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最近の人類は魔王をナメている  作者: 木口なん
四人将棋~破滅の神剣編~
85/123

85話


 三公国連合は悪魔の軍勢を相手に優位を保っていた。『紫電』アイリスや『煉獄』イーラ、『死師』アルトリウスのような個人で大戦力となり得る人物の活躍が主な要因である。

 それ以外にも、基本的に軍の練度はかなり高い。

 魔術や武器の発達に伴い、悪魔が相手でも人類は戦えるようになっていた。

 だが、その戦況も一気に崩れる。

 何故なら、悪魔たちが中立都市アリオン内部へと向かい、そこで暴れ始めたからだった。



「魔王様、眷属どもをアリオンへと誘導いたしました」

「ご苦労スペルビア。眷属悪魔たちは東側に集中させてくれ。出来るだけ派手にね。神子一族にしっかりとアピールしてほしい」

「仰せのままに」



 スペルビアだけでなく、ルクスリアやアケディアやグラも悪魔たちをアリオン東部に移動させる。アリオンの誇る大城郭を破壊させ、次々と悪魔たちを侵入させた。

 攻撃力の高い雷光魔蟲エニグマ、壊音魔狼フォルテが暴れまわり、破壊の嵐を呼び起こす。

 住民は逃げ惑い、多くの血が流れた。



「お、三公国連合も動き出したね。動きが予想通り過ぎて面白くないけど」

「所詮は我らの手に転がされるゴミでございます。知能が足りないのは当然かと」

「まさか戦争に黒幕がいるとは思っていないだろうからね。城郭が崩れたら、軍はそちらに動く。それが罠だなんて思いもしない」



 アリオン東部の城郭が崩れたことで、三公国連合軍はそちらへと移動を始めた。侵入するチャンスであると同時に、悪魔討伐のためでもある。

 今回、三公国が連合を組んだのは神子一族が悪魔に魅入られているという情報を得たからだった。つまり、悪魔討伐という大義名分の元、進軍しているのである。悪魔が一か所に集中していれば、そこに軍を差し向けるのは当然だった。

 つまり、セイたちは眷属悪魔を動かすことで、三公国連合を自在に操れるのである。



「あらあら? 人類って単純ねぇ」

「ねぇ、暇だから大規模魔法を撃ち込んでいい?」

「アケディアも……単純?」

「煩いよグラ!」

「二人とも喧嘩しないの」



 ルクスリア、アケディア、グラも人類に対して散々な物言いを続ける。確かに、掌の上で踊り続ける姿を見れば、滑稽にも映るだろう。

 そして何よりも滑稽なのは神子一族だった。



(王よ。神子一族が動きました。神剣の封印が解放されたようです)

(分かった。アビスは監視を続けろ。神剣の力が発動されたら俺たちも行く)

(是。監視を続行します)



 代表神子アリアは三公国軍、及び悪魔撃退のために神剣の封印を解いた。

 五百年に渡って封印が解かれなかった、その力が解放されたのである。

 それが魔王セイ=アストラルの計画通りだと知らずに……












 ◆◆◆













 神剣が封印されているのは神子一族が住む居住区画の中でも特別な場所だ。五百年にもわたって封印されており、神子一族の血によってのみ封印を解くことが出来る。そして神剣を扱えるのも神子一族の血族だけだった。

 不敬にもアリオンを軍で囲んだ三公国、そして不浄な悪魔を滅するために、アリアは五百年で初めて神剣を解放したのである。



「これが神剣……私も初めて見たわね」



 神剣は祠の中に抜身のまま収められていた。

 台座へと嵌め込まれ、魔術による封印が施されている。動力源は竜脈のようだった。ちなみに、封印の解放は特に大掛かりな儀式が必要というわけではない。封印の台座へと神子一族の血が触れることで、勝手に解かれる仕組みとなっている。



「全く……どうして解放に血なんて必要とするのかしら? 痛くて仕方ないわ」



 ナイフで指先を傷つけ、一滴の血を流して封印を解放した。その傷が痛み、アリアは眉を顰める。だが、すぐに傷口を舐め取り、両手で神剣を手に取った。

 剣ということもあって重いものだとイメージしていたが、羽のように軽い。



(ふふ、これが神剣に選ばれるということね。当然よ。私は特別なんだから)



 ちなみに、神子一族以外の者が触れると電流が流れ、非常に重たくなる。アリアが神剣を羽のように軽いと感じるのは、単なる血統によるものだった。

 アリアは神剣を手に取り、封印の祠から出ていく。

 祠の外では侍従のメフィス家当主、マルコ・メフィスが待っていた。



「アリア様。無事に神剣を解放されたようで」

「ふん、私は選ばれた代表神子。このぐらい当然よ」

「流石でございます……して、このまま戦場へ赴かれるのですか?」

「は? そんなわけないじゃない」



 アリアはマルコに向かって不思議そうに問い返す。



「どうして私が戦場に出なくてはならないの?」

「しかし、神剣とは剣でございましょう? どのようにしてお使いになられるのですか?」

「馬鹿ねぇ。神剣の力はそんなものじゃないわ」



 馬鹿にしたような口調だが、マルコは表情を変えない。何故なら、神子一族とは至上の存在であり、自分たちでは計り知れない者たちだと考えているからだ。

 神子一族に仕える者たちにとって、神子一族は絶対。

 アリスティア家は神にも等しいのである。



「折角だから、マルコに神剣の使い方を見せてあげるわ。付いて来なさい」

「そのような名誉に与れるとは……感動でございます」

「ふん。当然よ。私の護衛たちにも見せてあげるわ。感謝しなさい」



 武のフランチェスカ家、裏のメイガス家の者たちもアリアの前に現れ、頭を垂れて膝を着く。そして神剣を扱う様子を目に焼き付ける名誉を心から喜んでいた。



「さぁ行くわよ。私の街に土足で足を踏み入れた無礼者はどこにいるのかしら?」

「東でございますアリア様」

「案内しなさい。そうね……東の外壁なんかが丁度いいわ」

「はっ!」



 マルコは用意しておいた人力車へとアリアを乗せ、神子一族居住区の東外壁へと移動する。実は外壁ではなく、円環状になっている神殿通路なのだが、アリアたち神子一族は外壁と呼んでいた。

 神剣を祀る大神殿は左右に通路が伸びており、それが円環を描いて神子一族居住区を取り囲んでいる。この通路は魔術陣の役目にもなっており、神子一族居住区を守っているのだ。

 尤も、セイが魔力核ダンジョンコアを回収したので、その効果は失われているが。

 そして、アリアが言う東外壁とは、大神殿東回廊の屋上ということである。

 屋上は人が入れるようになっており、神子一族がアリオンの景色を眺めるのに使ったりする。下界――アリアたちは一般居住区をそう呼んでいる――を眺めることで悦に浸るのだ。



「急ぎなさい」

「はっ!」



 アリアが人力車に乗り込むと、それをフランチェスカ家の者たちが引っ張って移動を始める。神子一族居住区は道が平らに整備されており、人力車にもバネが仕込まれているので揺れが殆どない。それなりに速度を出しても快適な道中を愉しむことが出来る。

 神子一族居住区には季節の草花が茂っているので、非常に景色が良いのだ。



(下賤で野蛮な愚か者に天罰を下してあげるわ……)



 人力車の中で神剣をウットリと眺めつつ、アリアはそんなことを考えるのだった。









 ◆◆◆







 時は少しだけ遡る。

 自由組合アリオン第一支部に集まった支部長たちは、焦りの表情を浮かべていた。



「神子一族へと送った使者はどうなった?」

「残念ながら門前払いされました」



 第四支部の支部長は首を横に振りながら答えた。

 大神殿から最も近い第四支部からアリスティア家へと使者を出した。使者の自由組合員にはアリオン支部全体の意思が記された手紙を持たせてあり、その手紙を届けることを依頼としたのである。

 だが、依頼は失敗した。

 大神殿で門前払いを喰らったのである。



「なんでも『これよりアリア様が神剣を解放される。余計なことはするな』だそうです」

「おいおい……そりゃ最悪の展開だろ!」

「まさか連合軍を薙ぎ払うつもりか?」



 第三支部長と第一支部長は表情を歪めた。

 伝承にある神剣の力は一軍を薙ぎ払うほどとされている。一振りで戦争を終結させる威力が解放されたら、大災害では済まない。

 それに、今回の件は色々とキナ臭い。



「フィーベルやドロンチェスカ、それにグロリアの自由組合支部からの話だと、アリスティア家の方々が悪魔に魅入られているなんて噂が流れていたんでしょ? ちょっとおかしいわ」

「明らかにおかしいのは分かっているよ。例の霧が立ち込めてから、アリオンは孤立していた。その間に情報操作でも行われたように思えるね」

「第二支部長殿と同意見です。何としてでもアリスティア家の方々を止めなくては。神剣を起動させてはいけません」

「だがどうするんだ? 門前払いだったんだろ第四支部長?」

「それは……」



 今回の件で腑に落ちないのは、本当に悪魔が出現していることだ。もしかすると、本当にアリスティア家は悪魔に魅入られてしまったのではないかと考えてしまう。門前払いされたから余計にだ。



「せめて連合軍が引いてくれれば良いのだが……」

「フィーベル、ドロンチェスカ、グロリアの支部には通達したんだろ? それ経由で各国を説得できねぇのかよ?」

「無理だ。事実として悪魔が出現している。それに、アリスティア家の地であるアリオンに軍を差し向けたのだ。三公国とて絶対の口実が必要となるだろう。軍を差し向けた以上、勘違いでは済まないのだ。何としてでも悪魔に魅入られた噂を事実にしてくる」

「ならどうするのよ!?」



 第五支部長が両手を机に打ち付けて声を荒げる。

 しかし、具体的な解決策は浮かばない。もう取り返しのつかない所まで来ているのだ。アリオンが霧の結界に包まれている間に、一体何が起こったのか……

 全ては謎である。



『…………』



 五人の支部長が黙り込んだ時、不意に外から激しい轟音が聞こえた。地鳴りもすさまじく、会議に使っていた部屋も軋む。カップも倒れ、飲み物がテーブルに零れた。

 慌てて第一支部長が叫ぶ。



「どうした! 何があった!」



 それは会議室の外で警備している者へと呼びかける声だった。

 しばらくすると扉が開き、大きめの金属板を持った女性が二人入ってくる。



「アリオン東の城郭が崩されました。すぐに映像を出します」

「早くしろ!」

「はい!」



 二人の女性はすぐに準備をして、持ってきた金属板を壁にかける。そして魔道具を操作し、金属板に外の様子を映した。遠隔で映像を受信する魔道具である。

 そこには崩れた城郭、暴れる悪魔の姿が映し出されていた。家屋は次々と倒壊し、逃げ遅れた住民が犠牲となっている。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だった。



「これは……まさか悪魔が!」

「そのようだね」

「おいおい……こりゃまた……」

「すぐに自由戦士を派遣しましょう。これは流石に!」

「魔術部門から聖属性の使い手を選抜するわ。早くしないと手遅れになる」



 遂にアリオン内部にまで悪魔が侵入してきた。これにより被害は増大する一方となる。それに、三公国連合も悪魔退治を目的としているのだ。軍が東城郭へと集中すれば、さらに混乱は広がるだろう。悪魔たちはアリオン内部へと進み、軍もそれを追いかけて進軍を続ける。

 加速度的にアリオンは火の海へと変貌することになる。

 つまり、早急にするべきなのは内部から悪魔を追い立てることだ。それによって悪魔がこれ以上広がらないようにし、連合軍と挟み撃ちする形で早期に悪魔を殲滅する。



「急げ! 選出は第五支部長殿を中心に頼めるか?」

「ええ、私も元は魔術部門出身。伝手を頼るわ」

「それなら、私はもう一度アリスティア家に接触してみます。どうにか神剣の使用を思い留まるように、私自身が赴きましょう」

「俺も出るぞ。元は戦士部門だ。自由戦士を率いて悪魔を殲滅する」

「僕は避難指示を出すよ。通信機を借りるよ第一支部長」

「好きにしろ!」



 悪魔、連合軍、そして自由組合員がアリオン東城郭周辺へと集結することになった。そして神剣を手にしたアリア・アリスティアは神殿東回廊の屋上で、禁忌の力を解放しようとしている。

 この状況が何を引き起こすか……
























「神剣を解放するわ。滅びなさい、愚かなる下民と薄汚い悪魔!」



 大神殿東回廊の屋上にて、滅びの引き金が引かれた。











一か月ぶりです。

次の話で遂に神剣が解放されます。

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