55話 ノルンの依頼
今回は少し長いです。
これから徐々にシリアスしてくると思います。
……多分。
11月7日に改稿してます
55話 ノルンの依頼
「ハヅキ!一体どういうことだ!?本当にBランクなのか?」
「これは珍しい武器だぜ。……確か刀?とかいったけな。」
「び、Bランク冒険者にはどのようにしてなるのですか?やはり一人で強大な魔物を討伐しないとダメなんですか?」
「「「ハヅキ(さん)!!!」」」
リーンの予想外の発言に固まったままだったノルン一行がショックから帰って来たようで各々が喋り出した。
てか、うるせぇ。そんなに一気にまくし立てられても反応できないし何より声がでかい。
「あー、とりあえず落ち着いてくれないか?あんま大声を出すのは良くないと思う。この辺は安全だって言っても魔物が出てくるのには変わりないし。」
俺の言葉で頭が冷えたのか3人は申し訳なさそうに謝る。分かってくれたらいいんだけどね。
「一個ずつ言うとBランクなのは本当だし、この武器は刀で間違ってない。Bランクになる方法は……悪いけど分からん。」
そう言って俺はギルドカードを取り出しノルンたちに見せた。
「……本当だな。」
「分かってもらえてようで何より。ただこのことは言いふらさないで欲しい。あまり面倒ごとに巻き込まれたくはないんだ。」
「分かった。」
俺の言葉にノルン始め4人全員が頷いたことでひとまずは落ち着きを見せた。
ただゲイルは刀が気になって仕方がないようで、仕切りに視線を俺と刀の間を行ったり来たりとさせている。
……はぁ。
俺は視線には気づいていませんよーと言った体で話をきく。
「……何か?」
「いや、すまんな。よければ、よければでいいんだがその武器を見せてくれないか?」
『よければ見せてくれ』なんて言っているが彼の顔はそうは言ってない。葛藤がそうさせているんだろうが、まるで般若の仮面だ。
「……………どうぞ。」
俺は長い葛藤の末、剣帯から鞘を外し黒揚羽をゲイルに手渡す。
「いいのか?」
そう聞いて来たのはノルンだった。
「断っても諦めそうにないし、へそを曲げそうだったからな。」
「……その、すまん。」
「おう。」
ゲイルを見てみると渡した黒揚羽を穴が空くのでは?というほど舐めるように鞘を見ていた。
俺の視線に気がついたのかゲイルは今度は刀身が見たいようで抜いてもいいか?と聞いて来た。随分と図々しい奴だな。
俺が視線だけで許可を出すと嬉々として抜き放ちしげしげと刀身を見ている。
「………本当にすまんな。」
「そうだな。」
ノルンは非常に申し訳なさそうに謝っている。ゲイルいい仲間を持ったな。
しばらくの間、刀と睨めっこしていたゲイルだったが満足したのか大きく息を吐いて刀を納め返しに来た。
「もう満足したのか?」
「あぁ、珍しいもんを見せてもらった、ありがとう。」
「お眼鏡にかなったようで何よりだ。」
「これほどの武器はそうそうお目にかかれないな。しかし…冒険者が自分の武器をそうホイホイと見せてもいいのか?普通は見せないぞ?」
お前が言うな!!!
俺のツッコミは雲を突き抜け天へと届き世界中に響いた。……と言うことはなかったがゲイル以外はみんな同じことを思ったようで、ゲイルを除いた4人とも苦笑いで顔が引きつっていた。
……ゲイル、本当にいい仲間を持ったな。
「……肝に命じておくよ。」
「おう。」
さて、話も落ち着いたしそろそろこの場を離れようかと思ったところで今度はノルンに邪魔された。
……ええい、一体なんだって言うんだ。もう話は終わったしいいだろう。
「ハヅキ、君の実力を見込んで頼みがある。」
ノルンはさっきまでのおちゃらけた雰囲気とは打って変わって真面目な顔で俺の双眸を捉えている。
あっ、嫌な予感しかしない。具体的に言うと……。
「俺たちの依頼を手伝って欲しい。報酬もきちんと支払う。どうだろうお願いできないか?」
そう言うことだ。
うっそだろお前。たった今会ったばかりの訳わからん奴に頼むことじゃないだろ。どう言う思考回路したらそんな回答に行き着くんだよ。てかめんどくせーよ!
「……俺の実力も分からない、俺が信用できるとも限らない。そんな状態でよく俺を誘うという選択肢が出て来たな。」
「実力は疑ってないさ。武器を見せてくれたのも素手で俺たちを相手にできる自信があったからだろう?」
確かにそれはノルンの言う通りだ。<魔力制御>での身体強化を完全に習得した今の俺なら彼ら程度なら素手で制圧できる。
実際ステータスをのぞいた時も別段強すぎるわけではなかったし、ハイロードを倒した俺と比べると1回りも2回りも劣っている。まぁ今まで見て来た人の中で最大のステータスを持っているんだが。
「それにハヅキの人柄にしたって悪いやつではないだろ。そもそも本当に悪事を働こうって言うなら、わざわざそんな事言ったりしないだろうし。」
「……。」
何もいえねー。
確かにこいつらをどうこうとしてやろうなんて考えはないが大丈夫か?こいつ。何でそんな『君なら大丈夫!俺たちのこと手伝ってくれるよね!信じてるよ!』みたいな目ができるんだか。呆れを通り越して心配になるわ。
これはノルンの説得は無理だな、他の奴らなら。そう思ってノルンを除く3人に話しかける。
「……ノルンはああ言ってるがお前らは反対だろ?今知り合ったばかりの得体の知れない奴なんかと一緒に行動なんて普通できないだろ?」
一分の望みを託して話すが……。
「ノルンが言うなら俺は文句ねぇよ。」
「はい、ノルンが言うなら大丈夫…です。それに、ハヅキは悪いやつの匂いしない…です。」
「そうですね。ノルンが言うなら大丈夫なんでしょう。」
だめだこいつら!すでにノルンの放つ爽やかイケメンオーラにやられてやがる!
「……だけどなぁ………。」
「ハヅキ、頼む!」
そう言ってノルンは深々と頭を下げた。
まぁ色々と言いたい事はあるが一先ず落ち着いて考えよう。ノルンの依頼を受けることによるメリットとデメリットだ。
まずデメリットだが、これは俺が考える目立たずにゆっくりと旅をしたいという願望から外れる可能性が高くなることだろう。
この依頼は戦闘になる可能性が高い。なんせ彼らは偵察および調査でここへ来たのだ。何かしらの想定外で戦闘になることはあるだろう。そして戦闘になれば俺の戦闘能力の高さが露呈する。
当然隠しながら戦うという選択肢はあるが現状難しいだろう。彼らCランク4人を素手で制圧出来るくらいの実力はあると既にバレているため、あまりに役に立たないアピールをすれば逆に怪しまれる。まぁ隠さなかった俺が原因なんだが。
次にメリットだけど、これはすごく簡単だ。ノルン達に恩を売れる。
ノルンたちがブレストでどう言う立ち位置にいるかは分からないが、Cランク冒険者といえば冒険者としては十分に成功した人間だと聞いている。つまりここでつながりを作っておくことは決して悪いことじゃない。
つながりを作った上で相手に恩を売れるならこの話は悪いものじゃない……と思う。
実際デメリットの方は半分怪しいものだ。
既に俺がBランクの冒険者だってことは周りにはバレているようだし、ある程度の力はあるって思われてそうだし……。
変に下手に出ると逆に調子に乗られて面倒か?いやでも俺がでかい顔するのもなぁ……柄じゃない。
うーん……どうしようか、ぶっちゃけ面倒臭くはある。ただ、冒険者とのコネは持っておきたいんだよな。………内容次第、かなぁ。
「……ノルンたちが受けた依頼の詳細は?それを聞かないと判断のしようがない。」
「俺たちが受けた依頼はさっきも言ったけど、この先にある森林地帯の調査だ。予定では今日から森に入って調査を始める。調査は3日間を予定していてそこから街へ戻る。だから実際の拘束期間は4日になる。食料なんかは俺たちの予備があるから心配ない。」
ふむ、それなりに時間が取られるな。
「報酬は?」
「報酬はまず依頼の報酬が金貨3枚、少ないかも知れないがそのうち1枚をハヅキへの報酬として渡す。あと調査中に魔物と戦闘になると思うから、その時ハヅキが倒した分はそのままハヅキがもらってくれ。」
「全部を5人で当分とかじゃないんだ?」
「あぁ、ハヅキには無理を言って協力してもらうんだ。俺たちの取り分が減るのは当然だろう。」
「うーん、ノルンがそれでいいとしても他のみんなは?普通嫌なんじゃない?」
そう言って俺は他のメンバーを見るがみんな首を横に振る。
「ノルンがそう言うなら文句はねぇよ。」
「はい、大丈夫…です。そもそも、私たちだけじゃこの依頼は少し難しい、かもしれない…です。」
「そうですね、ノルンがこうやって我を通そうとするときは大抵そうしないと危ない目にあったりしますからね。私も反対はないです。」
信頼されてるなー。
「……分かった。その依頼俺も受けよう。」
「ほ、本当か!?」
「あぁ、これからよろしく。」
「こちらこそよろしく頼むよ。ハヅキ!」
ぶっちゃけ報酬自体はあまり美味しくないが、ノルンたちとコネが作れるし何より、せっかく特訓したんだし実戦で使い物になるか確認しておきたい。
………こう言う考えばかりするから俺は持てなかったんだろうか。
目の前のイケメンが差し出す手を前に俺は少しだけ悲しくなった。
ご視聴ありがとうございました。
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