91話 天使様は夢見がち
91話です。
この話はミハエルの視点です。
なので何時もとは違うのでは無いかと思います。
……VS魔物の群勢になってから、他キャラの視点が多くなっています。
すみませんm(_ _)m
まぁ、それだけ大きな戦いなんだなくらいに思って頂ければ幸いです。
91話 天使様は夢見がち
ーーーミハエル視点ーーー
私はシャインランスを放つ。すると光の槍は左側から迫ってきていたハイオーガの頭部を正確に穿ち、絶命させる。
「はぁ、はぁ。きりがないですね。」
これで私が倒したハイオーガは10体目だ。前線で戦う他二人はもっと多くのハイオーガを相手にして倒しているのだから泣き言は言えない。言えないが……。
「……あの二人は正真正銘の化け物ですかね?」
私の視線の先には20を超えるオーガやハイオーガを相手に奮戦を繰り広げるハヅキさんとラナンキュラスさんの姿があった。
いくら私の支援があるとは言え、あの数の敵をたった二人で抑える事は尋常ではない。
いや、抑えるどころかその数を減らしているのだから化け物と形容する他がないと言えるだろう。
ただ、そんな二人でも完全に抑え切る事は難しいらしく、何体かこちらへと流れてきてしまっている。
まぁ、その数も2〜3体程のもので私からすれば難なく倒せるレベルだから問題は無いと言っていい。
「……っと。感心してる場合ではないですね。私も加勢しないと何の為に此処へ来たかがわかりません。」
私は自分を叱咤する様に一言呟き、二人から一番遠い所にいたハイオーガに魔力を込めた矢を放つ。
放たれた矢は寸分違わずハイオーガの眉間に突き刺さり、その活動を停止させた。
二人から一番離れた敵を狙ったのは誤射を避ける為だ。今日初めて共闘する相手と完璧な連携が取れる筈が無い。
下手に近くの敵を攻撃してしまうと二人のリズムを崩しかねないし、最悪誤射してしまう。それなら離れた敵から倒す方が無難だという判断だ。
私は二人から離れた敵を攻撃しつつ、いつでも回復、防御系の魔法が展開できる様に神経を張り巡らせていた。
これは私がパーティーを組んで戦うときにいつも心掛けている事だ。
いくら私の攻撃で敵を倒せるからといっても私はヒーラーだ。いざという時に回復が出来ない、味方を守れないでは話にならない。
常に視野を広く、常に戦闘の展望を考えながら戦う。それがパーティーでの私の役割だ。
「……そう思っていたんですけどね。」
私は目の前の光景に思わず苦笑いする。
先ほどまで20を超える集団で二人を攻撃していたオーガたちは今ではその数を半分ほどまで減らしている。その間、わずか数分。
二人が如何に規格外な存在かを改めて認識させられた。
いや、正確にはラナンキュラスさんは此処まで化け物染みた強さだとは思っていなかったから、思い知らされたといった方が正しいんだろうか?
強いとは聞かされてはいたが、それでも精々CランクかBランクの人族の冒険者程度だと思っていた。
しかし、蓋を開けてみれば完全に人外じゃ無いですか!
それどころか、戦闘のセンスだけ見ればハヅキさんにも優っている様にも見える。
先ほどまで二人が攻撃を受けた時に、と備えていたのが馬鹿らしく思えてくる。目の前の惨状を目にしてどう備えろというのだろうか。
……それにしても彼女は何者なんだろうか。戦闘スタイルといい、種族といい、彼のハイエルフの御仁を彷彿とさせる。
私も実際に目で見た事は無く、文献で目にした程度だが、その昔、勇者様に同行し魔王を打ち滅ぼしたと言われるオフィーリア様にそっくりだ。
そして、そんな女性を従えている人物……。
彼の噂はちらほらと、どころで無く聞いている。
おそらく、この街に住む冒険者で彼の事を知らない者はいないのではないかと言う程の人物だ。
飛ぶ鳥を落とす勢いでBランクまで昇格し、その事を威張り散らすでも無く、淡々と依頼をこなして連日とんでも無い魔物の素材を持ち込む。
さらに彼がBランクに昇格するきっかけになったと言われるアレ。……たった一人でゴブリン・ハイロードの亜種を討伐したという化け物っぷり。
喧嘩っ早い者が多い冒険者たちでも彼に喧嘩を売るなんて馬鹿はこの街にはいないだろう。
……そういう意味ではラナンキュラスさんに手を出そうとした彼らはある意味、勇者と呼ばれそうだ。まぁ、底の無い愚者とも言うだろうけど。
考えれば考える程、ハヅキという人物が分からなくなってくる。
あれほどの強さがあれば、もっと前から色々と噂になっていてもおかしく無いと言うのに、出回るようになったのは約2ヶ月前になってからだそうだ。
しかも不思議な事にそれ以前ではまるで存在していなかったかの様に話を聞いた事が無いのだから、謎は深まるばっかりだ。
「……そう言えば。」
と、私はシャインランスでオーガを1体仕留めてふと思い出した。
ラナンキュラスさんがオフィーリア様に似ていると先ほど感じたが、そう言えばハヅキさんも黒い髪に黒い瞳で文献に載っている勇者様の容姿に似ている。
……偶然なんだろうか?
ハヅキさん以外にも黒髪や黒眼の人は大勢いる。
確か、東の方にある国の……アヅマ国だったかその国にはそういった人が多くいるらしい。
そう言った話がある以上、偶然だと一蹴しても何ら不思議では無いが、あまりにも出来すぎている気がする。
文献によれば、オフィーリア様と勇者様は仲睦まじい夫婦だそうだが、最初は奴隷とその主人という関係だったそうだ。
目の前の二人も奴隷と主人という関係だが、そんな事は微塵も感じさせない程に良好な関係に見える。恋人同士だと聞いても何ら不思議では無い。
そんなところ迄似ている。
私は先走る思考を抑えながら考えを掘り下げていく。
あの国で勇者召喚が行われたのはいつだったか……。そう!それも2ヶ月前だ!
ハヅキさんの活躍が噂され始めた時期と合致する。
……まさか?
いや、考えすぎだろう。
勇者様があの国で召喚されたのは事実だ。それならハヅキさんがこの国にいる事はおかしい。
普通に考えてあの国が勇者様が他国に行く事を許容するとは考えにくい。
でも……?
私は心臓がドクンと跳ねるを感じた。
私は生まれた時から勇者様の話を聞いて育った。
大軍を前に恐れる事なく魔物を倒す姿に憧れた。
弱きものを助け、悪しき者を滅する姿に尊敬した。
妻を愛し、信頼する姿に恋い焦がれた。
そしてそんな勇者様に仕え、支えるオフィーリア様に恥ずかしくも嫉妬した。
私はいつかは勇者様のお役に立ちたいが為に、あらゆる努力をしてきた。
当然、その努力が実らない可能性が非常に高い事は幼いながらに理解していた。
それでもと、当時の私では難しい文献を漁って知識を蓄え、戦闘でも役に立ちたいが為に、小さな頃からかなりの無茶をして魔物を倒してきた。その度に何度も死にかけたりもした。
そのせいで母親にはかなり心配をかけたが、私はその努力の甲斐もあって僅か20歳という年齢で有翼種の頂点たる十三翼議会の代表になった。
全ては勇者様のお役に立ちたいが為。
そして幸か不幸か、魔王が現れ勇者様の召喚の儀を執り行う事になった。
魔王が現れたと言うこともあり、私は表に出すという事はしなかったが、狂喜乱舞した。
ずっと憧れていたお方に会えるかもしれない。もちろん、同じ人物では無い事は十分に分かっている。
だけど、勇者様と同じ世界の方。それだけで心がときめいた。
世界を救う方のお力になれるかもしれない。それだけで胸が熱くなった。
そしてあわよくば勇者様と……。そう思うと胸が締め付けられた。
だが、その喜びも直ぐに消沈する事になる。あの国が勇者召喚の儀を行うというからだ。
あの国……ブリリアント皇国。
人族至上主義を掲げ、他種族を道具として扱う碌でもない国。
正直、魔王の軍勢よりも先に滅ぼすべきなんじゃないかと思う様な国だが大国であり、この世界で唯一の宗教国家であるが故に他国よりも大きな発言権を有している。
その為に他国も強く糾弾できないでいる。
そんな国に勇者様が召喚されたのだ。
有翼種の私がノコノコと勇者様に会いに行けばそのお顔を拝見するどころか、皇都に着いた途端に衛兵に捕まり、汚い貴族どもの性奴隷にさせられるだろう。
運よく逃れる事が出来たとしても、私はあの国では国家反逆罪にでも仕立て上げられるのがオチだ。
元とは言え、十三翼議会の代表の私がそんな罪を着させられようものなら、天城だってタダでは済まない。
私一人の想いで種全体に迷惑をかける訳にはいかない。そう思って勇者様にお会いする事は諦めた私だったが……。
私は今も尚、戦闘を続けるハヅキさんを見る。
残るオーガたちは3体……いや、今ラナンキュラスさんが倒したから2体だ。あと数秒で戦闘は終わるだろう。
ハヅキさんが手に持つ剣を振り、血飛沫が舞う。
酷く凄惨な光景の筈のそれは数分前とは打って変わって、どこか神秘的な美しさを感じさせた。
「……これは当てられましたかね?」
ハヅキさんが勇者様である根拠は一切無い。
ただ、文献と見た目が似ている事と召喚時期とハヅキさんの噂が出回り始めたのが一致しただけだ。
でも、それでも。私は高鳴る鼓動を抑える事が出来なかった。
私は何と都合のいい人間だろう。
お会いする事を諦めた方に会えるかもしれないと思った途端に妄想ばかりするのだから。
既に近しい方がいるというのに自分にも席はないかと考えてしまうのだから。
私が自身の浅慮さに苦笑いする中、新たな戦いを告げる咆哮が辺りを震わせた。
ご視聴ありがとうございます。
ブクマ、評価ありがとうございます!




