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最近の人類は魔王をナメている  作者: 木口なん
四人将棋~破滅の神剣編~
71/123

71話

セイ対バズは飛ばします。

ダイジェスト以下で終わらせます。


 結局、御前試合の決勝戦は引き分けに終わった。セイは武器の中でも使い慣れた剣を使い、アビスネットワークを利用して全力で挑んだ。それでもバズ・フランチェスカはその全ての攻撃を防ぎ、受け流し、さらに反撃までしてきたのである。

 あまりにも試合が長く続いたので、遂には代表神子アリアも飽きてしまい、引き分けとなった。

 セイは演算を全て戦闘へと回したが、それでも倒し切ることが出来なかった。

 フランチェスカ家は血統スキル『リボーン』で死線を潜る度に強くなれるのだが、バズも何度もスキルを発動させることで強者となったのだろう。まだ二回しかスキル発動したことのないリファとは大きな違いだった。

 セイの計算上、バズは『リボーン』を十三回ほど発動させていることになる。これでまだ強くなれる可能性を秘めているとすれば、強化させたくない。そのためバズに死を感じさせないように立ち回ることも重要だと思わされた。

 それからおよそ三か月、セイはリファとの模擬戦をメインとして何度も戦わされていた。



「足元が疎かだ」

「くっ!?」



 セイが柄を使ってリファの足に引っ掛ける。すると、リファはバランスを崩して倒れてしまった。そしてそのまま彼女の左足に穂先を突き刺す。



「くあああああああっ!?」



 リファは痛みで叫んだが、セイは特に容赦しない。

 それがこの模擬戦のルールだからだ。

 審判のバズはリファの血統スキル『リボーン』を発動させるために、死を感じさせる戦いを何度も行わせていた。セイは基本的にリファを限界まで追い詰めるのが仕事である。



「はぁ……まだですかバズさん?」

「もっと追い詰めろ」

「分かりましたよ」



 正直、この仕事は加減が難しい。

 別にセイとしてはリファを殺しても問題無いのだが、殺さないように追い詰めるのが仕事だ。しかも、リファには常に殺気をぶつけたりと精神的な揺さぶりも要求される。

 また様々な武器の相手を想定しているのか、セイの使う武器も毎日違うのだ。今日は槍だが、昨日は斧だったし、明日はナイフになる予定となっている。



(ま、実戦慣れには持って来いだし、これまで使わなかった武器種の練習にもなる。しばらくは今の状況に甘んじる他ないかな?)



 高位悪魔たちの準備が整うまでは暇になる。

 アビスによる情報収集も順調なのでセイがすることは特にない。



(長ければ数年はこのままだね)



 セイは密かに溜息を吐くのだった。









 ◆ ◆ ◆







 三公国の右上に位置するフィーベル公国へと潜入していた憤怒の高位悪魔イーラは、得意の戦闘を生かすために軍へと志願していた。三つの公国が争い合う乱世では兵など幾らいても足りず、募集は月単位で行われている。

 ただ、ここで問題となるのは書類審査だった。

 適当に募集すれば、自分たちの腹の内へと間者を紛れ込ませることになってしまう。厳正な書類審査がどうしても必要だった。そうなれば、国籍のないイーラは書類審査時点で弾かれてしまう。

 どうするべきか。

 それはスペルビアがどうにかした。

 幻惑魔術で多方面を誤魔化し、偽りの書類を書き上げて無理やり通してしまったのである。高位悪魔の中でも知能が高いスペルビアにとっては児戯のようなものだった。

 そうして軍の一兵となったイーラを見届けた後、スペルビアは担当となっているグロリア公国へと向かって行ったのである。

 そしてイーラは、軍事演習でその実力を遺憾なく発揮していた。



「アハハハハハ! その程度か?」



 イーラはハルバードを武器として振り回し、得意とする炎・爆属性魔術で仮想敵を蹂躙していた。彼女はたった一人で一部隊を越える実力を発揮する一方、味方すらも攻撃に巻き込むということで有名だ。そのため、彼女を指揮する大将は、イーラを単騎で突っ込ませ、囮と撹乱役に抜擢していた。

 無茶な命令にも思えたが、これが想像以上に嵌る。

 たった一人で相手の本陣まで突き進み、途中の罠すらも力技で乗り越える。爆炎の魔術が出ていない部隊すらも吹き飛ばし、あっという間に演習を終わらせてしまったのだ。

 敵陣の真ん中で高笑いするイーラを見て、味方すらも恐怖したほどである。

 ここで演習場全体に響くサイレンが鳴り、軍事演習が終了したことを知らせる。それを聞いたイーラは詰まらなさそうな表情をして溜息を吐きながら戻って行ったのだった。



(ふん、他愛ない。雑魚兵じゃ話にならない)



 高位悪魔は単騎でランク10相当の強さを誇る。一般兵がランク5相当であることを考えれば、相手にならないのも当然だった。フィーベル軍に所属する将軍クラスならばランク10に届く猛者もいるので、対等に戦えるだろう。

 しかし、まだ一般兵の一人でしかない彼女にはそんな機会などない。

 そのはずだった。

 この軍事演習で、偶然にも将軍が見学しに来ていなければ、末端の兵にこのような実力者が隠れていることなど気付きはしなかっただろう。

 演習全体を見守るための監視塔でフィーベル軍二番手の将軍アイリスがイーラのことを見ていたのだ。



「あらぁ? 強い娘がいるわねぇ?」

「これはこれは、紫電将軍のお眼鏡に適う者がいたのですかな? と言いたいところですが、自分もよく知っております。あの少女でしょう?」

「ええぇ。とぉっても強いわぁ。アレなら私の部下にしたいぐらいよぉ?」

「呼びましょうか?」

「そうねぇぇ。それならそこの広場に呼び出しなさぁい」

「はっ!」



 軍事演習の監督をしていた上官はすぐに放送のスイッチを入れて呼び出した。



『先程、白軍の陣地へと単騎突入した赤軍の一般兵は監視塔下にある広場に来い。早急にだ!』



 この上官もイーラの名前は知らなかったので、特徴を述べて呼び出す。単騎で突撃をかけた者など一人しかいないので、簡単に分かるだろうと思ったのだ。

 案の定、赤い髪を靡かせたイーラはすぐに広場へとやってきた。



「来ましたよ紫電将軍」

「ありがとねぇ。じゃぁ、行ってくるわぁ」

「は? 将軍?」



 監視塔の窓に足をかけるアイリス将軍を見て、上官は言葉を失う。そしてすぐに止めようとしたが、間に合わずにアイリスは飛び降りてしまった。監視塔は地上五十メートルの位置に監視室があるので、そんな場所から飛び降りれば命はない。

 慌てた上官はすぐに窓へと駆け寄り、飛び降りたアイリスの姿を追った。

 しかし、それで杞憂だったと気付く。

 アイリスは風を操り、落下速度を落として優雅に着地したのだった。

 イーラはアイリスの姿に気付き首をかしげる。

 それは当然だろう。

 将軍だけが着ることの出来る白い軍用コートを羽織っていたのだから。そして彼女のコートの襟には紫の雷を模したマーク入りのバッジが付けられている。紫電将軍と呼ばれるアイリス直属の配下だけが付けることを赦されるバッジなので流石のイーラでも良く知っている。

 将軍用コートを羽織り、そのバッジをつけているということは、将軍本人であるということに他ならない。

 イーラは馬鹿ではないので、なぜ将軍が目の前にいるのか理解できた。

 自分の実力を見て目を付けたのである。



「貴方が奮闘する姿を見せてもらったわぁ?」

「そうか。別に大したことではない。あんな雑魚ばかりでは蹴散らせて当然だ」

「ふぅん? 勇ましいのねぇ?」

「それで何の用だ紫電将軍?」

「あらぁ? 私が誰だかわかっちゃったのかしらぁ? それに折角飛び降りたのに全然驚いてくれなかったしぃ、ちょっと詰まらないわぁ」

「質問に答えろ」



 イーラの口調はとても上官に向ける者ではないが、生憎アイリスはそんなことを気にしない質だ。彼女が求めるのは実力であり、気質ではない。爆炎と共にハルバードで敵を薙ぎ払う彼女の実力を気に入ったのだ。

 この紫電将軍と呼ばれるアイリスは嵐属性魔術を得意としており、腰まで届く紫の髪から『紫電』と呼ばれるようになった。獲物は軍用武器としては一般的なサーベルであり、特注の魔法武器でもある。素材は過剰に魔素を帯びたケイ素、つまりオリハルコンであり魔術をブーストすることができる。彼女の得意とする雷鳴の魔術をこのサーベルでブーストした場合、要塞を一撃で消し飛ばす落雷を降らせることすら出来るのだ。

 怒らせれば死体すら残らない。

 そんなアイリスにふてぶてしい口調でいられるのはイーラか同格の将軍、あとは大公マルス・フィーベルぐらいなものだろう。



「そうねぇ。貴方は私の軍に入る気はない?」

「アイリス軍……通称、紫電軍団か」

「ええぇ。貴方のような実力者なら歓迎するわぁ」



 これは大抜擢である。

 軍に入団してから、昇格して将軍直属の軍団へと入るとすれば、年単位で時間がかかる。偶然にも戦争が起こり、武功を立てれば一年以内に可能かもしれない。

 しかし、こうして将軍自らが引き抜くというのは滅多にないことだ。

 ただ、逆に言えばそれだけの実力がイーラにはあるということである。

 当然と言えば当然だが。

 しかし、イーラはここで素直に頷くべきか迷っていた。



(コイツの部下に入れば、一気に昇進だ。だが、そうなるといつまでもコイツの部下にさせられそうだ。魔王の要望通りなら、私は将軍クラスになった方がいいらしいからな。あまり軽々しく頷くわけにはいかん。正規の手順で上がるにしても時間がかかるし、その過程で結局将軍直属の部下にさせられそうだ)



 イーラは暴れたがりであり、頭脳仕事は得意ではない。しかし、イコール馬鹿ということでもない。必要ならば頭も使うのだ。高位悪魔であり、長く生きている以上、それなりの知能はある。

 人類を効率よく滅ぼすにはどうすれば良いか。

 その過程で憤怒を司る自分が暴れるにはどうすれば良いか。

 この二つを両立するためには頭を使わなければならない。世情、敵の性格、味方の現状、その他さまざまな要素から未来を予測するために馬鹿ではいられない。その経験則から、イーラはすぐに最適の回答を叩きだした。



「それなら私を実力で叩き伏せてみろ。私は自分より弱い奴に仕える気はないぞ」

「……道理だわぁ。それなら話は簡単ねぇ――」



 アイリスは腰のサーベルを抜き、軽く魔力を纏わせる。するとバチバチと音がして紫色の雷が刀身を覆うように現れた。

 彼女は切先をイーラに突きつけつつ言葉を続ける。



「私が勝てば貴方は私の部下ぁ。貴方が勝てば私が貴方を将軍に推薦してあげるわぁ」



 そしてアイリスはサーベルを薙ぎ払い、紫電を飛ばした。

 イーラはそれを回避しつつ、内心でほくそ笑む。



(ふん、馬鹿め。私の思い通りだ)



 イーラが狙うのは将軍の地位である。

 そこへ手っ取り早く至りたいなら、同じ将軍を叩き潰せばよい。強者と戦うことで自分の中に燻る感情にも応えることが出来る一石二鳥の案だった。

 アイリス将軍は、将軍の地位としてはナンバー2だが、実力はフィーベル軍最強とも言われている。

 相手に不足はない。



『総員、監視塔から避難しろ! 近くにいる者はすぐに立ち去れ! アイリス将軍の巻き添えを喰らうぞ!』



 すぐ側の監視塔では耳が痛くなるほどの大音量で放送が流され、避難が促された。アイリスの操る電流のせいですぐに電気系統は落ちてしまうので、避難勧告は早めに出す必要があるのだ。

 案の定、アイリスの放電によって監視塔の電気系統はショートしてしまい、放送はプツリと止まってしまった。これ以上は意味がないと判断し、監視塔を仕切る上官を始めとした者たちも一斉に退避し始める。



「あらあらあらぁ? この程度なのかしらぁ?」

「調子に乗るなよゴミクズが! 灰も残さず消してやる!」



 紫電と爆炎が混じりあい、電流と爆風によって周囲の木々は薙ぎ倒され、焦がされる。これでもまだ小手調べなのだから、二人の実力はすさまじい。

 まずはお互いの魔術を撃ち合い、簡単な挨拶としていたのだ。

 魔術合戦が終われば、次に来るのは武器の打ち合いである。

 イーラはハルバードを構え、アイリスはオリハルコンのサーベルを構えた。武器性能が違いすぎることなど、戦場では言い訳にしかならない。会い見えれば殺し合い、武器で敵わなければ技術で補い、技術が足りなければ気力で戦う。

 これが戦場である。



「死ね!」

「私を楽しませなさぁい?」



 イーラは炎魔力の活性によって肉体を強化し、力と速さでアイリスに斬りかかる。一方、アイリスは得意とする風・嵐属性の力で器用に戦っていた。上手く風の流れを作ることで高速移動し、相手の攻撃も風の防壁で受け流す。そして反撃は高圧の雷を纏った一撃だ。

 アイリスは元から膨大な魔力を保有しているので、身体能力が高い。

 素の状態で高位悪魔にも迫るほどだった。

 イーラも炎の活性がなければ苦戦していたことだろう。最強の将軍と呼ばれるだけあって、イーラでも簡単にはいかない相手だった。



魔界瘴獄門インフェルノ・ゲートは使えない。このハルバードも高熱には耐えられない。不利な戦いを強いられたものだな。だが私は甘くないぞ紫電将軍!)



 イーラはもはや周囲のことなど考えない。

 目の前のアイリスを倒すために、全力の爆炎魔術を発動する。



「私の憤怒を受けてみろ! 《星の怒りイラプション》」



 大地へと片手を着いてイーラが発動させたのは彼女の持つ最大級の魔術の一つ。大地の怒りを呼び覚まし、滾る炎を呼び寄せる大規模魔術。

 地は裂け、赤く染まり、マグマが噴き出る。

 演習場は一瞬にして紅蓮に染まったのだった。









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