78話 街の危機とハヅキの気持ち
前回がとても中途半端な終わりだったので早めに上げます。
この辺りの話なのですが展開を広げたいがばっかりに、
かなり急な話になっているかもしれません。
なので身の周りが落ち着いたら書き直すと思います。
1月14日に改稿しています。
……もはやここまで来ると改稿というよりも新規書き下ろしのような気も……
原型をとどめていない気がしますw
78話 街の危機とハヅキの気持ち
「……どういうつもりだ?鍔鳴り?」
「「「「……。」」」」
ガルムはドスの効いた低い声で俺に質問を投げかける。そのせいか彼のパーティーメンバーも心なしか視線が冷たくなっている気がする。
……やっちまっったぁぁ〜〜!!!思わず反射で答えてしまった。この空気一体どうしよう……。言い訳しなきゃ!でもやばい!何もアイデアが思い浮かばない!!
「……あははは〜いや〜すみません。面倒臭そうだ思ってつい断ってしまいました。」
「面倒だと!?敵は魔族なんだぞ!?放っておいたらかなりの被害が出るかもしれないんだぞ!?」
「まぁまぁ、一度落ち着いてみてくださいよ。」
俺は猛るガルムをどうどうと宥める。
正直に話したのは失敗だったか?でも他に何も思い浮かばなかったし、仕方がないといえば仕方がない。それにケルヴィンの話には引っかかる点がある。
俺は猛るガルムは一旦放置してケルヴィンへと向き直った。
「まず、今回の依頼ですが首なし騎士のゲルバルドの討伐で間違い無いですね?」
「うん。魔物は他の冒険者でも倒せるけど、魔族相手だと厳しいと思うんだよね。数で押そうにもこちらにもかなりの被害が出ると思う。だから今回は少数精鋭で討伐してもらおうと思ってね。」
「……それだけじゃ無いですよね?」
「え?」
俺の追求にケルヴィンは思い当たる節がないのか首を傾げているが、俺にはある程度の確信があった。
「……森には現在多くの魔物が存在している。そう言いましたよね?」
「うん、言ったね。」
「それなら俺たちを誘き出して数で潰す作戦とは考えませんでしたか?」
「どうしてそう思ったんだい?」
「大量の魔物がカヴァルトの森に生息していて、なおかつその親玉とも言える魔族が一緒にその場にいるんです。そいつが魔物の指揮を執っていると考えるのが妥当でしょう。」
「うん。」
「で、俺が逆の立場なら敢えて偵察隊は逃がして本命の討伐隊を釣ります。その方が効率がいいですし、何より作戦が立てやすいですから。俺たちを倒す事が出来る確率はぐっと上がります。」
「うーん……。」
「自分の脅威に成り得る可能性を先に潰すのは争いにおける鉄則です。故に俺は罠だと考えます。」
「……。」
半分はさっきの失言の言い訳の様にも取れなくもないが、半分はキッチリと的を得ていると思う。
実際、先程まで射殺す様な視線を向けて来ていたガルムはかなり冷静になった様子で、俺の言葉に頷き感心の声をあげていた。
しかし、ケルヴィンは俺とは違う考えの様で、神妙な面持ちで頭を振った。
「ハヅキくんの考えは尤もなんだけどね……。僕の推察では少し違うんだ。」
「……と言いますと?」
俺としてはこの依頼はかなり面倒臭い上に、魔王軍にまで目を付けられる可能性があるため非常に頂けない。
しかし、ケルヴィンの言う推察が気になるのも事実であり、これを断れば俺の立場が悪くなり結果としてララを危険な目に合わせる可能性があるのも事実だ。
全く、前門の虎、後門の狼とはこのことか。
理想としては、ゲルバルドを討伐を受諾→ゲルバルドはたいした事ない→功績をガルムたちにバレない形で譲る。
これが出来れば良いんだが……。どちらにせよ、ケルヴィンの推察次第か。
「さっきも言ったけど、ゲルバルドは魔族の中でも末席とはいえ序列持ちなんだ。かなり強いと思う。」
「それはそうでしょうね。」
「そして彼は首なし騎士なんだ。生前は悪に染まったとはいえ、元は騎士だ。恐らく、彼の戦いは彼なりの騎士道に則ったものになると思う。……彼が手にかけるのは強者のみと言うね。」
「その話の可能性が全く無いとは言いませんが、説としては弱い気がします。」
「うん、これだけだと話にもならないと僕も思うよ?これはあくまで前提の話さ。」
……うーん、流石にこれだけじゃ判断がつかないな。
「……続きをお願いします。」
「彼の騎士道精神はある程度は証明出来るんだ。」
「偵察隊が死なずに帰って来た事ですか?」
「うん、そうだよ。」
「しかし、俺はそれが罠では無いかと言っているんですが?普通、自分よりも強い相手が来るかもしれないなら策を講じる筈です。もう一度言いますが、脅威になりうる存在を先に潰すのは争いにおける鉄則ですから。」
俺は眉を顰めてケルヴィンを見るが、当の本人は余裕の表情だ。
元の顔が良いだけあってかなりウザったらしい顔つきだ。……殴るぞ?
そんな俺の気持ちが伝わった訳では無いと思うが、ケルヴィンは一瞬顔を強張らせて口を開いた。
「そこなんだよ。」
「はい?」
「ハヅキくんの話はあくまでハヅキくんの方が強者だという視点で語られているんだ。正直な話、Dランクやそこらの冒険者にゲルバルドは討伐できないだろう。一般論として考えるなら向こうが格上の筈なんだ。」
「……。」
「それなのに偵察隊を見逃した。確かにこれを罠だと考える事はできるけど僕はそうは思わない。ゲルバルドからすれば偵察隊の冒険者を殺したところでやる事は同じなんだ。」
「同じ?」
「うん、さっきハヅキくんが自分で言ったじゃないか。ゲルバルドがあの魔物の大群を指揮しているって。」
「確かに言いましたけど……。」
「……なんでそんなたくさんの魔物を指揮して森に潜んでいるんだい?」
「……!?まさか!?」
俺は思わず目を見開き立ち上がった。
ララの方をちらりと見ると俺と同じ考えに行き着いたのだろう。かなり驚いた表情をしている。
しかし、ガルムは未だによく分かっていないのか不満そうな声をあげている。
「おいおい鍔鳴り!一体どうしたってんだ?」
俺は冷静に心がけようとするが少しではあるがパニックに陥っているらしく、呼吸が少し乱れているのが分かる。……はぁ。どうやら飛んだ災難に巻き込まれたみたいだ。
「……話はどこまで理解していますか?」
「あん?そりゃゲルバルドの野郎が森で魔物の大群を指揮してるって話だろ?」
そこまでは分かっているのか、それなら話が早い。
「それならガルムさんが魔物を指揮する立場に立ってみて下さい。普通、何もない所に軍を……兵を集めますか?多くの兵を集める時、何をしますか?」
「そりゃお前、せんそ……!?おいおいマジかよ!?」
「はい。奴はこの街を落とすために此処まで来たんでしょう。そしてケルヴィンさんの言いたい事は『偵察隊が帰ってこれたのは俺たちにブレストの街強襲の情報を与える事になっても、自身の誇りを優先したから』で罠の可能性はない。いや結局は数の暴力で全て潰すんだ、罠にかける必要すらないという事ですか。」
「その通りだよ!いや〜ハヅキくんは頭が回るねぇ〜。」
俺としてはガルムに説明をしたつもりなんだけど何故かケルヴィンが反応しやがった。しかも爽やか笑顔のグーサインで。……だからその顔殴るぞ?
「お世辞はいらないですよ。……俺たちにゲルバルドの討伐を依頼した理由は敵軍の瓦解が目的ですか。」
「……本当にハヅキくんは頭が回るねぇ………。」
俺の言葉にケルヴィンは苦笑いしながらも話を続けた。なんだ?自分で理由を言いたかったとかか?……この人ならありそうだな。
「その通り。指揮官を失った軍は烏合の衆も同然だ。そこを大規模な討伐隊を編成して一気に叩く!それが今回のブレストの街強襲に対する作戦だよ。つまり君たちにはこの作戦の一番槍を頼みたいんだ。」
「危険なのは承知している。その分報酬も弾ませて貰うよ。報酬は一人白金貨3枚、ゲルバルドの討伐で追加2枚とさせて欲しい。」
報酬が一人白金貨3枚と言ったところでガルムたちが騒ついた。
正直なところ俺も少し驚いた。白金貨3枚を一人ずつ配るとは思わなかった。それだけ今回の依頼に賭けているという事か……。
「最初にも言ったけど今回の依頼は『ゲルバルドの討伐』だ。でも最悪撃退でもいいんだ!だから頼む!この依頼を受けてくれないか!」
そこまで言うとケルヴィンは俺たちに深々と頭を下げて懇願した。この街のために力を貸してくれ、と。
「俺たちは当然受けるぜ。その為に態々王都からここまで来たんだ。」
ガルムが二つ返事で了承し俺を睨みつける中、俺は目を閉じて腕を組み、先の展望を見る。
そしてゆっくりと目を開き、ララの方を見る。
すると彼女は何も言わずにただ笑顔のまま頷いた。
……まるで俺の事は全て分かっているとでも言いたげだな。全くララには敵わないな。
俺は内心苦笑いしながらも、ケルヴィンを見据えて口を開く。
「分かりました。俺たちもこの依頼を受けましょう。」
この街に来て数週間、存外俺はこの街の事を気に入っている。
どれくらいかと言うと『え?この街魔物に攻められるの?それじゃバイバイ』とはとても言えないくらいには気に入っている。
つまり、魔族との戦闘なんて嫌で嫌で仕方がないが、ケルヴィンの話を聞いた瞬間、俺の答えは決まっていた様なものだ。
……本当に面倒臭い事には違いないが。
「…!?本当かい!?ありがとう!ギルドを……いや、この街を代表して感謝するよ!本当にありがとう!」
俺の言葉を聞いた瞬間、ケルヴィンは勢いよく立ち上がって感謝に言葉を並べながら俺に俺やガルムに向かって手を差し伸べた。
……喜ぶには早過ぎると思うんだけどなぁ。俺たちより強ければ正直、お手上げなんだけども……。
俺は若干苦笑いしながらも手を取り、ガルム達とゲルバルド討伐に向けて作戦を練り始めた。
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