38話 皇帝殺し
今話で主人王がハーレムについてほのめかす考えが出てますがタグに偽りはありません。
一応タグに偽りはない……はず。
11月2日に改稿してます
38話 皇帝殺し
俺が目を覚ますとララが笑顔で迎えてくれた。……前回のように抱きついて。
ララ曰く、『暖かくて心地いい』らしい。心地いい事には激しく同意するが、色々と柔らかいのが当たって俺は気が気じゃない。
朝っぱらから女の子に抱きつかれたりすれば、ニートな息子もやる気を出してしまう。
ただでさえ、朝は張り切りやすいと言うのに……これではいつか限界がくるな。
日本にいた頃の俺なら爆ぜろと思っていた事間違いないがこれはこれで辛い。
特にラノベを見ていた頃は『ヘタレかよw』とか『さっさとやっちまえよ』とか思っていたがその立場になってわかる。
無理だこれ。
現実社会に置き換えて考えてみよう。知り合って数日の女の子がとても可愛くて時々、この子俺に気があるんじゃね?みたいな行動をするとしよう。そして俺もそんな子にかなり惹かれつつあるとしよう。
そんな子を襲いますか?答えはノーだろ?
つまりはそう言う事だったんだよ。多分ララは俺に好意を持ってくれている。そうでなくとも嫌いだとは思ってないだろう。
だからこそ俺は手を出せない、関係を壊したくないから。
何が言いたいかと言うと………ヘタレでもいいじゃないか!みんながみんな簡単に吹っ切れるわけじゃないんだよ!
「おはようございます、ご主人様♡」
「……おはよう、ララ。」
デジャビュがすごいやり取りをして起き上がる。……息子よ苦しい戦いだったな。
顔を洗い、一階に降りて朝食を食べながら今日の事とこれからの事を大まかに話す。
「ララ、昨日話せなかったけどこの街を今日出ようと思うんだけどどうかな?」
ララは昨日のことを思い出したのか少し顔を赤くして一言謝ってから話し出した。
「その、個人的なことを言わせてもらえるのなら……ご主人様と会うことのできたこの街には感謝してますが、この国はあまり好きにはなれません。なので私は賛成です。むしろそう言った事でご主人様にお気を使わせていないか……。」
ララも異議はないらしい。と言うかそんな心配をしていたのか。
「そんな心配をしてたのか。一応言っておくけど、ララのためだけじゃないからね。確かにララが心配でここを離れるのもあるけど、俺にとってもこの国とは関わりを持ちたくはないんだよ。……色々あるしね。」
勇者な奴らとは出来れば関わりたく無い。
同郷だと知られればこの国に消されるか、取り込まれるかの選択を強いられそうだ。
「ありがとうございます、ご主人様。そうですね、この街の貴族とも争いましたし、なるべく早く出た方がいいかもしれませんね。」
そういやそうだった。確か名前が………。
……赤髪の少年とまた会うのも嫌だしカードを返してもらったらすぐに出ようか。
「ん、じゃあそういう事で行動しよう。ララ、確かこの街と連合王国は隣接してるって聞いたけど歩いて移動するとなるとどれくらいかかる?」
「そうですね……休憩を挟みつつ大体4日から5日ほどでしょうか。」
「分かった、今日の昼頃にギルドでカードを受け取ることになってるんだ。だからそれまでの間で出立する準備をしよう。」
「かしこまりました、ご主人様。」
「あ、必要なものがあれば遠慮なく言ってよ?俺ってそういったことに関しては疎いと思うからさ。」
俺とララは朝食を済ませてミーシャさんにここを離れることを挨拶してから、すぐに準備をするため買い物を始めた。
資金はたっぷりとある。なんせ約600万もあるんだ。日本にいた時は多分1年働いてもこんなに稼げないな。まぁ、社会人生活は数ヶ月で終わった上に、このお金も命がけで手に入れたものなので比べるということ自体難しいが。
そこから俺たちは昼まで買い物を楽しんだ。
まぁ、内容自体は生活品や野営セットなどのサバイバル感が満載なものだったが、日本で女の子と買い物なんてしたことのない俺にとってはかなり新鮮だった。
というか緊張した。
最後に食料として色々な屋台で買い食いしつつ、気に入ったものがあれば多めに買って空間魔法に入れていく。
普通は保存のきく干し肉なんかを買うそうだが、俺の場合は<時空魔法>のおかげで中のものが腐ったりしないので何も気にせず出来立ての料理を買うことができる。
食材を買わないのは調理の時間がかかるし、面倒だから。
あっ、でも連合王国について家を手に入れたらララの手料理は食べてみたいかも。逆に日本の料理を俺が作るのもいいなぁ。うーん、夢が広がる。
そうして買い物を済ませた俺たちはグレイヌのところへやってきていた。
「こんにちは、グレイヌさん。」
俺たちがドアを開けて中に入るとグレイヌはカウンターの奥から出てきていきなり要件を聞いてきた。……相変わらず客はいないのな。
「おう、ハヅキか。今日はどうした?武器のメンテなら自分でできるんだろ?まさか……買い替えか?」
「違いますよ。今日は挨拶に来たんです。」
グレイヌは俺の言葉の意味がわからずに鸚鵡返しに聞いてくる。
「えぇ、実は俺たち今日でこの街、というかこの国を出ようと思ってるんですよ。」
「なるほどな。皇帝殺しともなると金も女も寄ってくるし、この国に用はねぇってか?」
いやらしく口端を吊り上げるグレイヌに対し俺は顔が引きつっていた。
「な、なんですか。言い方に棘がありませんか?お金はともかく女性を囲う気はありませんよ。」
「ハッハッハ。そりゃ悪かったな。」
そうは言ったものの、ラノベとかで見るハーレムも男として憧れはする。
どうしよう……。メンバーを増やすかはララと相談してからだろうしなぁ。まぁその時になって考えるか。今はそれよりも………。
「それに……。なんですかその皇帝殺しって。」
「……まさか気がついてないのか?お前さん、この街の冒険者連中の中じゃそう呼ばれてんだぞ。まぁ通り名みたいなもんだ。」
orz。まじかよ、なんだその厨二病満載な通り名は。背筋が凍るわ。
そういえば昔、『絶望を伝える者』みたいな主人公の物語をノートに書いてたっけ?……まぁそんな痛い妄想をしていたせいか、人と碌に話もできなかったせいで『絶縁を叩きつける者』になっていたのはいい思い出だ。
………いい思い出だ。
「……その通り名って変更できないですかね。」
「いや、無理だろう。そもそも通り名なんてもんは自分で決めるもんじゃねぇし、B級冒険者になれば通り名の一つや二つあって当然だろ。実力もねぇのに勝手に名乗りあげるのはここの馬鹿坊ちゃんぐらいだ。」
え?あって当然なの?
「一体何が嫌なんだ?かっこいいじゃねぇか。皇帝殺しなんてよ。嬢ちゃんもそう思うだろ?」
グレイヌの言葉にララは満面の笑みでしきりに頷いている。
マ・ジ・か!?
この世界の価値観?美的センス?はそっち寄りなの!?ちょっと待ってくれよ。もうそういうのは辛いお年頃なんだって。俺もう23だよ?大人だよ?社会人だよ?そんな拗らせた通り名は精神的にくるんだって。俺の頭髪の心配をしてくれよ。この歳で髪の心配とかまだしたくねぇよ……。
「もしかして、ご主人様はお嫌なんですか?それなら私はその呼び方を今後一切否定いたしますが……。」
「………。(ニッコリ)」
皆さんは『かわいいは正義』という言葉をご存知だろうか?正義なんてものは人それぞれの欲望を集め象ったものだろう。その中でもこれは男の欲望をかき集めたものの一つと言える。そして、男という生き物は良くも悪くも単純な生き物だ。
つまり何が言いたいかというと、ララのこの上目遣いの一言で一切がどうでもよくなってしまったよ。なんかささくれた心が満たされた気がしたんだ。
……なんで世界は戦争が起こるんだろう。
ご視聴ありがとうございます。
ブクマ、評価ありがとうございます!




