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尊敬と眼差し
兄と違う、私の伝統的な草花の文様を施した装束、
伝統的な羽根を模した様式の船。
そして、伝統的な血筋の2匹のドラゴン。
時代の流れに逆行するようだけれど、これらを全て備えて飛ぶのは、
エルフ一族の威信を示すための決まりごとなのだ。
私の、私と兄の背中には、常にそれが圧し掛かっている。
彼は、ソルベル・ホーリードは、何を思って飛んでいるだろう。
普通、帆船は複数人で操るが、私達は二人で操舵する。
それだけでも人間達は騒ぐのに、彼はたった一人で帆船とドラゴンの双方を操る。
彼の初参加したその日、あまりにも自由に激しく、
そして、あまりにも優雅に美しくドラゴンと共に空を舞う姿に、私は一瞬で心を捕らわれた。
気がつけば今も、ずっと離れた所で開始の合図を待っているだろう彼の姿を、目で探している。
「気になるか? 彼が」
「べ、別にそんなこと……」
兄の不意をつく問いに、頬が熱くなるのを感じた。
「私は気になるぞ」
「え?」
兄の意外な答えに、私はすぐにその意味を飲み込めない。