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最近の人類は魔王をナメている  作者: 木口なん
受けの居飛車~霊峰の戦い編~
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5話



 真っ白な銀世界の中に佇む無数の氷柱。日の光を反射して幻想的な光景を見せているが、その中に風景に会わない一人の少年がいた。濃紺のブレザーに赤いネクタイという雪山ではありえない恰好であり、しかもその状態で寒そうにしている様子はない。薄く茶色が入った黒髪と黒目が特徴的な彼は難しそうな表情で何かに集中しているように見えた。

 しかしそれよりも目を疑うのは背後にいる巨大なドラゴンだ。透き通るような白に、薄っすらと青みががった鱗が美しい。五十メートルをも超える巨大竜が少年を見つめてつつも雪山と同化するように横たわっていたのである。

 


「やっぱり難しい」

「初めだけだ。慣れれば息をするように出来るだろう」

「魔力の精霊王でも練習は必須かぁ」



 地球でコンビニ強盗に殺され、魔力の精霊王として転生したせいは氷竜王監修の元で訓練に明け暮れていたのだった。それは魔力を扱うせいが最も基本的に扱うべき技術であり、この世の誰よりも上手く出来なくてはならない技術。

 『魔力操作』だ。

 体内の生命エネルギーを操作して魔力を練り上げる。この段階で意思が乗るため、生命エネルギーは自然と魔力に変化するのだ。そして普通は操作できない生命エネルギーも魔力に変化すれば意思のままに操作をすることが出来る。これが魔力を扱う全ての能力の基礎となる魔力操作だ。

 せいは初めて感じる魔力を上手く動かすことに苦戦していたのである。



「魔力か……一体どうなって体を流れるんだろうな」

「難しく考えすぎだ。魔力とは意志が宿った生命エネルギーなのだ。強く想えば望みのままに動かすことが出来るだろう」

「んー。俺はどちらかと言えば理詰め派だからなぁ」

「そもそも精霊王であるお前は魔力の体なのだぞ? そうして体を動かしているだけでもある意味では魔力操作をしているということになる。ならばどうして魔力だけを動かすことが出来ないのだ?」



 呆れたように溜息を吐く氷竜王。せいとしてはイマイチ実感がないのだが、実は精霊の体は魔力で出来ている。体を動かす事とは魔力操作と同義なのだ。ならばこそ、改めて魔力操作に苦戦するというのは氷竜王としては理解できないのである。

 しかしせいも今の説明は納得がいったようだった。

 普段、自分が歩くときに足を意識する者はいるだろうか? 歩くために、右足と左足に意識を集中させて交互に出していく。さらに足首や膝を曲げる角度にも注意しながら一歩一歩を進んで行く……などと言う者はいないだろう。それと同様で魔力も体の一部と考えればよいのだ。意識せずとも感覚のままに動けと命じればいい。普段何気なく歩き回るように魔力を動かすのだ。



(魔力は新しい手足だ……手足……手足……)



 フィーリングではなく理論で考えることが得意なせいにとっては難しいようだ。急に腕が四本に成ったり、背に翼が生えたりすると戸惑うように、新しい魔力という存在に戸惑っていたのである。

 しかし全く知らない未知の物質やエネルギーという考えを捨てたことで少しは進展したのだった。



「ん……おっ、おお! もしかしてこれか!?」



 しばらく集中することでせいも身体の中を何かが巡るように感じることができた。それは体の中を異物が巡るといった感覚ではなく、むしろ安心するような暖かなものだった。せいの中に魔力は異物だという思いがあったからだろう。それで今までは動かすことも出来なかったのだ。

 しかし一度魔力が動く感覚を知ってしまえば問題は無い。人間だった時に体を血液が流れていた時と同様のイメージを持てばよいのだ。魔力は異物ではなく、むしろ体そのもの。精霊にとって魔力が体であるとはそういうことなのだ。



「ほう……一気に上手くなったではないか」

「コツみたいなのが分かったからな。お前の助言のおかげだ」

「ふん。もっと褒めたたえるがいい」



 少し照れているのか、顔を逸らしながら威張る氷竜王。五十メートルをも超える巨大なドラゴンがそのような態度を取ることにせいは苦笑する。

 しかし氷竜王としても魔王とは持ちつ持たれつの関係なのだ。せいに協力するのは自分自身のためでもある。一刻も早く力を身に付けて魔王として魔力を回収して欲しいのだ。

 急に真面目な様子に戻った氷竜王はせいの方を向いて口を開く。



「魔力が動かせるようになったら次の段階だな」

「次は何だ?」

「いざという時に身を守るための術だ。攻撃するための力も重要だが、生まれたばかり……いや、転生したてのお前は自分の身を守る方法を手に入れなければならない」

「ああ……確か無属性魔法だっけ?」

「その通りだ」



 魔力の精霊王は、その名の通り魔力を司る。そしてその自然属性は『無』だ。純粋に魔力を扱うために無属性と称されるのだ。ただし、これはかなり難易度が高い……というよりは魔王だけの特異な属性なのである。

 氷竜王はまずその説明を始めるのだった。



「よいか? まず魔力とは生命エネルギーに意思を乗せたものだ。生命エネルギーから魔力を作る行為を『練り上げる』とも言う。そして意思の宿った魔力は様々な現象を引き起こす。意思とはある意味で願いなのだ。魔力は願いを叶えるための根底にある力であり、そこから引き起こされる現象を魔法、魔術と呼んでいる。ここまでは前に話したおさらいだ」

「大丈夫だ。覚えている」

「そして魔力にはそれぞれ属性が宿っているのだ」

「属性……ね」



 せいはそう聞くと日本のゲームや漫画を思い浮かべてしまう。魔法があることは氷竜王が飛ばした氷を見たことがあるため疑いようのない事実だ。しかし魔法の仕組みや属性などについてはまだ教えて貰っていなかったのだ。

 興味深そうに耳を傾けているせいを見て氷竜王も説明を続ける。



「属性は全部で十六種類だ。まずは基本属性の炎、水、土、風。これらは世を構成する基本物質だとも考えられている。どこだったかの宗教国家も神が初めに創った属性だと語っていたな。私としてはどうでも良いことなのだが」

「なるほどね。基本ってことは上位互換の属性があるのか?」

「そうだ。次にあげられるのが上位属性の爆、氷、樹、嵐だ。私はこの中の氷属性を持っている。それに基本属性を練習すれば上位属性も使えるようになることが多い。生まれつきから上位属性の魔力を持っている者もいるようだが、練習すれば誰でも辿り着ける領域だな」

「じゃあ、上位属性も珍しくはないのか。これまで出てきたのは八属性……ってことは残りの八属性は才能が無いとダメってことなのか」

「察しが良いな。その通りだ」



 現にせいが持っている無属性はまだ出て来ていない。無属性は魔王だけの特殊なモノであり、才能以前の問題なのだが、他の属性もそうなのかと考える。せいが思いつくような属性としては光や闇、重力など定番の属性である。

 果たしてその通りなのかと期待しながらせいは続きを待った。



「次の四属性は特殊属性と呼ばれる。これらは完全に生まれ持った才能で決まるのだ。聖、呪、虚、無の四つはかなり珍しいと言えるだろうな。無属性以外は百人に一人もいない程度だろう。前も言ったが無属性は魔王だけの属性だから今はお前だけだ」

「百人に一人か……国単位で考えれば結構な人数がいそうだな」

「まぁ、そうだろう。聖属性は治癒や浄化を司っている。逆に呪属性は毒や瘴気、呪いのようなものを扱う属性だな。武器に付与して装備者を登録するという使い方もある。虚属性は幻影や精神に影響を与えるための属性だ。地味だが相当厄介だぞ」

「じゃあ無属性は?」

「魔力を直接扱って様々なことが出来る。障壁や魔力核ダンジョンコア作成、魔物作成などだな。私も詳しくは知らん」



 やはり魔王だけの属性ということもあって氷竜王も無属性をよく分かっていなかった。しかしせいとしてはある程度の使い方が分かるだけありがたい。無属性という字を見ただけでは想像しにくいモノを扱うのは情報なしには不可能だろう。

 例えば魔力核ダンジョンコアを作ることが出来るなど思いもよらなかった可能性が高い。



「魔王は迷宮を使って魔力を回収するんだったよな? 無属性魔法はそのための専用魔法なのか」

「それもそうだが、私が身を守るために身に付けて欲しいと言った魔法は障壁だ。他の属性では対応できない現象にも無属性障壁なら対応できる」

「どういうことだ?」

「例えば炎属性の障壁は謂わば炎の壁なのだ。非物質ゆえに土属性の攻撃は防ぎにくい。聖属性と呪属性にも障壁はあるのだが、聖属性は呪属性を、呪属性は聖属性の攻撃を防ぐことしか出来ないのだ」

「つまり無属性以外の属性では全てを防ぐ完璧な障壁は出来ないと」

「そういうことだ」



 魔力を練り上げることによって意志が宿り、自然と属性が付与されてしまう。性格などによって属性が変化するのだが、全くの無属性魔力を練ることが出来るのは魔王だけである。それは魔力を管理する魔王だけの特権なのだった。

 何色にも染まらないからこそ完全な障壁を実現できるのである。



「まぁ、様々な属性の魔力を混ぜることで属性を相殺し、疑似的に無属性を作る技術もあるようだが、自分の身一つで無属性魔法を使えるのは魔王だけだ」

「属性の相殺か……なるほどな」

「それほど気にする必要はない。要はお前の劣化版でしかないのだから」

「……油断だけはしないようにするよ」



 自分だけの属性と聞けば特別感がある響きだが、それで油断していては意味がない。それに無属性が最強などとは誰も言っていないのだ。安心するにはまだ早い。

 何よりこれまで氷竜王が語ったのは十二属性しかない。残りの四属性はこれまでの流れから予想すれば、最も上位に位置すると考えられる。



「それで最後の四属性は?」

「最後の四つは特殊属性よりも貴重だ。人類の中でも知る者は多くはないだろう。自然を管理する者たちが使う最強の法則属性。それが生命、混沌、時空、力の四つだ。例えば私は竜脈の生命エネルギーを扱うため生命属性を持っている。私だけなく竜種は生命属性を生まれつき持っているのだ」

「竜脈を扱う属性か……」

「ちなみに生命属性は聖属性の上位属性でもあるのだぞ。呪属性は混沌属性になり、虚属性は時空属性になり得る。そして無属性は力属性となることがあるのだ」

「じゃあ俺は力属性を使えるのか? というか虚属性の上位が時空属性?」

「力属性が使えるかは知らん。法則属性は特殊属性を持つ者の中でも本当の一部が辿り着く領域。人類の中でも十人いれば多いぐらいだ。だからお前が力属性まで到達するかはお前次第だろう。あとは私のように生まれつきで法則属性を持っていれば別だな。

 そして虚属性は精神内において時間と空間を支配する属性だ。上位になるとそれが現実世界まで拡張されるのだよ」



 力属性……恐らく無属性の純粋なエネルギーを変換することで使えるのだろうとせいは予想した。魔法として扱うことが出来れば相当に便利だろう。それこそ戦いではなく生活の中で大いに役に立つはずだ。



(もしかして人類が無属性魔力を作ろうとするのは力属性のためなのか?)



 せいはそんなことを思うが、今は確かめる手段は無い。魔王である以上、存在がバレたなら討伐されるかもしれない。折角転生したのなら簡単に死ぬつもりはないのだ。そして自分の目で世界の状態を確かめなければ気が済まないのである。



「やっぱりまずは身を守る手段を手に入れないとな」

「その通りだ。まずは無属性障壁を練習するとよいだろう。その後は魔王としての役目を果たすために魔力核ダンジョンコアを作成し魔物を生成する練習だ」

「よし、目指すは力属性で頑張るか!」



 せいは動かせるようになった魔力を使って無属性魔法の練習を始めるのだった。

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[一言] レアな属性100人に一人って多くね?
[一言] 「これが本当の力属性魔法だ!!!」って言って敵をぶん殴り始めたら面白いですね 頑張ってください
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