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エピローグ:虹の彼方に

※本編の内容で満足いっている御方は読まなくて結構です。どうしても真実を知りたいあなたは読んでください。あなたの自由にお任せします。

 拝啓愛している貴方へ。



 貴方と出会ったのはお互い同じ会社で働いていた時の話。最初は恋人でも友達でも何でもなかったね。窓際の仕事に黙々と取り組む貴方に私がお茶くみをしてあげた。それがそもそもの出会い。



 あんなに話す人だと思わなかったもの。貴方が私をひっぱってくれなかったのなら、私たちはずっと他人だった。



 貴方は温かい人だった。愛し合った時も子供を授かった時も貴方は誰よりも慈悲深い心で接してくれていた。



 両親の愛に恵まれた貴方はその愛をこれからの人間に授けようと頑張っていた。好きな登山も水泳も料理も子供に熱血をこめて教えている貴方の姿は、何よりも頼もしかった。



 もしも、もしも神様が実在するのなら、私は神様を憎みたい。



 貴方と琢磨は若くして逝ってしまった。忌まわしい記憶が今も私たちの脳裏に焼きつく。あれは私たち家族と地域の登山サークルで登山をしていた日のことよ。突然の大雨と大規模な土砂災害が私たちを襲った。20人の参加者がいて、死者はたった2名。そのたった2名が貴方と琢磨だったなんて……



 ああ……思い出したくない……だけどこの現実と向き合わなければ、私はこれから先に進めない。頭がおかしくなっちゃいそうなの。



 私たちが貴方達を見つけた時、貴方は血まみれになって血まみれになった琢磨を抱いて泣き叫んでいた。その時に私は貴方が生きているものだと安堵していた。でも現実は違った。



「脳の損傷が激しいですね。重度の脳障害に余命も長くはありません」



 医者が告げた現実に私は愕然とした。何もかもが絶望にみえて仕方なかった。



 美奈子もそう。思春期に入って気持ちが激しく揺れる彼女はより不安定な娘になった。でも彼女は立ち上がったの。私が職場で倒れてしまった時、病院に1番に駆けつけてくれた。学校を無断で抜け出してね。



 ほんと迷惑のかかる娘なこと。誰に似たのかしらね?



 だけど彼女が立ち上がれたお蔭で私も何とか立ち上がれています。



 ここから少し、ううん、だいぶ話し辛い話をします。



 私ね、再婚することにしたの。私と同じ境遇で早くに奥さんを亡くされた男性と。年齢も年齢だしね、貴方との間で芽生えたような恋からではないのだけど。歳不相応かなってときどき思っています。



 意外かもしれないけどね、私の背中を押してくれたのは美奈子だったの。私ははじめから再婚する気はなかった。それでも2度倒れてしまった私を放っておけないらしくて。ちょっと親子喧嘩にもなったけど、お陰様で私は幸せに過ごせています。そして何とかこれからの老後も穏やかに過ごしていけそうです。



 厭味ったらしいことを話してごめんなさい。だけどこれだけは言わせて欲しい。




 私はあなた以上に愛せる人はいません。今でもこれからもずっと永遠に。




 ねぇ? あの日のことを覚えている? あれは貴方が天国に旅立つ少し前の日のことだった。あの日は梅雨明けも間もなくて雨が突然降ったり止んだりな1日。まさに私の嫌いな天気だった。おまけに貴方は寝たきりの状態が続いていたの。私も腹を括って貴方の傍に座っていた。美奈子も私の後ろにそっと立っていた。貴方ってばね、覚えてなんかいないのだろうけど、寝たきりになるまではずっと部屋の中で暴れまわっていたのよ? 私は事情をよく知っているから平気だったけど、美奈子はずっと変貌した貴方を恐れおののいていた。だからその日も壁際に寄り添って貴方に近づこうともしなかった。



 それでね、話を戻すけど、私たちが病室を出ようとした時に貴方が立ったの。奇妙なことにね、ドシャ降りの雨もその少し前に止んでいたの。固唾を飲んで私たちは貴方を見守っていたわ。貴方ってば、そのまま窓際に歩き出すもの。



 あなたが開けた窓の先には虹が架かる空が映えていた。



 私は涙が止まらなかった。こんなことってあるのだなって。美奈子も泣いた。あれは貴方から私たちへのプレゼントなのかなって今でも思い出すの。



 忘れもしない。あの時の貴方は眩しいほどに微笑んでいた。



 私も笑おうって思っていたけど、笑えなかった。本当にごめんなさいね。でも驚いて仕方がなかったの。



 結局看護婦さんが見つけて貴方はベッドに戻されたけど、私たちには充分すぎるほど贅沢な時間だった。



 ごめんなさい。喋り過ぎました。



 そろそろ行かなくちゃ。



 美奈子はとっても綺麗な白い薔薇を貴方に用意したけども、私はぺちゃくちゃ話をするばかりね。本当にわがままな女でごめんなさい。



 あの狭い病室にいた貴方は貴方の思う貴方ではなかったのかもしれない。でも私にとっては誰でもない、愛おしい遠藤龍馬さんに変わりはなかったの。



 最後にね、これだけ言わしてください。これからもずっと貴方を愛しています――



 元木絵美子(遠藤絵美子)

∀・)完結と見せかけて、エピローグの公開をしました。あはっ♪騙しちゃってゴメンナサイなさいね♪しかしこのお話はあくまでエピローグです。“彼が体験したこと”が、この物語の本題なのです。そう受けとめて貰えればと思います。ではでは今度こそ本当にごきげんよう。最後の最後までお付き合いありがとうございました!!

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― 新着の感想 ―
[一言] ネタバレになるのであまり沢山は書けないのですが、よく練られた構成で、最後まで読んで、みなさんの感想を読んで、また読み返してなるほど……と思いました。 1日1日を別の色の部屋で表現し、主人公が…
[一言] 読ませていただきました 不思議な雰囲気のお話だなあと思いながら読み進め、気になって最後も読みました なるほどなあと言いますかうまく言えませんがすごく面白かったです 読みに来てよかったです!
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