32話 遺志と意志
続きです。
シリアスって難しい。いや、コメディなら書けるって訳じゃ無いんですが……。
こうやって小説を書く様になって思うんですが、戦闘描写やエロを書ける人って本当に凄いと思います。
10月31日に改稿してます
11月6日に再改稿してます
32話 遺志と意志
まずい。そう思った時にはその巨躯は眼前に迫っていた。
「……かはっ!?」
俺は咄嗟のことではあったが後ろへと自ら飛び、衝撃を逃した。骨の軋む感覚がするが、折れていないし罅も入っていないだろう。
結果として派手に吹き飛ぶことになったがダメージは少ない。俺は地面に衝突する際に受け身を取りすぐに攻勢に出れるようにとハイロードを視界に捉えたが、そこで目にした光景は俺の目を疑うような出来事だった。
ララがハイロードへと叫びながら駆けていく。その速度は恐ろしく速い。しかし、ハイロードの反応もまた速い。
ハイロードがララを迎撃するように右の剣を横薙ぎにするが、ララはそんなことを意にも介して無いとばかりに接近する。
おびただしい量の血しぶきが舞う。
その血は……ララのものではない。ハイロードだ。
ララは交錯する瞬間、影閃を使った。狙いは武器を持つ右手。放たれた攻撃は狙いを違わずハイロードの右手首を捉え、そこから先を切り飛ばした。
相手の武器を取ったことで油断したのか、攻めるチャンスと踏んだのかララは下がらない。そのまま攻撃を続けようとするが、ハイロードの攻撃はまだ続いている。
ハイロードは切り飛ばされた手首など気にも掛けずにそのまま右腕をララへと叩きつける。
避けられない。ララは右半身を捉えられ、宙に舞った。
「ララっ……!!」
ララは飛ばされた勢いのまま数回地面をバウンドし動かなくなった。うつ伏せに伏せる体が一定間隔で上下しているから呼吸はあると思いたい。
ただ、あの攻撃をまともに受けた。
骨は当然、下手をすると内臓まで傷が入っているかもしれない。早く治療しないと命に関わるだろう。
「ガァァァアアア!」
ハイロードが勝どきと言わんばかりに叫ぶ。
「……うるせぇよ。」
ぼそりと普段なら自分でも驚くほど低い声が出た。
俺はガキの頃に両親を亡くした。死因は事故だった。俺がいたところで何か変わる訳では無かったと思うが、どうして側にいなかったのかと当時は激しく後悔した。
そんな俺は祖父に引き取られた。決して裕福では無かったが、祖父は俺の両親の遺産やら保険金やらで俺を育ててくれた。高校はもちろん大学まで進学させてくれて本当に感謝が尽きない。
だが、そんな祖父が大学を卒業する一月前に亡くなった。
本人は寿命だなんて言い張ってたが、医者が言うには癌らしかった。それも随分前かららしく、今まで生きてこられたのが不思議なくらいだと言われた。俺はそのことを言われて初めて知った。
今度は側にいたくせに何もできなかった。俺には何も力がなかった。
病に伏せる祖父のそばで意味のない後悔ばかりを繰り返す俺に笑いながら祖父は言った。
『葉月、お前は優しい子じゃ。わしがこうして寝ておるのも自分のせいじゃと思うとるじゃろう。わしに自分を責めるなとは言えん、じゃから強くなりなさい。お前は誰よりも優しい。いつか出来るじゃろう大切な人を守れるように強くなりなさい。なぁに、お前はあいつらの息子でわしの孫じゃ。心配はしとらんよ。』
これが祖父と交わした最後の言葉だった。
そうして、数ヶ月の時が過ぎ、この世界にやってきた。
この世界で祖父の言う『大切だと思う人』に出会えたと思う。ララの話を聞いた時、俺は何が何でも守ると、守りたいと誓った。
日本にいた時とは違い、俺は力を手にいれた。側にいる事も出来る。
しかし、俺はまた守れずにいる。
側にいて、力を得てなお足りない。なぜだ?なぜ俺は大切な人を誰一人守れない?
本当は大切だと思っていないからか?違う。
俺にそんな資格はないからか?違う。
そういう運命に生まれたからか?違う。
答えのない問いが俺の中を占めていく。どうしてだ?分からない。どうしてだ?違う。
沸き立つ憎しみ、後悔、懺悔。負の感情がごちゃ混ぜになって暴れる。
分からない、分からない、分からない!
視界に彼女が入る。ごめん、俺のせいで、俺に力がなくて。
視界に奴が入る。なんで俺の邪魔をする?なんで俺じゃなく彼女なんだ?なんで……。
ここで俺の中で憑き物が落ちたように一つの答えが浮き出てきた。
いや、答えと呼ぶにはそれは歪すぎる。
そして歪過ぎるそれは俺の中を満たしていく。
あぁ、そういうことか、お前が。
今まで持ち合わせたことが無かった感情。いくつもの負の感情が混ざり一つになった感情。奴の存在を否定し破壊するためだけの感情。
「お前を殺す。」
明確な意思を纏い言葉を紡ぐ。
沸き立つものは一つだけ。自分に向けるはずの感情も、何もかもを一つにしてぶつける。
一瞬奴がびくりと大きく震えこちらに向き直る。左の剣を構え叫びながらこちらに突っ込んでくるが関係ない。
全てがゆっくりに見える。まるで時が止まったように。
俺は迫ってくる凶刃の間を駆け、刀をそっと振るう。
それと同時に奴の肢体はズレ落ち、首もまた最初からそうあったように崩れ落ちる。
崩れ落ちる奴を無視して彼女の元へと駆ける。
まだ息はある。まだ間に合う。
俺はそっと彼女を抱きかかえ声をかけようとすると遮るように彼女が言葉を発する。
「ご、ごしゅ……な、んで。」
口から息が漏れるように紡がれる弱々しい言葉は強靭な意思を持ち俺へと届けられる。
「なんで、に、げ……。」
彼女の目に涙が溜まっていく。俺も同じだろう、視界がぼやける。
先ほどまで俺を占めていた黒い何かはすでに無くなっていた。
彼女を救いたい。今の俺の中にあるのはこれだけだった。
急速に魔力が高まっていくのを感じる。限界を感じなお高める。
限界を超え全てを無に還す力は彼女の中へと染み渡り息付く。
「ご主人様、なんで逃げなかったのですか。もしかすれば死んでいたかもしれないのに。」
彼女は涙を流し、詰問する。
「言ったろ、俺がララを守るって。遅くなってごめん。」
俺は涙を流し、謝罪する。
抱きしめる彼女の体温が心地いい。みっともなく涙を流し、手放しかけたが、今度は守ることが出来た。
「ご主人様、ご主人様、ごしゅじんさま……。」
どのくらいそうしていただろうか。時間が止まったように長い。
ダメだな。もっと強くならないと。
そう思った俺は限界を迎え意識を手放した。
名前:ハヅキ・アマミヤ
種族:人間
年齢:18
LV31
HP 2211/2813
MP 0/8510
STR 1600
VIT 1600
DEX 3100
INT 2000
AGI 3100
固有スキル:<真実の魔眼><刀神の器><賢者の器><精霊王の加護>
スキル(身体系):<魔力制御LV2><身体強化LV4><索敵LV2><隠密LV2>
スキル(その他):<胆力LV-><威圧LV->
スキル(武術系):<刀術LV10><体術LV1><見切りLV4>
スキル(魔法系):<生活魔法LV-><火魔法LV10><水魔法LV10><風魔法LV10><土魔法LV10><氷魔法LV10><雷魔法LV10><光魔法LV10><闇魔法LV10><時空魔法LV10>
ご視聴ありがとうございます。
ブクマ、評価ありがとうございます!




