71話 メイドオブメイドへの道8
これでララ視点は終了です。
次回から主人公視点に戻ります。
11月30日に一部改稿しています。
71話 メイドオブメイドへの道8
リカルデの街へと戻って来た私と師匠の家でゆっくりと過ごしています。
森で2日間の稽古を終えた私は、師匠に残り1日は家事なんかをしながらゆっくり過ごせと言われたからです。
なんでも『鍛えるだけが訓練ではない。休む事も大切だ。』と言っていましたが……。今更ですよ師匠。初日に聞きたかったです、その言葉。
ちなみにですが、街へ戻って来る時は当然のように地獄でした。
前にも言ったかもしれませんが私たちの行っていた森……名前をカヴァルトの森と言いますが、そこへは馬で3時間程かかります。それくらいの距離があるのです。
そんな距離を私たちは30分程で帰って来ました。
私は魔力の強化も回復魔法も使って文字通り全力で走りました。走りましたが、私の前を向き合うようにして走る師匠は笑顔で『まだ速くなるでしょ?』と平然と言い続けました。
……いえ、別に私は言い間違えたりはしていません。
師匠は全力で走る私の前をバック走で走っていました。……流石は師匠です。常識という言葉を鼻で笑います。
そう言った訳で私は2日ぶりに行う部屋の掃除や洗濯などをしたのですが……すぐに終わってしまい暇になってしまいました。
ちなみに師匠は『用事があるから少し家を開けるわね』と朝一番に言って、出て行ってから帰って来ません。……もうお昼ですよ師匠。
お昼ご飯も用意してしまい本当にする事が無くなってしまったので、瞑想でもしようかと思った時にドアの開く音が聞こえました。
「ただいま〜。」
どうやら師匠が帰って来ました。ご飯が冷める前に帰って来て良かったです。
「お帰りなさい、師匠。」
「はい、ただいま〜。いやー思ったよりも時間がかかったわね〜。あっ!もうご飯の準備をしてくれてたんだ。」
「はい、冷める前で良かったです。」
「じゃあご飯にしましょうか。もうお腹が空いちゃってね〜。」
そう言って私と師匠は昼食を食べます。
メニューはスープと出来合いのパンという簡素なものですが、スープには自身があります。
朝からじっくりと煮込んで野菜とお肉の旨みをしっかりと引き出してあるため、シンプルな味付けですがそれ故に深い味わいが出ていると思います。
「ん!このスープ美味しいわね!」
「ありがとうございます。」
師匠と私は会話もそこそこにご飯を食べ終えました。気に入ってもらえた様で良かったです。今度はご主人様にも食べてもらいたいですね。
「そういえば師匠は朝からどこへ行っていたんですか?……聞いてはいけない事ならいいんですが。」
「いえ、そう言う訳では無いわ。……これを取りに行っていたのよ。」
そう言って師匠は空間収納から服を取り出しました。それは師匠がいつも来ている服と同じ物でした。
師匠が着ている服はパッと見ではメイド服の様ですが、よく見ると違う気がします。
白と黒を基調としているところは同じなんですが、装飾が明らかに過多ですし、丈も膝上までしかないです。これで家事も出来なくは無いですが、汚れるかもしれないと思うと遣り難そうです。それくらい師匠の服は綺麗です。
まぁ、以前に師匠の服について聞いた時は微妙にはぐらかされたので詳しくは知りませんが。
「またその服を買って来たんですか?師匠。既に10着は持っていたと記憶しているのですが……。」
「違うわよ。これはあなたの分♪」
「私のですか?」
「そうよ。あなたにはこれを着る資格があるもの。まぁ私の訓練を無事に終えられたご褒美……いえ、選別だと思えばいいわよ。」
正直、私は師匠からご褒美や選別を頂ける様な立場にないと思うのですが……。
私は師匠に無償で稽古をつけて頂いた身ですし、寧ろご褒美なら既に頂いている気がするんですが……。
「あなたの考えている事は手に取るように分かるわ!でも待って頂戴!これには深〜い理由があるのよ。」
「理由……ですか?」
「えぇ。それにはまずこの服の事から説明しなければいけないわ……。」
そう言って師匠は服の説明をしてくれました。
どうやらあの服は勇者様やご主人様の世界のニホンと言う場所で生まれたそうです。そしてあの服は私が最初に思った通りメイド服らしいのです。
しかもただのメイド服ではなくてご主人様たちの世界でも『選ばれたメイドたちだけ』が着ることの許されるとても特別なメイド服だそうです。
そのため、ご主人様の世界の男性の中では神聖視される方も多く、勇者様もそのお一人だったとか。……そんなに凄い服を私に?
「あなたは私の厳しい訓練を無事に修了したわ。どこへ出しても恥ずかしく無い、あなたは一流のメイドよ。私が保証します。」
「で、ですがそんなに由緒正しい服を私が頂いてもいいのでしょうか。」
「さっきも言ったけれどあなたにはこの服を着る資格があるわ。………それにこの服を着れば彼だってイチコロかもよ?」
「……っ!?」
師匠の言う深〜い理由?にフラフラと手が動き、気がついたら師匠から服を受け取っていました。
……っは!私は一体何を!?
「うんうん。素直で大変よろしい♪」
「……ありがとうございます。この服に恥じない様に精進します。」
「ふふふ、そう固くならなくてもいいわよ。あとはこれとこれね。」
そう言って師匠は膝が隠れるくらいの靴下とロングブーツも渡してくれました。
「着方は分かるかしら?早速着替えてもらえる?」
「……分かりました。」
ご主人様に買って頂いたこの服を脱ぐのは忍びないですが、せっかく師匠から頂いた手前断ることも出来なかったので着替える事にしました。
このメイド服は特に難しい着方をする訳ではなく、普通のワンピースを着る様に着る事が出来たので助かりました。
「とても似合っているわね♪あとはこれで最後ね♪」
そう言って師匠は私の頭にホワイトブリムをつけて満足そうに頷いています。
「うんうん。これなら彼も本当にイチコロね♪」
「……。」
「それとこれらは予備ね。何着かで着回しなさい。」
そう言って師匠は袋詰めしてあるメイド服をもう3着渡してくれました。
師匠の言葉に思わず顔がにやけてしまいます。ご主人様は気に入って頂けるでしょうか?そうだといいのですが、もし……。そう思うと覚悟を決めているとはいえ怖いです。
「ふふふ、あなたなら大丈夫よ。」
「……師匠。」
「もう一度言うわ。あなたなら大丈夫よ。頑張って来なさい、女の子♪」
師匠はそう言って私を抱き締めました。
……温かいです。
「……師匠。この2週間本当にお世話になりました。」
「ふふふ、良いのよ。元は私の為だったのだから。……幸せになって来なさい、愛しの愛弟子。」
「……はい!」
私は溢れる涙を必死に堪えながら師匠の家を後にしました。
師匠は私に幸せになれと言いました。そこに涙は不要だと思ったからです。
「行ってきます。……師匠。」
とても厳しく、何度も死にかけましたが、常に優しかった師匠。私は『母の温もり』というものを知りませんがきっとこういう事なのでしょう。
私は師匠の家の前で深く一礼してご主人様の待つ宿へと歩きました。
……しっかりしないといけません。今の…私の顔を、ご主人様に、見せる…訳には……いきませんから………。
宿へと着いた私ですが、ご主人様はまだお戻りになられていない様です。
受付の方に部屋を教えてもらい私は部屋の中で待つ事にしました。
震える手を抑えご主人様をお待ちします。
やがて扉がゆっくりと開き、ご主人様がお戻りになられます。
師匠、私頑張ります!
「おかえりなだいませ、ご主人様♡」
私は努めて、とびきりの笑顔でご主人様を迎えました。
ご視聴ありがとうございます。
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