53話 特に秘密ではない秘密の特訓
今回の話からヒロインが出てきません
ヒロイン目的の方はしばしお待ちを
11月7日に改稿してます
53話 特に秘密ではない秘密の特訓
次の日の朝俺とララは部屋で朝食をとってからそれぞれ行動を開始した。俺は今ブレストの街から五時間ほど南に歩いたところにある岩石地帯へと足を運んでいる。まぁ実際は常に走って移動しているためかかる時間は大体二時間と少しくらいだろうが。
人や魔物があまり近づかない場所はないかとギルドでアリアに聞いて見たところ、その場所を紹介されたのだ。その時アリアはなぜそんなことを聞くのかと訝しんでいたが理由を簡単に説明するとすぐに納得してくれた。
ここへ来た理由は二つ。
まずは俺自身のこの世界での力を把握ことだ。
俺の能力やスキルはステータスになって数値として見れるが、実際にどれくらいの間走っても疲れないかとか、どれくらいの重さまでなら持ち上げられるかとかの『俺自身』がどれくらいのことができるかは分からない。
相手のステータスと比較して戦闘時の作戦立案とかには使えるんだけどな。常に走って移動していたのもこれが理由だ。
そして二つ目、と言ってもこれがメインになるわけだがそれは……。戦闘能力の強化だ。
先日のゴブリン・ハイロードとの戦いで色々と分かった事がある。俺には決定的に力が足りない。
あの戦闘は確かにイレギュラーなものだったが、これから先あの規模の戦闘がないとも言い切れないし、自分の強化は最優先課題だ。本当はララも一緒に鍛錬するべきなのだがあいにく俺は戦闘の経験が浅く、指導できるほど知識が豊富と言うわけではない。指導するには一つに精通するよりも幅広い経験とかが必要そうだし。
なのでまずは俺自身の強化をしてからララの底上げをしていこうというわけだ。
幸いと言うべきか俺自身の強化にはあてがある。
まぁ長々と話したが要はここへ来た目的は1、俺自身の能力の把握。2、俺自身の能力の強化。というわけだ。
ちなみにアリアに説明した時は『ちょっと修行でもしようと思いまして。』なんて間違ってはいないがテキトーなことしか言っていない。自分で言っておいてなんだが、そんなので納得していいのかアリア……。
時間にして一時間と少しくらいだろうか、岩石地帯に到着した。
ほぼほぼ全力疾走に近い速度で飛ばしていたため当初予定していた時間よりもかなり早くついたのだが、それでも特に息がきれるということもなくかなり余裕がある。
このことからかなり身体機能、と言うより心肺機能は高いようだ。少なくとも日本にいた時とは比べ物にならない。
「……これもチート能力のおかげなのか。」
俺は周りに人や魔物がいないことを確認して、腰に添えられた刀を抜刀術の要領で抜きそのまま素振りをする。まずは基本通り一通り方になぞって振っていく。
唐竹から始まって袈裟、逆袈裟、逆風、刺突と一つ一つ動作を確認しながら振っていく。一通り確認が終わったところで仮想の敵を前にして刀を振っていく。いわゆるシャドーボクシングのようなものだ。
それはこれまでの型になぞったものではなく、ただ目の前の敵を屠るためだけに振るもので、動きや息遣いを洗練させていく。
俺には<刀神の器>のおかげで色々な流派の知識があるが、一つの流派に絞ったりはしていない。というよりはやらない方がいいのかもしれない。
確かに一つの流派だけピックアップしてなぞることもできるがどうも体に違和感を覚える。なんというか無駄が多く感じるのだ。
これは俺の推測だが、スキルの影響か様々の流派を経験しその中のいいところだけを無理やり抽出しているように感じる。そのため一定の型というものは俺の剣術の中には存在しないが、その分あらゆる場面で自在に変化し柔軟に対応できるのだろう。
そして仮想の敵相手に一時間ほど刀を振り続けてようやく一息つく。
「ふぅ。少し休憩しようか。」
俺は街を出る前に買っておいた昼食を空間魔法から取り出しかじる。今日のはBLサンドだ。……この言い回しは別に狙ってないぞ。
昼食を食べ終え少しばかりの食休みを挟んでから修練へと戻る。と言ってもさっきまでのはあくまで動きを確認しただけのもの、いわばウォーミングアップでしかない。
俺自身のこの世界での能力の確認は目的の一つだがこれからが本番だ。
俺は普段抑えている魔力を体の細胞一つ一つに染み渡るように広げていき、完全に魔力が行き渡ったところで刀を振るう。
「……成功だ。」
先ほどまでとそう変わらないように振った刀だったが、桁違いに速度も鋭さも上がっている。
これが始めに言った俺自身の強化のあてということだ。
これはハイロードとの戦いの時に掴んだものだ。あの時の記憶はおぼろげではあるが大体の感覚は覚えていたためかすんなりと使えた。
これはおそらく<身体強化>をした上で<魔力操作>でその強化率を大幅に上昇させたものだと思う。ハイロードも両方ともスキル持ってたし。スキルには存在していないしある種裏技的なものなんだろう。
イメージとしては強化した体をさらに魔力で覆って活性化させる感じ。
この状態でいると当然というかMPを消費する。
と言っても俺からしたら微々たるもので、ステータスを見れば2秒ごとに1ずつ減っていってる。今の俺の最大MPが約9000なので(盗賊を倒して少しレベルが上がった)、時間にして約5時間は維持していられる。
ここまでの時間戦闘が長引くことはそうそうないだろうし、相手の不意をつくためにも自在に操れるようになるのが目的だ。え?卑怯だって?そんなもの、勝てばよかろ〜なのだ〜。
まずは手のみを強化、次に足のみを強化、といったように部位一つ一つを強化して動きに合わせていく。最初は体の動きに魔力が追いついてこなかったが2日3日と続けていくと5日目には自在に操れるようになっていた。
これが早いか遅いかはわからないが、レティ曰く、<魔力制御>の習得だけでも普通は数年かかるらしいから早いのだろう。
こうして<魔力制御>による身体能力の強化を使いこなせると言っていいレベルまで習得した俺はこの技術と抜刀術の相性がすこぶるいいことに気がついた。
抜刀術は刀を抜くという動作自体が攻撃となるため攻撃の出が速い。それを瞬発的に強化してさらに加速させればその威力は計り知れない。
刀身を抜いて切り収める。その一連の動作だけでも腕、肩、腰、足と様々な部位が動く。それらを<魔力制御>で爆発的に強化、加速させる。それだけでなく刀身にも応用できると気がついた俺は切る際に刀身を魔力で覆うようにした。
実際どのくらい切れ味に補正がかかるかは比較する対象、魔物がいないため分からないが効果があると思いたい。まぁなくても<魔力制御>での強化は意識しなくてもできるようになったため、近接戦闘能力はかなり向上したと思う。
ちなみに<魔力制御>の練度はLV8まで上がった。
「これくらいできるようになればゴブリン・ハイロードくらいなら余裕だろうけど……この鍛錬はこれから毎日続けていこう。」
こうして俺の1週間は今更すぎる小さな決意とともに過ぎ去った。
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