽霊みたいな存在だった。
ちょっと元気になった僕を見て、両親は喜んでいた。父は時間があると遊んでくれようとした。母はちょこちょこ部屋を覗きに来る、ちょっと鬱陶しい。
クロ、シロ動かないでよ。書けないじゃないか。
「遊んでほしいにゃ。」
「遊べにゃ! 」
仕方ないなぁと顔が緩んでる僕がいる。部屋の中で転げ回る三匹、あー楽しい。
五月蠅かったのだろう、母が覗きに来た。
三匹は怒られた、でも、お母さん、顔笑ってるよね?
机の中にゴミが入っている。子供のすることだな、フツと笑う僕がいる。
僕も子供だけどね♪ あー本当に変になったなと感じる自分がいた。
五年生の冬、自由になった僕がいる。
今年の冬はあまり雪が降らなかった。もうすぐ春だというのに急な大雪、窓も雪で真っ白に、僕は小さい雪玉を作って、クロとシロの方に転がす。
すかさず臨戦態勢の二人、前足でコチョコチョやってる姿が可愛い。散々遊んで雪玉を潰した二人は僕に寄ってきた。
「さむいにゃ。」
「冷たいにゃ。」
僕の服の中に濡れた体でまとわりついてきた。自分が雪を投げた手前、僕は我慢してその冷たさを満喫した。
次の日、風邪をひいた。寝込んでいる僕にクロとシロは寄り添っていた。なにかを言ってた気がするが、熱のある僕には聞こえなかった。僕はそのまま夢の中へ・・・
元気になった僕はクロとシロに聞いてみた。昨日なにか言ってた?
「にゃ-」
「にゃ~ん」
クロとシロはいつも通り僕にすり寄ってきた。
六年生の春まぢか、冬が遠のく足音が聞こえた気がする。
「よぉ、おまえいじめられてるんだってな? 」
新しい学年が始まりクラス替え、いきなり話しかけてきたこいつは太一、少しやんちゃで変わってるって、誰かが話してるのを聞いたことがある。
僕に話しかけるといじめれちゃうよ?小声でこっそり言い、彼との話を終わらせた。まだ彼はなにか言いたげだったが、僕はまた、僕の時間に戻っていった。
クロ、シロおいで、冬が過ぎ少し暖かくなった庭に出て、クロとシロと遊んでいる。ヨチヨチ歩きだったクロとシロは少しづつ大きくなっていた。
無邪気に笑う二匹を見て笑っている僕、笑えている自分が嬉しかった。
ありがとう。
クロとシロはこっち向いてキョトンとしてから笑った気がした。
「あんたさ、猫好きよね?」
登校中、隣に住んでる美佳ちゃんから声をかけられた。好きだよ。
「そっ・・・ わかった。」
彼女は、そのまま足早に登校していった。彼女は六年生も同じクラスになっていた。
六年になって、担任も替わった、前の先生は、別の学校へ異動になっていた。僕の世界に必要ないから興味ないや♪
下校中、道の途中で子猫の鳴く声が、捨て猫かな? 小さい猫がダンボールで寝ている。紙皿も置いてある誰かが面倒をみてるんだろう?
あんまりあんまり元気がないな、少し下痢をしているっぽい。
僕は猫用ミルクを買いにいって戻ってみると、そこには太一がいた。面倒見てたのは彼だったようだ。給食の牛乳を与えていたのだが弱っていって困っていたらしい。
「俺、父ちゃんと二人だから、飼ってやれなくて・・・」
明日から飼ってくれる人探そう。太一は喜んでいる。やんちゃだって聞いてたけど、悪い奴じゃないのかもな?
次の日。
「今日から俺もいじめられっこな。」
みんなの前で高らかに宣言しやがった、やんちゃと噂の太一の言葉で、クラス中静まりかえった。せっかく自由にしてたのに・・・
太一だけ歯を見せて笑ってる。このしたり顔を写真にとって見せてやりたい。
その日から僕の世界の住人が一人増えた。
放課後、子猫を飼ってくれる人を探すことに、張り紙を作るため、僕の家に太一が来ることになった。子猫も見つかるまで家で預かることにした。
太一を太一を家に連れて行った時、母親がうれし泣きして、太一を驚かせていた。
クロ、シロお客さんだよ。猫好きの太一は飛びかかる、二匹を抱きしめる。二人は暴れて逃げようとしている。
「「うざいにゃ! 」」
解放された二匹は、自分たちよりさらに小さい子猫に興味津々である。
「俺さ、猫をいじめた奴がいるって聞いたからぶん殴ってやろうとおもってたんだ。聞いてた話と違うしさ、実際会ったら猫好きだし」
僕は、半年前に起こったことを太一に話すと、太一は今にも飛び出して行きそうな気配で怒りだした。
「そいつらぶん殴ってやる! 」
太一が殴ってしまったら、自分はそいつらと一緒になってしまうからと、説得し、なだめるのにすごい時間がかかってしまった。
途中、大声を聞きつけた母親が、心配して入ってきて、太一と意気投合し声を荒げていた。
結局張り紙は全然進まなかった。太一は母に両手一杯のお菓子をもらい、落としては拾って帰って行った。
父はそれを聞いて大爆笑、僕の頭に手をおいて一言。
「よかったな。」
久しぶりに泣きそうになった。
クロとシロは小さな子猫に寄り添うように寝ていた。
「絵上手だな。チビそっくりだ」
いつの間にか僕らは子猫をチビと読んでいた。一人でいるとき絵ばっかり描いてたからね。
僕らは、コピーしたくて新しい担任にお願いに行った。
「かわいいイラストね。どっちが書いたの? 」
担任の真弓先生は快くコピーさせてくれた。
掲示板に貼る許可も。
二手に分かれて張る作業をしていると、遠くから美佳ちゃんがこっちを見ていた。
数日後、登校中、美佳ちゃんに呼び止められた。
「うちのお母さんが猫飼っていいって言うんだけど・・・見せてほしいです。」
僕の答えはもちろんイエス、太一に話すと、お前をいじめた奴らの一人だろ?と納得いかなそうだった。
お前も俺を殴る予定だったんでは? 僕は言うのを我慢した。
「かわいい♪」
チビを抱っこしてほおずりをしてる美佳、我が子を取られたような複雑そうな太一、美佳はチビを置いた後、クロとシロに突撃した。
「「うざいにゃ! 」」
クロとシロは逃げ回っている。たまに助けを求めるようにこちらを見ている気がする。すまん、ふがいない僕を許してくれ。
「あんたが猫をいじめたって聞いて、そんなことないって思ったけど、近づいたら私もいじめられるから、窓からクロとシロと遊んでるあんたを見てやっぱり違うんだってわかったのに、ごめんなさい・・・」
泣き出した美佳、動揺する太一、塩の容器を持って動揺する母、母よ、何をする気だった。なぜここにいる?
「美佳ちゃん、良いのよ。あなたがいじめられたら悲しいもの。」
「おばさん・・・ 」
あれ?なんか抱きあってる。塩の容器を隠しながら・・・
チビの貰い手が決まった。
その晩、チビのいなくなった部屋、クロとシロは僕のベッドに入り、顔の側で二人とも横になった。
「わたしがいるにゃ。」
「わたしじゃ、ふまんかにゃ? 」
チビがいなくなってさびしいのは僕か? クロとシロか?
六年の春が終わろうとしていた。永かった冬も終わろうとしていた。
「こいつは猫好きよ。猫と一緒に寝てるんだから、里親募集の張り紙も見たでしょ? 噂なんて信じないで、それでもこいつをいじめるなら、先に私をいじめなさい! 」
興奮さめやらぬ美佳は、こっちを向いてドヤ顔をしている。太一もつられてドヤ顔をしている。僕は一人顔を隠している。ちょっとにやけながら・・・
僕に嫌がらせする奴はいなくなった。
部屋に帰ると、クロとシロが寄り添って甘えてくる。
僕は、クロとシロに尋ねる。正義は負けてなかったのかな?
「あの時から君はヒーローにゃ」
「私たちの世界の王様にゃ」
僕の顔を見上げ、そっと囁くクロとシロを優しく撫でた。
僕の小さな世界は広がっていく。