13話 魅力的な少女5
分割投稿の後半です。
前回の分と合わせて1話です。
これくらいの文章量と今までの量とどちらがいいでしょうか?
10月30日に改稿してます
11月3日に再改稿してます
13話 魅力的な少女5
宿に入るとミーシャさんがカウンターから迎えてくれた。
「おかえり、夕食ならまだ時間はあるからゆっくりしても大丈夫だよ。おや?新顔だね?新しいお仲間かい?」
「ええそうです。二人部屋ってありますか?」
「あるよ。今なら空きもあるしそっちに移るかい?」
「はいお願いします。」
「荷物は、まだ部屋にあるかい?もしあれば食事中に運んどくけど。」
「いえ、収納魔法で持ち運んでいるので大丈夫ですよ。」
そう言ってラナンキュラスの分のお金を支払う。
どうやらここはエルフだからといって有無を言わさずに宿泊はさせない、ということはないみたいだ。
ミーシャさんは俺がラナンキュラスの料金を支払ったことで何かを察したらしくニヤニヤとした笑みを浮かべていた。そんなミーシャさんから逃げるように食堂に行く。
まぁ、腹減ったしね。ラナンキュラスだって早くメシ食いたいだろうし。
「これから夕食にするけどラナンキュラスは……というかエルフは野菜しか食べないとか肉は苦手とかってことはある?」
「……。(ふりふり)」
「……本当に?」
「……。(こくこく)」
念のために苦手なものは無理して食べなくてもいいとだけいって隅の方にある二人がけの席に座る。
店員さんに今日のオススメを2人前お願いして待つのだがラナンキュラスの様子が変だ。具体的にいえば席に座らず俺の斜め後ろに立ったままだ。
そして料理が運ばれて来たらおもむろに床に座りだした。
突然の奇行に驚いたが、ここが日本ではなく異世界だということを思い出しなんとなく理由を悟った。
俺は彼女を奴隷として扱う気は無いし、今までの人生で奴隷と対峙する機会なんてものが無かったから忘れがちだが、彼女は俺の奴隷だ。
おそらく彼女の考えでは『奴隷の私がご主人様と同じ席に座るなど恐れ多い』とか考えているんだろう。その証拠?にチラチラと俺の顔色を伺うようにこちらを見ている。……目は見えてないはずだが。
このままだと俺の心がストレスでマッハなので出来るだけ優しく聞こえるように声をかける。
「ラナンキュラス、床に座ったままだと食事を取れないだろう。早く席に座って食べよう。」
案の定とでもいえばいいのか、彼女は俺の言葉にどうすればいいのか分からずオロオロとしている。
だと思ったよ!ハイハイ、命令(笑)の出番ね。
「はぁ、面倒だから命令するよ。席に座って食事をとりなさい。出された食事を冷ましてしまうのは食事を作ってくれた人に失礼だよ。わかったら早く食べよう。」
俺の言葉に納得は出来ていないようだが、命令に逆らう意思はないらしく、恐る恐るではあるが大人しく席に着いた。
今日のオススメは大きめのステーキとスープ、それと昨日も食べた黒パンらしくタレがたっぷりとかかったステーキが食欲をそそる。
いただきますと手を合わせてから肉にかぶりつく。ラナンキュラスの方をちらりと見ると彼女はまだ食事に手をつけていなかった。恐らく俺が食べ終わるのを待っているんだろう。
「早く食べないと冷めちゃうよ。……大丈夫、美味しいよ。」
俺が食べるように促すと震える手でナイフとフォークを持ち肉を切り口に運んだ。味を確かめるようにゆっくりと口を動かし飲み込んだかと思うと今度は泣き出した。
それでも食べることはやめたくないみたいで泣きながら一心不乱に食べ続けた。
結構な量があったように思えたが二人して悠に平らげ食休みを挟んでミーシャさんに言われた部屋に向かう。
部屋のつくりは一人部屋の時とそう変わるものではないらしく、ダブルベットと荷物をおくクローゼット、あとは洗面台のような場所があるだけ。
というかダブルベットって。ツインじゃないんかい!
俺はとりあえずベットに腰掛けるがラナンキュラスは立ったままだ。
さて、とりあえずはこれからの事とかを話したいが、その前にラナンキュラスの状態を治さないとな。今のままだと何かと不便だろうし。まぁ、大丈夫だろ。
俺は座りなよと言おうとして固まる。
多分座れというと彼女は床に座るだろう。そんな予感がした。だから俺はこっちにきてベットの上に座るように言った。
俺の意図を察したのか一礼してから俺の横に腰掛ける。
ふふん、俺だって学習するんですよ。(ドヤァ)
ラナンキュラスの表情は少し硬いがこれは仕方がないだろう。彼女にも不安は沢山有るだろうし今すぐにどうこう出来るものでもないためそこには触れず話を切り出す。
「さて、落ち着いた事だしこれからの事を少し話そうか。まぁその前に一つやることがあるけど。」
彼女は俺の言葉に覚悟は出来てますと言わんばかりに頷く。
「ん、じゃあとりあえず服を脱いでくれる?まだしっかりとは(傷を)確認をしていなかったから。」
ここだけ聞けば間違いなく通報ものだが、ラナンキュラスは多少震えているものの手早く服を脱いで行きすっぽんぽんになった。
やはり、童貞にはハードルが高すぎる……。
生着替えって男のロマンだよね。思わず生唾を飲み込んじゃったよ。脱いだだけじゃねぇかというツッコミはNG。
「少し触るよ。」
「……。(こくり)」
俺は一言断りを入れてからまずは左肩から走る傷跡を確認する。
傷は既にふさがっており、傷のあるあたりだけ乾燥し皮膚が硬く変質している。恐らく碌な治療も受けられなかったために傷が悪化し、それが跡として強く残ったのだろう。
次に目の傷を見て見るがやはりナイフなどで鋭く傷をつけられたものだった。ただ思いの外、傷は深くて眼球にも届いているのは明らかだった。
最後に喉だがこれが一番酷く思えた。火傷の跡が生々しく残っており呼吸するのですら辛そうだ。
俺は言葉が出なかった。
なんだかんだで日本は平和だったし、医者志望というわけでもなかったためこういった傷跡に耐性がなかったのだ。
俺が黙っていることに不安を感じたのかラナンキュラスが覗き込むように俺を見上げる。
その行為は非常に可愛かったが落ち着け、落ち着け俺。これからするのは治療行為だ。
安心させるように頭を撫でてから傷を治す準備を始める小さくなるように抑えていた魔力を一気に解放し圧縮していく。
こういった魔力の流れがわかるのかラナンキュラスはびくりと大きく体を震わせた。驚かせたのは悪いと思うが、初めて使う魔法なので要領が分からず、構ってあげる余裕が無い。
ある程度魔力を高めたら次は魔法のイメージだ。
まずは傷を治すので、何にでも使える万能細胞を作りそれを分裂させて傷を修復させていくイメージ。傷跡が消えるように強く治れ、治れと祈るように魔法を発現させるとラナンキュラスの体が淡く光った。
<光魔法>を習得しました。<光魔法>の練度が最大になりました。
これなら成功かな?
数秒して光が治ったのでラナンキュラスを見てみる。
すると傷跡は全て綺麗になくなっていた。本人に聞いてみないと分からないがおそらく目も声も治っているだろう。
様子はどんな感じか聞こうとした所で彼女が震えていることに気がついた。
やっぱり一言声をかけた方がよかったか?
俺は震える彼女に優しく声をかける。
「ごめん、驚かせたね。もう大丈夫だから。少し試したい事があったからやってみたんだ。……お願いがあるんだけど目を開けてみてくれるかな?」
俺のお願いを聞いてひょっとしたらと言う気持ちがあったのだろう。恐る恐ると言った様子で目を開く。
久しぶりに目を開けるからか周りの明るさに目が慣れていないのだろう。何度か目を瞬かせていたがやがてその目を大きく見開いた。
彼女の目は少し変わっていて右目は薄い黄色、左目は薄いピンクの所謂オッドアイというものだった。俺はその美しさに吸い込まれてしまった。
彼女からすれば信じられないことなのだろう。口が少しずつ開き声が漏れた。
「………う…そ?」
非常に小さい声だったが耳に残るとても綺麗な声だった。
自分の声が聞こえたことでさらに驚いた彼女に俺は声をかける。
「それじゃあ改めて。俺の名前はハヅキ、これからよろしくねララ。」
俺は前もって決めていた愛称を呼ぶ。その様子を彼女は焦点の合わない目で見る。
俺も少し……いやかなり恥ずかしいが目を逸らさずに彼女を見据える。
顔が赤くなっていくのが分かるが逸らさない。逸らさずにいられたのは自己紹介で噛まなかったからだろう。噛んでたらこの場から逃げ出してた。
数秒の出来事だろうが俺には時間が止まった様に長く感じた。じわりと彼女の瞳に涙が溜まっていき決壊した。
俺の胸に飛び込むようにして抱きつき声を上げて泣き出した彼女を俺は受け止めた。
というかそれしか出来なかった。
いや、童貞にしては頑張ったと思いません!?
泣いている女の子のあやし方とかわかるわけないじゃないですか!?俺からしたら『はなまる大変よく出来ました』って感じですよ。
結局ララが落ち着くまでの20分ちょっとの間、俺は何も出来ずに放心していた。
泣き声が小さくなるにつれて旅に出ていた俺の魂も帰ってきたので、気をとりなおして声をかけようとしたが、彼女は俺の言葉よりも速く、まさに光速の如く俺から人一人分くらいの距離をとり……
「申し訳ありませんでした!!」
見事な土下座をかましてきた。
………あっ冒頭につながった。
ご視聴ありがとうございます
ブクマ、評価ありがとうございます!




