開幕、あの頃の話から
湖の上、微かに揺れる帆船の中で、俺はガラス越しに空を見上げていた。
帆船、と皆は呼んでいるが、厳密に言えば、この船の動力は風ではない。
この船の動力は、ドラゴンだ。
点々と浮かぶ雲、そして大小様々な飛行船が所々に停泊し、
その中にいる大勢の乗客がこちらを見ている。
『ソルベル、そろそろ時間だ。準備はいいか?』
革製のフライトキャップについた無線機から、ラフェーロの太い声が聞こえてきた。
「ああ、問題ないよ」
俺はフライトジャケットの胸元についた、無線機のマイクに話かける。
『紳士淑女の皆様、いよいよレースの開幕です!
古き良き伝統から発展を遂げた究極のレース!
ドラゴンによる、ドラゴンのための、ドラゴンならではの勇壮なる飛竜艇決戦!
馬も車も、飛行艇ですら見劣りする、大空を舞台にした荘厳かつ過酷な空中戦!
スタートの瞬間からゴールラインを通過するその時まで
目を離すことがないようお願いいたします!』
周囲にこだまする、レース実況者の開始を告げる声に、
飛行船の中、湖周辺、離れた浮島にいる大勢の観客が応え、
怒号にも似た歓声の波が押し寄せる。