2日目:黄色の部屋
目を覚ますと俺は信じられない光景に目を疑った。ベッドの隅々まで滲み込むそれは俺の体液だ。汗とかそういう類のものではない。匂いからして違うものだ。これが何なのかは察して欲しい。とてもじゃないが恥ずかしくて言えない。
俺は体を起こして周囲を見渡す。
「あれ? こんなのだったっけ?」
どうやら俺は黄色に装飾された部屋の中にいるようだった。
壁に立てかけてある鏡を見る。下半身を主体に白い寝間着が黄色に汚れていた。何より体に滲んでくるこの感触が気持ち悪さを助長して止まなかった。
部屋には2つドアがある。左奥にあるドアは鍵がかかっていたが、同じ平面にある右奥のドアはすんなり開けることができた。中には丁度良いことに風呂場があった。寝室と同様に黄色の装飾がなされていた。
俺はすぐに寝室に戻るとあたりを物色した。ベッドの近くにタンスやら物入れやらが並んで置いてあり、すぐに着替えの衣類が取り出せた。今になって意識をすることができたのだが、どうやら俺は紙おむつを穿いているようだ。
俺は病人なのか? ここは病院なのか?
疑問は尽きないが、聞く宛てもないので気にしないことにする。
俺はさっさとシャワーを浴びて新しい服に着替えることにした。新しい服? いや、新しい寝間着と言った方が良いか。それしかなかったのだから仕方ない。
着替えてからは低い机に合わせるようにして座って落ち着くことにした。
改めて部屋を見渡してみる。なかなか広い部屋だ。黄色く塗られた壁に部屋の中央に置かれたガラス板の机も綺麗な清潔感を彩っているようだ。そしてその机の上にはこれまた美味しそうなベーコンエッグと良い感じで焦げたパンが置いてあった。その横にある牛乳と一緒に頬張ろうと思ったが、さっきからするきつい悪臭が鼻を突いてその気にさせてくれなかった。
よく見れば洗濯機が置いてあったりもするし、雑巾やモップなどの掃除用具も部屋の片隅におとなしく置いてある。浴室近くには御丁寧にもハンガーが掛けてある物干しスタンドが設置されていた。そういえば風呂場は確か3点ユニットのユニットバスだったな。頭の整理がついた俺はさっそく動き始めた。
俺はすぐさま掃除を開始したのだ。
掃除と言ってもベッド含むベッド付近の清掃ぐらいだが、新しいシーツを敷くなどの作業はなかなか骨が折れるようだった。どうやらそんなに頑丈な体でないらしい。これがリハビリか何かの目的でさせられているのなら、プランをたてた人間に文句を言ってやりたいところだ。
でも、どうだろう? 俺は掃除をしている最中に生き甲斐のようなものまでも感じてしまっていた。それは俺が人間である証ということだろうか。
洗濯機がまわる音を聴きながら俺は用意された食事をじっくり味わった。
そういえばこの部屋には台所と言えるようなスペースがない。ということは、つまり誰かが外から持ってきたということか?
俺は鍵のかかったドアをじっと見つめた。別にこれでドアが開くわけでもない。
まぁ、ここから出られたとして、俺には記憶も何もない。ここで安穏に暮らしていく方が幸せなのかも。ちょっと動くだけでも骨身に応えるみたいだし。
掌を広げてじっと見つめる。
俺は一体誰なのだろうか? 俺はどうして生きているのだろうか?
ぼーっと思いに耽っているうちに洗濯機が洗濯終了の合図を鳴らした。
白い寝間着とTシャツにシーツ類の敷物を物干しスタンドに干す。本当は外で干したいのだけど、外に出られない以上はそんな文句も言うべきではないな。
どうだよ? こんな律儀な病人もしくは囚人なんていないだろ?
俺は得意気な顔をしてみせて鍵のかかったドアを睨んでやった。
机の方に視線を戻す。空になった皿とガラスのコップが静かに佇む。今すぐにでも洗ってあげたいところだが、それもここでするべきことではない。
俺は立ち上がって今度はタンスと物入れの整理をはじめた。特に真新しい物は入ってなかった。強いてインパクトがあったと言えば、掃除で使用させて貰った無臭スプレーぐらい。その程度の生活必需品が入っていたと思ってくれればいい。
あとはやたら動物のぬいぐるみがたくさんあったこと。とても趣味ではないが、1体ほど可愛らしいウサギのぬいぐるみがあって、それだけは何故だか愛着が湧いた。いい歳にもなって何をしているのだか。だけど誰もみちゃいないのだし、少しぐらいは面白可笑しいことしたっていいだろう。俺は別の引き出しから見つけた木製のオルゴールと一緒にウサギのぬいぐるみを枕元に置いた。
窓替わりの通気口を見てみると外は陽が沈みかけていた。今日はこのぐらいでいいだろう。そう思った俺はベッドで横になった。何だかすごく疲れたようだ。
おやすみ。
∀・)大人になってからのお漏らしとか恥ずかしいですよね。作者的にも恥じらいを感じながら執筆していました(笑)また明日お会いしましょう。