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6日目:紫色の部屋

 目を覚ますと紫に装飾された部屋に俺はいた。



 この部屋には何もない。あるのはベッドと壁際にある洗面台のみ。洗面台には丁寧にもコップが置いてあった。その同じ平面の反対側にドアがある。俺はドアノブをまわしてみたが、開かない。鍵がかかっているようだ。




 まるで独房。いや、これぞ本物の独房だ。




 俺は立ち上がって、洗面台まで行って、コップをとってうがいをした。する事なんてこんな事ぐらいだ。舐められたものだ。寝起きはいつも憂鬱なものだが、今日はいつもに増してそうである。



 洗面台まで十歩もかからない。それなのに、うがいをし終えた途端に俺は体がよろけてしまった。どうしたのだろう? 急に目がフラフラしだして、急に体がだるくなる。



 やむをえず俺はベッドに駆け込むように転がりこんだ。



 ベッドに横になった途端に痛みが俺を襲う。



「あああああああっ!!」



 その痛みは背中からはじまって手先から足先まで体全体に広がるように滲んで俺の肉体を侵食していった。




 どれほどの時間がたったのだろう。呼吸がまだ落ち着かないが、痛みを感じることはなくなった。




 そうか。俺は病人なのか。そうわかると苦笑いが止まらなくなった。



窓替わりの通気口を見てみると外は陽が沈みかけている。



 ふとドアをノックする音が聴こえた。間もなくドアが開いて眼鏡をかけた壮年の医者が俺の前に現れた。くたびれた顔と違って、狭い部屋に充分に響きわたる程その声には覇気があった。



「どうかね? 調子は?」

「よく……ないです……」

「そうか。じゃあ、ゆっくり休まんとなぁ」



 医者は俺にタオルケットをそっと被せるとさっさとこの部屋を去ろうとした。



「先生!」



 俺は立ち去ろうとする医者を呼び止めた。俺の精一杯の声に反応した医者の顔つきは、やっぱりくたびれたままだ。



「先生、僕は……僕は病気なのですか? 僕は何もわからない。家族のことも、自分の名前も……お願いです! 教えてくださいよ! 僕は何なのですか!?」



 医者は溜息をつき、首を横に振ってドアの向こう側にいなくなっていった。



「おい!! 何とか言ってくれよ!!」



 俺の罵声はドアの鍵がかかる音とその後の静寂にかき消された。そして激しく感情的に動いた俺の肉体は軋むように再び激痛に苛まされた。




 俺はただ何もできない絶望に打ちひしがれた。俺は俺のことすらも教えて貰えないのだ。天井か窓替わりの通気口をただボーっと眺めて過ごした。



 いつの間にか部屋の電気が点いた。紫の色に染めあげられていく部屋。



 俺はただ無気力に部屋の中で時間が過ぎていくのを感じて過ごした。



 やがて眠気が俺を誘いだし、俺の意識は暗く濁った闇の中へと潜っていった。



A・)あやしい雲行きとなりましたが、明日でいよいよ完結です。また明日お会いしましょう。

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