5日目:青色の部屋
目を覚ますと青に装飾された部屋に俺はいた。
また電話のベルが鳴っている。やれやれと俺は立ち上がった。
「遠藤! 例の課題は今日までだぞ! 忘れないようにしろよ!」
「え、あ、はい。すいません」
耳元に痛く響いた電話はたった一言で切れた。俺も凄く眠たいので、何となく返事を返しただけだった。寝ぼけた感じの応答でも致し方ないだろ? 目を擦り部屋を見渡す。
「何だ? これ?」
あたりは書類の山に囲まれていた。部屋の広さが狭いから余計に狭く感じる。
やれやれと思った俺はとりあえずシャワーを浴びることにした。
シャワーを浴びながらもの思いに耽る。
そういえばさっきまで痛かった体の痛みが全くなくなっている。寝違えたのか? まあ、何でもいい。丈夫じゃない身体とは言え、一応健康体みたいだ。
シャワーを浴び終えた俺は着替えで唯一用意されていたクールビズに着替えた。
さて、これからどうするか。
朝ごはんのバナナを頬張りながら書類に溢れている部屋を見渡す。
とりあえずはなるべく数カ所に集めて空間を確保したい。俺は片づけを始めた。
整理整頓をする中で俺は1枚の写真を見つけた。
髪は薄い茶髪でショートカット。おっとりした目つきに合わせるような、おとなしめの洋服を着ている。カメラに向かって笑顔でポーズをとっている。これは誰だろう。美人さんだなぁ。
「美人さんだなぁ」
おっと、これはいかん。作業に集中しなくては。日が暮れてしまう。
俺は何とか部屋の片づけを済ませた。一段落ついてからは、腹ごしらえをしたくなったので、料理を作ることにした。部屋を片付ける中で俺は面白いレシピが書かれた1枚の紙を見つけたので、それを作ってみることにした。丁度いい事に冷蔵庫の中には野菜などの必要な材料が全部揃っていた。
俺はアボガドのサラダと手の込んだパスタを作ってみせて、食べることにした。ご飯が炊くのに合わせて凝りに凝って作った料理だ。我ながら美味い。
ご飯を食べながらも俺は整頓の中で見つけた写真をじっと眺めた。
すごく美人なのが気になるわけじゃない。
記憶の片隅になんかこう……ひっかかるものがあって……。
俺が何かを閃こうとした瞬間、後ろから「カチッ」とドアが開く音がした。
俺は音がしたドアの近くにそっと近寄り、そっと開けた。
そこにあったのは大きな屋内プールだった。
「あれ? ここは?」
俺は唖然としていたが、どこか冷静にこの状況を受け止められそうでもあった。周囲をよく見渡す。やっぱりそうだ。俺は昨日もここに来ていた。
ハッキリと何かが蘇った。その瞬間だった――
上から段ボールが降ってきた。俺から少し離れた位置にそれは転がった。どこから降ってきた? 俺は上を見上げてみたが、全く見当がつかなかった。まあ、そんなことなんてどうだっていい。問題はこの段ボールが何かだ。
おそるおそる段ボールに近づく。そしてゆっくりとガムテープで閉じられた箱を開けてみた。中身を見た途端、俺は笑いが止まらなかった。てっきり爆弾とかみたいなのが入っているかもって思ったけど、それはとんでもない俺の杞憂だ。
俺は随分古びた水着を手にした。辺りを再度見渡す。誰もいないのは確かだ。
俺はその場で水着に着替えた。恥じらいなんてものはなかった。ただ本能の趣くままに、我慢ができずに、着替え終えた俺はプールの中へ飛び込んだ。
嗚呼! 気持ちいい! 超気持ちいいぜ!!
俺は時間を忘れて水泳に夢中になった。そうだ。昨日は泳ぎ足りなかったのだ。まだまだ泳ぎたかった。そんな時にプールへの扉の鍵がかかってしまったのだ。あの時は大人気なく泣いてしまった。だけどその悔しさがあったからこそ、今の噛みしめる喜びもひとしお大きいのだ。俺はクロールやらバタフライやら色んな泳ぎでプールを蹂躙した。
どれだけ時間が経っただろうか。ある程度は疲れたので部屋に戻って休むことにした。いや、今日はもうこれだけで良い。それぐらい俺は充分な時間を使って泳ぎきったのであった。
タオルで水を拭き取りながら部屋へ。すると想定外の事態に俺は言葉を失った。
整理整頓した筈の書類の山がまた部屋中に散らばっていたのだ。誰が? 何のために? 俺は混乱して沸騰する頭の中を冷やすべく、急いでシャワーを浴びた。
制服に着替えなおしても書類の散乱は直ってなかった。そりゃそうか。
俺はやれやれと思いながらも部屋の片づけを再び始めた。
また1枚の写真を見つけた。
1人の女性が写った写真。俺は暫く見惚れ続けた。
陽が沈んだので、部屋の電気をつけた。ライトは青に着色してあり、部屋中が蒼く光照らされる。こんな雰囲気の場所で作るのもどうかと思ったが、俺は夕飯を作った。材料が揃っているので手の込んだポトフを作った。我ながら美味い。
片付けは難航を極めていたが、夕飯後に何とか済ませることができた。
気のせいならそれでいいが、午前中に片付けた量より明らかに増えている気がした。これが誰かの嫌がらせだと言うのならば、これほど質の悪い嫌がらせはないだろう。俺は片付いた部屋を見渡して一息ついた。そこで部屋の電話が鳴った。
「もしもし」
『お~遠藤! 今日は助かったよ! 冷蔵庫に褒美があるから、遠慮せずに受け取ってくれ! 明日も頼むな』
「え? あの、その、はい?」
電話はあっけなくあっさり切れた。今朝と同じ年配の男性だ。用件を済ますと、すぐで電話を切る短気なタイプ。苦手だが俺の上司らしい。
さて褒美があると言うのなら、その褒美を受け取ろうじゃないか。俺は冷蔵庫の中をさっそく探ってみた。
冷蔵庫の中にビール缶が2つあった。奥にしまってあったのだが、いつの間に誰が置いたのだろう? でも悪い気はしない。
俺は少し考えて風呂に入ってからビールを飲むことにした。
風呂上がりの一杯。スカッとした飲み心地に俺は心を癒された。
これだな。大人になってわかる気持ちっていうのは。
写真を手にとる。不意に俺の口から言葉が漏れた。
「絵美子……」
俺は急に眠たくなった。頭がフラフラする。頭痛も少しする。
俺はそのままベッドで寝ることにした。
∀・)生きていりゃ気になって手がつかないことの1つや2つあって当然です。だって人間だもの。また明日もお会いしましょう♪♪