36話 皇国の貴族様
今回若干ではありますが性的表現があります。
苦手な方はご注意ください。
11月2日に改稿してます
36話 皇国の貴族様
「僕を誰だと思ってる!ベレッチェ・ドゥーイ・コンフィだぞ!」
騒ぎにまみれて聞こえたその声は非常に面倒臭そうなものだった。
普通なら関わらないようにそっとギルドの外へと逃げるのだが何とその騒ぎの中心にはララがいた。
「………報酬を受け取りに行ったんじゃなかったけ?」
ララは先に件の報酬を受け取るという名目で部屋を追い出されていた。実際はランクアップの話合いの事と最後の勇者云々の忠告のためだけに追い出されたのだろうが……。
もしかして爺さんがあんなに俺のランクを上げたがっていたのは勇者が原因か?
爺さんの言いたかった事は『この国は黒髪黒眼はいなくはないが珍しい。勇者と間違えられたりして皇国に目をつけられると面倒だから気をつけろよ』といった感じの事だろう。
つまり、爺さんが俺のランクを無理にでも高くしたのは、それなりの権力を持てば貴族でも簡単には手を出せなくなるというのが理由だろう。というかそう言ってたし。
高ランク冒険者とそのパーティーを守るためという大義名分でギルドが動くこともできるし、要は俺に貸しを作りたいのか?Aクラスの魔物を単独で討伐できる戦力をギルドは放置したくはないという事なんだろうか。
まぁ、敵になれば面倒だろうし首輪は欲しいよな。つまりはさっきの会話は『ある程度融通するからいうことは聞いてね?』というメッセージか?それとも俺の深読みのしすぎか?
うーん……おっと、話がずれたな。
問題はこの騒ぎの中どうやってララを連れて帰るか、なんだけど………。
「無理だよなぁ。」
騒ぎ立てる赤髪のベレッチェくん?とララを見て穏便にという事を諦める。
ララに向かってキャンキャンと騒いでいるがララはそんなものどこ吹く風と相手にしていない、というか無視してキョロキョロと誰かを探している。誰かというか俺だろうけど。
あれに割って入るのは嫌だなぁ。
なんて考えているとララと視線があった。それはもうバッチリと。
俺を見つけるとララはパァと笑顔になり、こちらへと歩み寄ってくる。騒ぎの中心にいたはずだが周りの人たちもララの道を開けたため、問題を抱えたまま真っ直ぐ俺のところまで来る。
「お疲れ様です、ご主人様。お話は終わりましたか?」
「あ、あぁ。また明日ここに来ることになったけど一応は。」
「そうですか、では帰りましょう。ご主人様もお腹が空いていると思いますしお夕飯にしましょう。」
あれー!?まじで無視っすか?めっちゃこっちを睨んでますけど無視っすか?相手にしないんですか!?
……考えるのにも疲れたなぁ。今日は帰って休もうか?
いやいやいや、流石にそれは俺でもできないなぁ。面倒くさいけどさすがにあの赤髪の子がかわいそうな気が……全くしないけど後でまた絡まれると非常に面倒だ。ここで解決しておくのがいいだろう。
「………ララ、何があったの?」
俺の言葉にララはこれまでの様子を笑顔で話し始めた。
曰く、ララは部屋を出た後、エリエットのところで報酬を受け取っていたらしい。今回の報酬を確認して受け取った。ここまでは何も問題がなかったそうだ。
問題はその後に起こった。
赤髪の少年はこの街の領主の息子、つまり貴族だ。彼はその権力を使って冒険者になり、権力を使いDランクに無理やり登録し活動?しているとか。
で今日も取り巻きの3人を連れてギルドにやってきたのだが、その時にララが報酬を受け取っているところに遭遇したらしい。
彼は受け取りをしているララを跳ね除けるように割り込んだのだがその拍子にララのフードが取れてしまったらしい。
元々、ここの冒険者の間ではララがエルフであるということは俺を連れてきた時にバレているようだ。
しかし、冒険者自体が差別意識というものがあまり強くないらしく、特に騒ぎになるということはなかったらしいが赤髪の彼は違った。
彼は皇国の貴族でバリバリの人族至上主義らしく多種族を毛嫌いしていたみたいだが、ララを見ると目の色を変えたらしい。
そしていきなり『おいお前!長耳の汚れた血だが特別に僕の奴隷にしてやろう!』と下卑た笑みを浮かべなだら言い出したそうだ。分かりやすいやつだ。
しかしララは『私には既に使えるべき主人がいますのでお断りします。』と当然のごとく拒否すると彼は激怒。わめき散らして暴言の嵐、そして今に至ると。
………こいつ殺してもいいかな…じゃなくて、絶対矛先がこっち向くよなってかめっちゃ睨んでる。あ、こっち来た。
「おい!お前!その長耳は僕の物だぞ!早くよこせ!」
いつからこいつの物になったんだ?てかララは物じゃない。
俺はできるだけ声を荒げたり、威圧したりしないようにゆったりとした口調で話す。
何たって俺は大人なんだ、癇癪を起こしている目の前の子供とは違う。
「彼女は物じゃないし、俺の大切なパートナーだ。お前の玩具なんかじゃない。」
「貴様ぁ!僕を誰だと思ってる!僕はこの街の領主の息子のベレッチェ・ドゥーイ・コンフィだぞ!腰を振るしか能のない牝犬を僕が使ってやると言ってるんだ!貴様も僕に感謝してさっさと渡せ!」
イラッ。……落ち着け俺、ここで起こってはダメだ。相手は見た目14、5の子供なんだ。思春期じゃないか、きっと反発したいお年頃なんだ。
「………世界はお前を中心に回っているわけじゃない。大声で怒鳴っても自分の思う通りにならないことなんて小さな子供でも分かることだぞ?」
「下賎な冒険者風情が僕を愚弄する気か!」
「愚弄って………そもそもお前もその『下賎な冒険者』に登録してるじゃないか。」
俺がそう答えるとあたり一帯が爆笑に埋もれた。
……ということはなく、むしろ『言っちゃったよ』とか『貴族と喧嘩なんて命知らずだなぁ』とか『貴族様の赤っ恥だぁ』とか『ち◯わ大明神』等ヒソヒソと喋るだけで逆に静まり返った。
ちょっと待て、最後のやつなんだ!
「貴様ぁ!おとなしく差し出せば命は助けてやろうと思ったが気が変わった!殺してやる!貴様の前でその長耳を徹底的に犯して殺してやる!泣き叫ぶ女を前に無様に死ぬがいい!」
ギリギリ耐えていた俺の精神がプチっと切れたような気がした。俺の顔から表情が抜けていくのがわかる。
どうやらゴブリン・ハイロードとの戦い以降、ララに対しての思い入れが強くなったというか、甘くなったというか……俺の中で存在が大きくなたようだ。
周りの冒険者たちは何も言わない。何も言わずに俺とララを心配そうに見ている。……念のため言っておくが彼らが心配しているのは自分たちの命だ。
ここにいる冒険者は俺たちがゴブリン・ハイロードの亜種を討伐したことを知っている。そんな俺たちが怒りに身を任せ目の前のこいつを殺してしまわないか心配しているのだ。
殺してしまうと俺は犯罪者、それを捕まえるのは今この場にいる冒険者の仕事。化け物を捕まえろなんて仕事誰だってはしたくないだろう。
俺は申し訳なさそうに見上げるララの頭を優しく笑いかけながら撫でてバカ貴族に向き直る。
奴はまだ何かわめき散らしていて腰に吊るしている剣に手をかけて護衛と思われる取り巻きの男たちに命令し出した。
「奴を捕らえろ!殺しさえしなければ手足がなくなってもいい!早くしろ!」
うるさい奴だ。
俺は大きくため息をついて感情のこもらない声で最終警告をする。
「ここで引けば笑い話で終わるぞ。」
「うるさい!貴様それが命乞いのつもりか!命乞いするなら土下座ぐらいしろ!まぁ今更命乞いをしたところで貴様らの未来は変わらないがなぁ!」
はい、最終警告はしましたよっと。
俺は一歩前に出て<威圧>を使いながら殺気を奴と取り巻きに向けて飛ばす。
ちなみにこの<威圧>だが、さっき目が覚めた時に例のアナウンス?が流れて会得した。
ハイロードとの戦闘で殺意や殺気みたいな意思の具現化?のコツが掴めたと思う。まぁずっと寝てたから使うのはその戦いぶりなんだが……。
なんというか、某、ハンターがハントする漫画でいう、燃える方のね◯の概念と念◯力を足して割った感じ。スキルが念◯力で意思が概念みたいな感じ。
……わかりにくいな。要は気合いだ。
少し殺気が漏れたのか周りの冒険者たちが一斉に息を飲む。中には嗚咽に近い声が漏れているものもいる。
………あれ、やりすぎたか?かなり手加減したつもりなんだが……。これは要練習だな。
あの種族の頂点に立ったハイロードですら怯ませた殺気は普通の冒険者やギルド職員には辛かったようだ。
俺は<威圧>と殺気を納めてララのことが心配になり見てみるが彼女はなんともなさそうだった。俺と目があうと嬉しそうに笑顔を咲かせるくらいだ。
……怖がられてなくて嬉しい、あと可愛い。口に出しては言えないが。
奴らは痙攣しながら口から泡を吹いて倒れている。俺が殺気を向けた途端に糸が切れたように倒れたのだ。………あれだけ威勢のいいことを言っておきながらこのざまか。
未だ煮えたつ感情を抑えて立ち去ろうとすると強烈なアンモニア臭が鼻をついた。
……………見なかったことにしてやろう。いくら三下とはいえ……哀れだ。
「んー、行こうかララ。」
「はい、ご主人様。」
そうして俺たちはギルドを後にしたが、明日ギルド長に小言を言われるのはまた別のお話。
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