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 要するに、脳天に電極をぶっ刺した方が気持ちいいので、女の子と交尾する回数はやがて減っていった。そして、深く哲学的対話をするようになった。

「あなた、お金どれだけ残ってるの?」

「さあ、たぶん、大丈夫じゃないかな。金額がゼロになったことはないし」

「ふーん。あたし、大富豪が好きだよ」

「そうか。大富豪になって帰ってくるよ」

 そして、ぼくは大富豪になるために町へくり出した。この町に雨は降らない。天候制御されているからだ。水源はなんか難しいからくりで確保されている。雨から上水道を引いていたのは古代のことで、今では海水をろ過して上水道にして引いている。上水道施設は海岸線にある。

「おい、大富豪になるって何をするんだ」

 自動販売機が聞いてきた。

「盗みに決まってるだろ。あれだろ、札束とか持ってれば大富豪なんだろ?」

「印刷機を盗む気か」

 自動販売機が詰め寄る。

「そうだよ。造幣局の輪転機を奪うんだよ」

 ぼくが答えると、近くに偶然いた牛がいった。

「その話のった。おれも輪転機盗むぜ」

「おお、牛。やってくれるか」

「任せろ」

 そして、ぼくたちは造幣局の輪転機を盗むことになったのだ。いっておくけど、怪物たちはまだ貨幣を使っているし、ぼくも貨幣を使っていることになっている。自動認証で自動決済しているので、お金を使っているという感覚はないのだが、貨幣はちゃんと存在しており、人工知能によって運営されている。

「輪転機に詳しい甲殻類さんに来てもらった。彼のチームに入れてもらう」

 牛がいった。ぼくは誰かのチームに入るというのが気に食わなくてちょっと反抗した。

「その甲殻類さんは輪転機を盗んだことがあるのかい?」

 ないなら、誰が上とか下とかない。みんな対等だ。

 しかし、甲殻類はいった。

「ああ、おれの盗みは輪転機専門だ。怪物たちから造幣局の輪転機を盗むとなると簡単にはいかないぞ。しくじれば、監獄行きだ」

 監獄へ行くとどうなるんだろうとぼくは思った。

「監獄はだいたいヌーディストビーチになっている。あろうことか、ヌーディストビーチ程度の快楽で暮らさなければならないのが監獄に入るということだ」

 ぼくはぞっとした。なんと恐ろしいんだ。全人類の消費量を超えるだけの商品が全自動工場で製造されている現在において、ヌーディストビーチごときでがまんしなければならないとは拷問も同じだ。

 牛も同意見らしく、慎重にいこうなとお互いに言い合った。

 輪転機を盗んで大富豪になるんだ。決行の日、甲殻類とぼくと牛と自動販売機と他に五人くらいいた。

 造幣局に入ると、赤い光が線上に走った。よくよく考えてみると、人工衛星から地上すべてが監視できている現在において、それを掌握している人工知能が犯罪を成功させることは、わざとそうしているのであり、見逃されただけであり、遊ばれているだけである。だが、ぼくたちは真剣だった。造幣局の怪物に見つからないように急いで輪転機を台車に乗せると必死に押した。

 無事、輪転機を盗み出したのだ。輪転機は軽量化されており、一家に一台準備するのも可能なように思えたが、きっとすごい印刷技術をもっているのだろう。ぼくは大富豪になったと思って囚人病院の女の子のところへ会いに行った。

 すると、女の子のところに先に甲殻類が来ていた。

 ぼくは、

「見ていろ」

 といって、輪転機を回して、紙幣をじゃんじゃん刷った。十億円くらい刷ると、ぼくは輪転機を止めて、女の子にいった。

「大富豪になったよ」

 怪物と牛と自動販売機もやってきた。甲殻類と女の子の隣に並ぶ。

 しかし、二十台の警備ロボットがやってきて、ぼくらを囲んだ。やはり、犯罪はバレていたのだ。

 やっちまったな。これでぼくは犯罪者だ。

 警備ロボットは、ぼくらに犯罪をせずに同じ金額を稼ぐ方法を指導した。犯罪者は愚かだから犯罪をするのだ。もっと賢いものは犯罪をせずに同じ利益を手に入れることができる。ぼくは砂場アートで十億円を稼ぎ出し、輪転機を盗む必要がなかったことを理解した。輪転機を盗まなくても人生をやっていけるようにこの社会はできていたのだ。

 ふう。なんだか、すがすがしいな。ぼくは女の子と遊びをつづけた。


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