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3.5 夢現


 「ごめんなさい、これでもう、ずっとお別れ。さよなら、ばいばい、ごめんなさい」

 

 声が聞こえた。硝煙の臭いが鼻を焼くこの感覚には覚えがある。夢を見ているのだと、すぐに気づいた。

 

 目の前には竜がいる。物語さながらの闇より黒き竜は、神々が小さな黒化個体メラニズムの蜥蜴に与えた特殊称号によって産み出されたものだ。

 

 北欧で発生したそれは神話をなぞらえて竜王ファフニールと呼ばれることになり、目覚めた瞬間にユーラシア大陸を半分に割った。その後すぐにユーラシア大陸に存在する戦闘系統の称号持ち100人が派遣されたが全滅させる。

 

 歴史上における世界存亡の危機でも、最悪であると結論づけられる。各国はすぐにでも対策を練ったが、出した答えはあまりにも絶望的なものだった。

 

 明星みょうじょうの派遣、それこそが唯一世界を救う術であると、巫を含む未来予知が可能な称号と各国の首脳の出した答えだ。

 

 世界の歴史上において人で唯一、特殊称号を与えられた明星みょうじょうによる単騎決戦は、愚策中の愚策であると理解されていたが、選択肢があまりにもなさすぎたのだ。

 

 蹴散らされた称号持ち、その中でもロシアの誇る雷帝以外の称号は軒並み竜王の持つ鱗に傷をつけることすら出来なかった。息吹で大陸を割る化物を相手に物量戦は意味をなさず、それゆえ当時の最強と名高い明星みょうじょうの派遣以外に手はなかったのだろう。

 

 また彼女の称号は極めて竜王に相性がよかった。特殊称号である明星みょうじょうが保有するのは性質変化光と呼ばれるものであり、文字通り自らの体を光の持つ性質に変えるというものだ。

 

 1秒で地球を7週し、多大なエネルギーは触れるだけですべてを溶かし貫通する。実在の話かは不明だがシラクサのアルキメデスは太陽光を集めることで船を燃やしたとされる。

 

 ただでさえ拡散されやすい光、それも地球から1億5千万キロメートル離れた太陽のものでその威力なのだと言えば、明星みょうじょうの持つ戦力が理解出来るであろうか。

 

 その破格さは、特殊称号の名に相応しく最強と言えただろう。実際に竜王と相対して圧倒していた。

 

 竜王は大きさの割に早く固く強いが、しかしそれらは光ほどではない。1秒に1000を超える風穴を体中に刻まれていく。

 

 しかし元となった蜥蜴によるものか称号によるものか再生力と生命力がずば抜けていた。1000の穴を空けられてもすぐに肉片が傷を塞ぐのだ。

 

 それでも傷は残るし血は減っていく。再生力も生命力も無限ではない以上終わりは来るのだろうが、明星みょうじょうを知っているものからすれば最悪の展開だった。

 

 強力な称号には多大な代償コストが存在する。

 

 例えば巫の未来確定分岐点知覚能力、運命すらも覆す可能性を秘めた称号はその代償に見たものの感覚を自身にも刻みつけられてしまう。もし人がナイフで刺殺される姿を見たのなら、鉄の刃が自らの肉を抉る感覚を共有することになるだろう。

 

 ならば特殊称号であるところの明星みょうじょう代償コストはと言うと非常にわかりやすい。性質変化光の文字通りに光の性質となること。

 

 1秒で地球を7週周りに、あらゆるものを溶かし貫くが、それ以前に代表される光の性質は拡散だろう。空気中の塵などに当たることで光と言うものは容易く散乱してしまう。

 

 つまるところ光に性質変化した体は動くだけで少しずつ肉体が散っていくのだ。そして性質変化していようとも、それは明星みょうじょうの体でしかない。

 

 称号を使って動くほどに、やすりで肉片を削られる激痛に苛まれ、使い過ぎれば最後、拡散しきって消えてしまう。破格の能力にともなう莫大な代償は己の肉と言うわけだ。

 

 苦痛に嗚咽を吐き出して、それでも彼女は竜王の前に立ち続ける。何も知らないだろう1般の女性が拡散していく彼女の血肉を綺麗ねと言った。

 

 現在進行形で全身を削られていく痛みを、苦しみを綺麗だと。わかっていても罵りたくなる感情にとらわれた者は少なくない。

 

 だが、それ以前に目を離すことはできなかった。拡散して光がきらきらとダイヤモンドダストの様に輝いている。

 

 知っているものからすれば、それは血塗られた雨だ。きっとこの世にある全ての拷問をしたとしても足りない痛みに怖気がはしる。

 

 止められはしない、だって止めてしまえば世界が滅ぶのだ。

 

 だから、ごめんなさい。

 

 苦しんでください。

 

 悲しんでください。

 

 傷んでください。

 

 そして殺してください。

 

 私達の変わりに。

 

 だってあなたは英雄いけにえなのだから。

本来次の話の前半部分にする予定でした。


遅くなりましたが、完全に趣味で作ってるので酷く読みにくい自覚はあります。

これを書き終えたら、もっと読者に配慮したものを書こうと思っています。

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