表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最近の人類は魔王をナメている  作者: 木口なん
四人将棋~破滅の神剣編~
87/123

87話

お久しぶりです。

失踪していませんので、ご安心ください。少し忙しくなっただけです。


 アリアの肉体を乗っ取った大悪魔マリティアは、禍々しい笑みを浮かべながら魔力を放出した。そして放出した魔力を制御し、一つの魔術を完成させる。

 この世の法則を超越した、一つの概念を作り上げた。



『久しぶりだから腕が鳴るわねぇ……《混沌死嵐カオス・テンペスト》』



 混沌属性の大魔術が発動した。

 魔力は瘴気に変わり、それが圧縮されて気流のような流れを作り出す。流れは加速度的に大きくなっていき、最終的には天を衝く竜巻となった。

 巨大竜巻は瘴気によって真っ黒に染まり、巻き込んだ生物の生命エネルギーを削り取る。高い生命エネルギーを持つ竜種ですら、致命傷を負う威力だ。まして、人間が巻き込まれれば即死である。

 瘴気竜巻は建物を破壊しながら中立都市アリオンを移動する。



『懐かしい景色ねぇ』



 感慨深げにマリティアは呟く。

 肉体はアリアだが、中身は大悪魔。発せられる声は二重に重なっており、どこか悍ましい雰囲気すら感じる。

 これこそが真なる祖。

 悪魔の王だ。



『次ね次』



 混沌の竜巻に満足したマリティアは、右手を翳して握り潰すような動作をする。同時に、蕩けるような笑みを浮かべつつ呟いた。



『性質変化、《消滅デリート》』



 すると混沌属性に変質が起こる。

 生命エネルギーを削る瘴気としての性質から、物質エネルギーを削る消滅の性質に移行した。既に発動した魔術に含まれる魔力を掌握し、そのまま性質変化させることで同属性別魔術を発動させる高等技術である。

 これによって黒い竜巻は一気に凝縮し、黒いいかずちを閃かせる。そして嵐は一つの黒い球体へと変貌した。

 黒い雷を放つ球体に触れた物質は完全に分解され、物質エネルギーとして削り取られるのだ。



『ふふふふ……制御能力は鈍っていないようねぇ』



 直径数百メートルもあった黒い球状の塊が徐々に圧縮されていき、バチバチと閃光を放ちながら全ての物質を飲み込む。縮小速度は急速に早くなり、遂には小さな一点となって消えた。

 周りにあった建物も人も皆飲み込まれ、お椀上に抉り取られている。

 目に見える物質だけでなく空気も消滅したので、風が吹き込んでかなりの突風も生じた。

 これがたった一体の悪魔によって引き起こされたのである。



『準備運動はこれぐらいでいいかしら?』



 神剣を地面に突き刺し、マリティアは大きく伸びをする。そして体の節々を伸ばし、アリアの肉体の脆弱性を確かめた。



『魔力で強化しても、余り持ちそうにないわね。まぁ、元の肉体を完全復活させるまでの繋ぎだし、ボロボロになったところで別に構わないと言えば構わないんだけど……』



 鬱陶しいわね、とマリティアは言葉を続ける。

 マリティアは神剣を破壊することで復活したのではなく、アリアを通して疑似的に顕現している状態なのだ。今だに本体は神剣内部に封じ込められている。だが、復活も時間の問題だ。

 それまでの間、アリアの肉体を仮で使えれば構わないのである。

 しかし、脆弱な人間の中でも、更に脆弱なのがアリアの体だ。魔力で強化しても限界がある。マリティアはそれが鬱陶しくて仕方なかった。



『まずは混沌の魔力を一杯使って、神剣の封印を破壊しなくちゃいけないわ。忙しいわね』



 マリティアはそう言うと、神剣に混沌属性を纏わせた。禍々しい黒の瘴気が剣に纏わりつき、視線を向けるだけで背筋が凍りそうな威圧を放つ。

 しかし、この混沌すら、マリティアにとっては大したものではない。

 精々、軽く力を込めたという程度だ。



『あの城郭の外に殺し甲斐のある人間ゴミが沢山いるわね……それ!』



 軽く神剣を振るうと、その直線上が混沌によって切り裂かれる。斬撃は十キロ以上離れた城郭の外にまで届き、天を衝くほどの黒い斬撃跡が出来上がった。

 一軍を破壊すると言われる神剣の力も、マリティアからすれば軽く力を放出した程度に過ぎない。

 これが法則属性に至った正真正銘の化け物。

 竜王すら超える存在の力である。



『この程度の混沌だと、まだ封印は壊れそうにないわね。残念だわ』



 マリティアは五百年前、勇者と言われた人物に封印された。当時は存在しなかった・・・・・・・魔道具を開発し、時空属性や生命属性を操って大悪魔を封印したのである。

 勿論、マリティアはそのことを覚えていた。

 故に、この神剣が簡単には壊れないことも理解していた。脆弱なアリアの肉体を壊さない様に憑依を続け、神剣から混沌魔力を引きずり出して封印を壊さなければならない。憑依が解けてしまえば、再び意識が神剣に戻されてしまうのだ。

 完全復活のため、今は慎重に動くしかない。



『あら?』



 そんなとき、マリティアは不意に見知った気配を感じ取った。それは高速で接近しており、視線を向ければ小さく影が五つ見える。

 ニヤリと笑みを浮かべたマリティアには、その内の四つをよく知っていた。



『スペルビアにルクスリア、グラ、アケディアかしら? 懐かしいわね』



 かつての部下の内、四体が揃っていることにマリティアは喜んだ。














 ◆◆◆














 少し時は遡る。

 マリティアがアリアに顕現し、半復活状態となったとき、高位悪魔たちはそれを察知していた。人間たちが争っている遥か上空からも、神剣の力は良く見えた。予定通り、ことが進んだのだろうと分かる。



「これは! マリティア様が復活されたようですね」

「懐かしい気配だわ……ふふふ、ゾクゾクしちゃうわ」



 スペルビアが感動したという雰囲気を出し、ルクスリアは両手で自らの肩を掴み震える。双方、悪魔の王が復活したことを心から喜んでいた。

 勿論、グラとアケディアも同じである。



「マリティア様、また会える……嬉しい」

「うわぁ……ホントにボスが蘇っちゃったよ。魔王様の言った通りだったね。凄いや」



 普段はダルそうな怠惰のアケディアでさえ、喜びを表に出している。よほど嬉しいのだろう。

 魔王セイ=アストラルも計画通りに事態が進んだことで、小さく笑みを浮かべた。そして、喜びを確かめ合う四人の高位悪魔たちに向かって口を開く。



「まずは大悪魔の所に向かおうか。合流して、情報を共有しよう。あとでイーラとも合流しないといけないからね」

「畏まりました魔王様」



 そう言ったスペルビアは、悪魔の翼を大きく開く。それに続いてルクスリア、グラ、アケディアも翼を開き、強い気配のする方へと飛翔した。

 今いる場所はアリオン城郭の丁度真上あたりなので、大悪魔マリティアのいる場所までは十キロ以上も距離がある。飛んで行っても、それなりの時間はかかるだろう。

 高位悪魔たちはそれがもどかしいのか、かなりの速度で飛んでいた。



(神剣はやはり大悪魔が封じられていたか。予想通りだな)



 各地に放ったアビスから集めた情報、そしてアビスネットワークを利用した思考を重ね、殆ど事実だろうという域まで予測をしていた。だが、昔の話ゆえに決定的な証拠はなく、少し不安だったのだ。

 とはいえ、結局は予想通りだったので問題ない。

 後はこのアリオンを悍ましい戦場に変え、大量虐殺によって人類の掃除を行うのみである。

 その後の計画もあるのだが、そちらは全てが上手くいってからだ。



「っ!? 気を付けろ。とんでもない魔力だぞ!」



 移動を始めてから少し経ったとき、セイは不意に注意を促した。

 魔力の精霊王としての特性もあり、セイは自分の外にある魔力を感知できる。大悪魔が準備運動代わりに発動した魔術を感知した。

 セイが警告すると同時に、黒い嵐が生まれる。混沌の瘴気が渦を巻き、天を衝く竜巻となった。



「無茶苦茶だな……」

「これでこそマリティア様なのです魔王様」



 無属性魔術《障壁》を足場にしながら空中を進むセイは、恐ろしい魔力に驚く。恐らく、魔王である自分をはるかに超えているだろうと予想できた。

 一方で、すぐ横を飛翔するスペルビアは、当然だという態度を崩さない。

 確かに、高位悪魔たちを七人も束ねているのだから、それぐらいの能力を持っていてもおかしくない。人類を誘惑し、滅ぼす悪魔の王こそが大悪魔マリティアなのだから。

 そして瘴気によって生命エネルギーが削られている街の人々を眺めていると、法則属性の凄まじさがよく分かる。



「雰囲気が変わった。魔術が変質する……」



 黒い瘴気の竜巻が収束し、巨大な球体となる。魔力を感知できるセイは、それが先程の魔術とは全く違うと気付いた。

 直径数百メートルもの球体は、黒い雷を放ちながら収縮し、周囲の物質エネルギーを削り取りながら小さくなっていく。

 生命エネルギーを削る初めの魔術と異なり、この魔術《消滅デリート》は物質エネルギーを削り取ることが出来る。



(魔術構成を発動状態から変える……そんな技術があるのか)



 尤も、セイはそんな恐ろしい混沌属性の脅威ではなく、魔術発動の精密さに驚いていたが。



「街を喰い尽くした! グラがお気に入りの《消滅デリート》じゃないかな?」

「久しぶりに見た……感動」



 どうやら先の魔術はグラがお気に入りだったらしく、感極まった表情を浮かべている。アケディアも嗜虐的な笑みを浮かべつつ、完全消滅した街の一部を指さしていた。

 よく見ると、ルクスリアも妖艶な表情でうっとりしている。



「ああ! マリティア様! 素晴らしい魔術だわ!」



 高位悪魔たちは生き生きとしていた。

 それもそうだろう。

 今の今まで、王が封印されていたのだ。それが解放されたとなれば、歓喜しないはずがない。



「見えて来た。あれが大悪魔かスペルビア?」

「その通りです……と言いたいところですが、あれはマリティア様の御姿ではありませんね。どうやら憑依しているようです。だといたしますと……まだ完全復活ではないようですね。残念です」

「……あれは確か、代表神子アリアか」



 セイは遠くに見えるその姿から、誰に憑依しているのか判別した。

 少し前は神子一族……つまりアリスティア一族の暗殺を行っていたので、アビスを使って情報収集もしていた。そのお陰もあり、神子一族の人相は全て把握しているのだ。

 尤も、代表神子アリアの顔は有名なので普通に知っていたし、以前に自由組合の依頼で会ったこともあるのだが。

 アリアに憑依しているマリティアは、神剣を掲げて混沌瘴気を纏わせた。そして無造作に振り下ろすと、城郭すら切り裂く黒い斬撃となる。斬撃に沿って瘴気が天まで昇り、破壊の跡を誇示しているように見えた。



(軽くやってあの威力か。大悪魔とは敵対したくないな)



 精霊とは中立の立場であり、悪魔と仲間ではない。

 場合によっては敵対することもあり得るのだ。

 今は共通の敵として人類がいるし、魔力の精霊王は自然と人類に敵対することとなる。故に気にならないが、仮に戦うとすれば相当な被害を覚悟しなければならないだろう。

 高度な魔術を使い、様々な能力を持つ眷属悪魔を召喚する。

 更に王である大悪魔は法則属性すら持っている。

 その予定はないが、戦うとすれば、セイも力魔法を手に入れてからだろう。



「あら? マリティア様も私たちに気付いたみたいね」



 ルクスリアの言葉を聞き、セイも思考の海から意識を引き上げる。

 すると、アリアに憑依したマリティアがこちらへと視線を向けていることに気付けた。セイ、スペルビア、ルクスリア、グラ、アケディアは一瞬の内に目配せを行い、互いに頷いて速度を上げる。

 そして減速することなく、マリティアの目の前へと着地した。

 ズンッと地面が割れる音がして、四体の高位悪魔が着地する。セイは重力制御の魔法陣魔術を発動し、衝撃を緩和しつつ着地した。

 高位悪魔たちはすぐに膝を着いて頭を下げ、臣下の礼を取る。



「傲慢の高位悪魔スペルビア、参上いたしました」

「色欲の高位悪魔ルクスリア、今ここに」

「暴食の高位悪魔グラ……です」

「怠惰の高位悪魔アケディア。えーと、参上しました」



 マリティアは四人の顔を確認し、口を開く。



『憤怒のイーラ、強欲のアワリティア、嫉妬のインウィディアがいないようだけど?』

「恐れながらマリティア様。イーラは作戦のために別行動中でございます。そしてアワリティアとインウィディアはまだ封印されたままとなっております」

『あらそう? なら、仕方ないわねぇ』



 七人の高位悪魔が揃っていないことに不満でも吐き出すのかと思えば、アッサリと流した。そしてマリティアは、次にセイへと目を向ける。



『そっちの貴方は何者?』

「俺は魔力の精霊王セイ=アストラル。貴女の復活のために、悪魔たちと協力して色々やらせて貰ったというわけだよ……」

『ああ、今代の魔王なのね? まぁ、私の復活を助けてくれたみたいだし、感謝だけはしておくわ。私が感謝するなんて滅多にないから、自慢できるわよぉ?』

「残念ながら、自慢できる相手がいなくてね」

『仲間の精霊王たちはどうしたの?』

「エルフ共に封印されているせいで、現存する精霊王は俺だけになっているかな」

『へぇ、私が封印されている間に色々あったようねぇ』

「それは今から説明させて貰う。貴女には色々と協力して貰いたいこともあってね。まぁ、復活させた借りを返すと思って欲しいかな」

『いいわ。聞かせなさい』



 セイは一拍置き、それから今の世界情勢について軽く説明を始める。精霊王、竜王、迷宮、悪魔、竜殺剣ドラゴンスレイヤー、そして竜脈……

 出来るだけ簡潔に、そして正確に説明するのだった。















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ