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わくわく異世界冒険?  作者: りんごはるさめ
3章
101/102

93話 魔族領の伯爵様

今話でVS魔物群団編?は終了です。

この話で終わらせたかったので、少し詰め込みました。

いつもよりも若干長いかと思います。すみませんm(_ _)m


 93話 魔族領の伯爵様


 オーガ・ロードを討伐してから直ぐに魔物の掃討は片付いた。

 後続として来ていた魔物はその大半がオーガ系統の奴だったらしく、その頂点に立っていた奴が討伐された事で瓦解していったのだろう。別に統率のスキルを持っていたわけじゃ無かったんだけどなぁ……。

 ちなみに、俺たちが倒した他にトロールキングというAランクの魔物が出たそうだが、これはガルムたちとサリアさんという龍人種の女性が討伐したそうだ。

 こっちの方は特に傷が再生するという事も無かったそうなので、極々普通の個体だと思う。

 まぁ、Aランクの魔物が現れる事自体が異常事態ではあるんだが……。


 ともあれ、街の防衛作戦が始まってから約6時間。

 その戦いも収束して、街は奇跡とも言えるほどに被害を抑える事が出来た。

 今は、新人冒険者たちと最後の掃討戦に参加しなかった冒険者たちで魔石の剥ぎ取りや魔物の素材の剥ぎ取りを行なっているそうだ。

 使いっ走りにしている様で申し訳ないんだが、あの数を剥ぎ取るとなるとかなり面倒だし、時間がかかりすぎるから正直ありがたい。

 まぁ、彼らもその分報酬に上乗せされるそうだし、喜んでやっているそうなので(特に底ランク冒険者たちが)気にしない事にした。


 そして俺たち……正確に言えば、俺とララ。ガルムたちのパーティーとミハエル。サリアさんとノルンたちを含むCランク冒険者たちのパーティーリーダーだ。

 人数にしておおよそ30人程の面々はギルドマスターである、ケルヴィンに呼ばれギルド内の大きめの会議室に集められている。

 会議室はよくあるコの字型の部屋で、机と椅子が並べられている。俺たちはその椅子に各々座っているという訳だ。

 どうでも良い事だが、ノルンたちはパーティーリーダーのみなのに対し、ガルムたちのところが全員集合しているのはあそこのメンバーが全員Bランク以上だかららしい。


 ケルヴィンはコの字の口の空いている部分に立ち、全員が集まっている事を確認して口を開く。


「先ずは疲れている中、呼び出しに応じてくれてありがとう。」

「別に良いって事よ!」


 とはガルムのセリフだ。まぁ、他の面々も頷いている様だし、気持ちは同じという事らしい。

 俺?俺はそこまで疲れてないし、どっちにせよ報告は必要だなーと思っていたから特に気にしてない。


「それでもお礼を言いたい。後で今回の防衛戦に参加してくれた人たちにも言うけど、君たちがいなければここまで完璧に街を守る事は出来なかった。本当にありがとう。」


 ケルヴィンの言葉に各々満足そうな表情が見れるのは気のせいではないだろう。

 確かに、各員が頑張った結果なのは揺るぐ事の無い事実だが、此処に居る面子は最後の高ランクの魔物の討伐戦に参加していた連中だ。

 手厚い支援があったとは言え、あの量の高ランクの魔物を相手取ったんだ。それなりの自尊心はあるだろう。


 俺としてはこのまま影をうすーくして目立たず、他の冒険者の影に溶け込みたかったんだが、ケルヴィンがそれを許さなかった。

 ケルヴィンは俺とララの方を見て頭を下げる。


「特にハヅキくんとラナンキュラスちゃんは本当にお疲れ様。君たちが居なければ今回の作戦は成し得なかったと思っているよ。……ありがとう。」


 せっかく良い感じに収まりかけていたのに、何で他の冒険者の神経を逆撫でして俺を孤立させるような事をいうかなぁ……。

 と、思っていたが、俺の考えとは逆に俺たちを賞賛するかの様な拍手が冒険者たちから贈られた。

 ……え?何で?頑張ったのは皆同じでしょ?なのに俺たちだけが特別みたいな事言ってんだよ?怒らないの?


「……ハヅキ様。側から見れば私達の成した事はかなりの偉業だと判断できます。魔法で何千という魔物を討伐し、白兵戦では強力な魔物を次々と討伐していったのですから……。私達がいなければ作戦が成り立たなかったと言うのもあながち間違いでは無いかと……。」


 俺の疑問を即座に解消してくれるララさんマジ天使。と言うか声には出していなかった筈なんだけど何で分かったのさ……。


 まぁ、それは置いといて……。

 俺は苦笑いとも取れそうな微妙な笑顔を貼り付けてやんわりと否定する。


「……お礼はありがたくもらいますが、防衛が上手くいったのはみなさんが頑張ったからですよ。」

「それはもちろん理解しているさ。だけど、君たちがいなければここ迄の結果にはならなかったのも事実だと思う。」


 ケルヴィンの言葉に深く頷く面々を見て、これは何を言っても無駄だと思った俺は場を濁す事にした。……いや、ほら……ねぇ?

 こういう事に慣れてないんだよ。日本にいた時はこんな機会は無かったし、こっちに来てからはなるべく目立たない様にしていたから。……出来ていたかは置いといてね……。


「まぁ、言葉半分に受け取っておきますよ。」

「……むぅ。謙遜が過ぎれば却って嫌味になるとも思うんだけど……。まぁ、それがハヅキくんの長所でもあるか。」

「そう言う事にして置いて下さい。」

「……良し!それじゃあ、君たちを集めた本題に入ろうと思うん……」


 場の空気が多少なりとも纏まり、ケルヴィンが本題を切り出そうとした時にそれ・・は起こった。


「おやおや。アレ・・を倒したのは何方どなたかと思って来たのですが……これでは分かりませんねぇ。一体何方なのでしょうねぇ。」


 この部屋には先ほど言った面子しか居ない筈だし、後から誰かが入って来たと言う事もない。

 しかし、その声の主はたった今部屋に入ったと言わんばかりに扉の前で俺たちを見回しながら笑みを浮かべている。


 突然の事に冒険者たち全員に緊張が走る。

 声のした方を見ると、濃い紫の髪をオールバックに纏めた浅黒い肌の紳士風の男が立って居た。耳が尖っている事から奴が普通の人族では無いだろうという事は分かるが……。


 全員が椅子から腰を浮かせて戦闘体勢に移っている中、オールバックの男は尚も笑みを貼り付けたまま話を続けようとする。

 しかし、オールバックの男は最後まで言葉を紡ぐ事は出来なかった。

 何故なら……。


「まぁまぁ、落ち着いて下さい。私はただ、ご挨拶にうk………」


 キィィン!


 オールバックの男が話をしている最中にララが首を刎ねようと黒龍を振ったからだ。

 しかし、男の首は飛ぶ事はなく替わりに金属同士がぶつかる音が響く。

 どうやら見ると、男はどこからか取り出した片手用の直剣でララの攻撃を防いだらしい。……っておいいい!?ララさん急に何してんの!?


 俺を含めて状況についていけて居ない面々が惚けている中、そこの二人(ララとオールバックの男)は何やら通じ合っている部分があるらしく、男が含みのある笑みを浮かべる。


「おやおや、お嬢さん落ち着いて下さい。先ほどは言えませんでしたが、私はただご挨拶に伺っただけですよ?」

「……白々しいですね。私がご主人様に向けられた敵意を見逃す筈が無いでしょう。ご主人様がお許しになられても私が許しません。何が目的ですか。」


 ララがそう言うと男はより一層笑みを浮かべて本当に敵意はないと頭を振って、空いている方の手で降参だと言わんばかりに手を挙げる。

 男の意図が伝わったのか、ララも黒龍を引いて俺の側まで戻って来た。


「申し訳御座いません。独断先行しました。」

「……いや、別に気にする事じゃないよ?」

「ありがとうございます。」


 いや、あの男が俺たちに一瞬だけ殺意を向けて来たのは分かっていたんだけど、そこまで過剰に反応するもんでも無いかと思って俺は無視したんだよ。

 まぁ、それがララはお気に召さなかった様でさっきの様な結果になった訳だが……。


 男はララが引くのと同時に武器をしまい、優雅に一礼して名乗りを上げた。


「では、改めて自己紹介を……。私は魔王様より伯爵の地位を授かっているシュバインと申します。私は貴方方で言う所の上級魔族にあたるのでしょうか?以後お見知り置きを。」

『……なっ!上級魔族だと!?』


 俺とララを除く面々が驚く中、シュバインと名乗った男は話を続ける。


「ですが、私は今は・・貴方方と争う気は御座いません。先ほども言いました通り、今日はご挨拶・・・に伺っただけなので。……先ほどの殺気は茶目っ気というものですよ。忘れて下さい。」


 と、朗らかに笑うシュバインを前に皆は逆に敵意を剥き出しにして警戒している。


 ……ちょっと待って。上級魔族って何?何でそんなに警戒してんの?

 いや、魔族軍と戦争中にその魔族様が来れば警戒して当然なのは分かるんだけどさ……。知識が無いせいか置いてけぼり感が凄い。

 ……取り敢えずこの場は雰囲気に合わせるとして後でララに聞こう。

 幸い、知らない話題に適度に相打ちを打つのには慣れてるからね!……ちくしょう。


「……ふぅ。名乗りを上げた途端にこれですか。まぁ、今の情勢を考えれば仕方の無い事ではありますか……。」

「それで?上級魔族様が一体こんなところに何の用なんだい?世間話に来たって訳じゃ無いんだろう?」


 警戒は解かずに口調だけは気軽そうにケルヴィンが質問する。

 それに対し、シュバインは笑みを崩さないままケルヴィンの言葉を否定する。

 腹の探り合いの始まりだ。


「いえいえ。私の目的は本当にご挨拶だけですよ。……何たってゲルバルドを下し、アレ・・を討伐した冒険者たちなのです。興味が湧かない筈が無いでしょう。」


 ゲルバルドの名前が出た途端、ガルムたちの表情が強張った。……あっ、余計な情報を与えちゃったな。

 シュバインも当然その事には気がついている。

 貼り付けている笑みをより一層深くし、内心ほくそ笑んでいるだろう。


「確かにそうだね。僕も君の立場なら気になって来ちゃうかもね。」

「そうでしょう。そうでしょう。」

「てっきり僕は部下・・敵討ち・・・にでも来たのかと思ったよ♪」


 ケルヴィンは先ほどのお返しとばかりに満面の笑みを浮かべてカマをかける。

 そしてそれは思いの外上手くいった様で、シュバインの口端が少し歪んだ。しかし、それも一瞬の事でケルヴィン同様シュバインも笑みを浮かべる。

 ちなみに、関係のない話だが、シュバインは結構なイケメンだ。


 イケメン同士がニコニコと牽制しながら腹の探り合い……。一部の人が狂喜乱舞して喜びそうなシチュエーションだな……。

 ……うっ!背筋に寒気が。


「ふふふ。そんな事はしませんよ。何度も言いますが今日はご挨拶・・・に伺っただけですから。」

「あぁ、そうだったね。あくまで挨拶・・だったね。ごめんごめん。」

「「ふふふふ。」」


 ……黒いなー。シュバイン(豚さん)なのに黒いなー。


「まぁ、目的も達しましたし今日はこれでお暇しますか。」

「……あれ?タダで帰すと思う?」


 やっぱり一部の人が喜びそうな………。もう良いよ!

 ケルヴィンの言葉に冒険者たちが一瞬構えをとるが、続くシュバインの言葉ですぐに構えを解いた。


「勿論です。……と言いますか、貴方方は私を無事に帰す他は無いでしょう?」

「そうかい?」

「えぇ。自己紹介をしました通り私は伯爵です。魔王軍ではそれなりの高い地位にいます。」

「だから?」

「要はそれなりに強いです。たとえ私が倒される事になっても貴方方も無事では済まないでしょう。」

「……それなら尚の事倒さないといけないよね?」

「一面ではそうと言えますが、良策とは言えないでしょう。先ほども言いましたが、私は伯爵です。騎士爵のゲルバルドとは訳が違うのですよ。私が消えれば大規模・・・調査隊・・・をこの街に送らざるを得ない事になるでしょうね?」


 笑みを崩さないままシュバインは言う。

 要は『俺を倒せばさらに大量の魔物がこの街を襲うぞ』と脅しをかけているのだ。

 それがブラフだと言う可能性は十分にあるが、現状そうなってしまうと止められる手段は皆無だと言ってもいい。みんな今回の防衛戦で疲弊しすぎているからだ。


 ケルヴィンもその事を理解している為、それ以上は何も言わない。

 沈黙を肯定と捉えたのか、シュバインは最後にと忠告を残して去る。


「あぁ、そうですね。楽しい時間を過ごせたお礼です。……近々我々はとある大きな宗教国家に大きく仕掛けようと思っています。……正直鬱陶しいんですよねー。羽虫の様にブンブンと……。」


 とある宗教国家……。この世界にある宗教は一つだけだし、その宗教を祀る国も一つだけだ。

 全員がその言葉の意味を理解し、飲み込んだところでシュバインは優雅に一礼する。


「……それでは御機嫌よう。興味深い人間たちよ。」


 魔族領の伯爵様は最後にそう言い残して音も無く消えた。

 既にそこには誰も居ないというのに、俺たちはその場所から目を離せないでいた。










シュバインさんは強キャラ感を出したかったんですが、うまく出来ているんでしょうか……。

正直、微妙な気が……。

後、作中に出てきたシュバインとケルヴィンの絡みは期待しないで下さい。

そんな話を書くなんて……拷問ですか?


ご視聴ありがとうございます。

ブクマ、評価ありがとうございます!


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別作品の宣伝を少し失礼します
お時間がありましたらこちらもお願いします
私、勇者召喚に巻き込まれて死にました?
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