飛ぶ理由
俺のフライトジャケットは、
スポンサー、もといパトロンのリッチンフィールド社から支給されている。
ソルベル・ホーリードという俺の名が入ったネームプレートと、
その横に、社名の入ったロゴマークのワッペンが貼り付けられているものだ。
なぜかその下には、パトロンの令嬢のジュリの名前まで入っているのだが。
ミカにも支給されるはずだったが、彼女は俺のお古が良いと言って断っていた。
お古なので当然俺の名が入っていて、
その横に自分のネームプレートを付けている。
なぜ、俺なんかの使い古しが良いのだろう。
わざわざそんなもの着なくても、と思うが、本人の希望なら無理強いはしない。
疑問に思うことは、他にもあった。
「なあ、ミカ」
「はい?」
今度のミカは、驚く様子は見せない。
「一人で乗りたいとは思わないのか?ミカの今の腕なら十分……」
「私は船長の補佐です! 一人で飛ぶなんて私には……それに」
「それに?」
少しの沈黙の後、彼女はゆっくりと口を開く。
「私はソルベルさんの、ソルベル船長の飛ぶ姿を見たいんです。
だから、私は今この場所にいられることが……とても嬉しいんです」
「そう……なんだ」
俺は照れくさくなって、それだけしか答えられなかった。
一人で飛んでいた頃には、考えもしなかった。
共に飛べるのが嬉しい、と言ってもらえるなんて。
しかも、かつてのライバルに。
「ソルベル船長、後ろから来ます」
ミカが窓の外にある影に気付いたらしい。
彼女の報告で、俺も窓の外を見る。
遅れていた後続の飛竜艇が、近くまで追いついて来ていた。
「速度を上げるぞ。このまま後続との距離を保つ」
俺は操舵席にまで伸びる手綱でドラゴンに指示を出し、ミカは船の帆を操る。
World.Dragon.Ship.Classic
その初戦に参加するには、この競技大会、落とすわけにはいかない。