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最近の人類は魔王をナメている  作者: 木口なん
穴熊囲い~アルギル騎士王国編~
36/123

36話


 自由組合という組織は大きな力を持っている。

 国際的な組織であるため当然のことかもしれないが、それを知っていても大きな組織なのだと驚かざるを得なかった。



「やっぱり凄い建物だな」

「えーと……六階建てですか? 本当に凄いですね」

「キュキュ!」



 自由組合の支部は道を聞かずともすぐに分かる。

 何故ならどこから見ても目立っているからだ。多くの資料が存在し、人材も豊富となれば、拠点となる支部が大きな建造物となっても仕方ないのかもしれない。しかし、あれほど目立つ建物を見せられると、やはり組織力の違いをハッキリさせているようだった。

 セイ、ルカ、アルクはそんな自由組合に登録するために建物の中へと向かう。

 霊峰の大迷路を攻略するためか、かなりの人数が出入りしていた。



「ルカ」

「何ですかセイさん?」

「さっき打ち合わせた設定は覚えているか?」

「はい。セイさんは異世界人で僕は剣の弟子ですよね?」

「そうだ。忘れるなよ」



 すでにセイは魔王であると同時に異世界からの転生者であることもルカに話している。魔王の話よりも転生の方が驚かれたのだが、子供故の柔軟性で対応してみせた。

 ルカとしてもセイが魔王と知っていたので、今更驚くことが増えても同じだと思ったのである。十歳の割に達観しているルカであった。



「ルカはアルクにも気を付けろよ。従魔を持っているのは貴族か金持ちだからな。アルクも普段は小鳥のふりを忘れるな」

「はい」

「キュイ!」



 セイの方は大した問題もない。魔力の精霊王としての力を使えば、保有している莫大な魔力を偽装することも容易いのだ。魔力感知をされたとしても魔王だとは気づかれない。

 しかしアルクが従魔であることがバレるのは拙い。

 下手をすれば自由組合の情報網でルカ=ルキウスであると気付かれてしまうだろう。そうなれば良くないことが起こると簡単に予測できる。それに騎士団の中には霊峰でセイの顔を見た者もいるのだ。大々的にセイが調査されると、魔王だとバレる可能性は十分にある。

 セイとルカは念のためローブのフードを被りつつ、自由組合リンデル支部へと入っていった。



「へぇ」

「わぁ」



 中の設備は中々のものであり、隅々まで掃除されているのが分かる。よく物語やゲームで見かける冒険者ギルドのような粗暴な感じではなく、市役所に近い。特に酒場が隣接されているなどと言うこともなく、清潔感が保たれていた。

 さすがは大組織と思えるほどである。



「えっと……整理番号を取るのか。近代的だな」



 セイは十五と記された整理番号札を取り、ルカを伴って近くのソファに腰かける。貴族が使うような高級品ではないが、それなりに機能性の高い座り心地だった。こういった部分にも自由組合の組織力の強さが滲み出ていると理解できる。

 セイとルカの二人が呼ばれたのは数分後のことだった。



「十五番の方ー。二番窓口までお越しください」



 放送システムもあるのか、部屋中に音声が響き渡る。これならば部屋を出ていない限りは聞き逃すことも無いだろう。魔法技術か科学技術なのかは不明だが、かなり高度な設備を有してるようだ。

 そして呼ばれたセイはルカを連れて二番窓口へと近づいていく。

 窓口に座っていた女性は二人の姿を見て笑顔を浮かべつつ口を開いた。



「ようこそ自由組合へ。どのような用件でしょうか?」

「登録をお願いします。二人です」

「かしこまりました。では専用の用紙を出しますので少々お待ちを」



 女性はそう言って席を立ち、様々な書類が保管されている棚へと近づいていく。その中で一つの引き出しを開き、用紙を二枚取り出して戻ってきた。



「こちらになります。北方語は使えますか?」

「読み書き共に出来ます」

「僕も大丈夫です」

「では説明をしますね。こちらに名前と年齢、誕生日を記してください。また特定の住所がある場合はここにお願いします。住所は必須ではありませんが、あれば助かるという程度です。あとは特技を記載して頂き、特筆事項があればここにお願いします。それを参考にして所属する部門をこちらで提示しますから」



 セイとルカは説明の通りに書類を埋めていく。住所は持っていないので飛ばしたが、その他は作っておいた設定どおりに書き切ったのだった。

 二人は殆ど同時に書き終え、それを受付の女性へと渡す。



「ありがとうございます。セイ様は剣士で魔力感知の希少能力持ちですか。……なるほど、異世界人なのですね。そしてルカ様はセイ様の弟子? ルカ様は異世界人ではないのですか?」

「はい。ルカとはこちらの世界に来た時に出会いました」

「かしこまりました。では少し処理をしますので、あちらのソファに御掛けになって少々お待ちを」



 受付の女性はそういって資料を取り出し、セイとルカが所属できる部門をピックアップしていく。自由組合には相当数の部門があるのだが、それらはカテゴリに分けられているため、セイとルカの特技から簡単に探すことが出来る。

 二人は五分と経たずに再び呼び出されることになった。



「セイ様、ルカ様。お待たせいたしました。二番窓口までどうぞ」



 再びソファから立ち上がった二人は言われた通りに二番窓口へと向かう。するとそこには数枚の資料を揃えた受付の女性が待っていた。



「お待たせいたしました。こちらが所属可能な部門です。まず、セイ様は戦士部門、異世界人部門の二つですね。そしてルカ様は氷属性の使い手ということでしたから、戦士部門と魔術部門になります。所属には制限がありませんが、所属数が多いと、部門の数だけ自由組合に収めるお金も増えます。どうなされますか?」



 おそらくセイの超神速演算能力を特技として記せば、さらに多くの部門が紹介されるのだろう。だがこの演算能力はセイの切り札であり、決して見せるつもりはない。それに、所属部門が多ければ情報も集まりやすいが、上納金も比例して増えていくのだ。多くても三つまでが丁度いいだろうとセイは判断する。



「俺は二つとも所属しよう」

「僕は戦士部門だけでいいです」

「ルカ様は魔術部門に入らなくても宜しいのですか? 新人では難しいかもしれませんが、成果を出せば秘匿級魔術の閲覧も出来ますよ」

「いえ、構わないです」



 受付の女性は少し残念そうな顔をしていたが、所属部門は強制できるものではない。仕方ないといった様子で諦めるのだった。

 ちなみにルカが魔術部門に所属しなかったのは、あらかじめセイが言っていたからだ。氷属性を使えるとなれば間違いなく魔術部門を紹介されるので、断るように言っておいたのである。

 何故ならルカの氷魔術は強すぎるからだ。

 最高位まで進化した絶死氷鳳凰デス・フェニックスアルクは、謂わば魔力の精霊王に次ぐ程の力を持った魔力の精霊である。そんなアルクと契約しているルカの氷魔術は強すぎるのだ。魔術部門に所属すれば目を付けられ、アルクのことがバレるのは間違いない。

 だからこそ、あえて魔術部門は避けたのだ。



「では登録します。組合員証を発行しますね」



 受付の女性がパチパチと専用の魔道具に何かを打ち込むと、別の魔道具から二枚のカードが出てくる。まるでパソコンと印刷機みたいだというのがセイの印象だった。

 そして二枚のカードは受付の女性を通して二人に渡される。その際に女性は軽く説明を行った。



「それが組合員証です。無くさないでくださいね。自由組合法に加盟してる国では身分証明書として使えますから、仮に失くした場合はすぐに失効届を出してください。その後再発行しますので。そのための会員コードはメモして別に保存しておくことをお勧めします」



 受け取ったカードは特に魔術的な効果のない普通のものだ。呪属性を使えば使用者固定化も不可能ではないが、そうしたいならば個人的に専用店で行うらしい。高額なので、普通は組合員証に記載されている会員コードをメモしておくのだという。

 セイの場合はアビスネットワーク内に記憶しておけるのでメモすら必要ない。

 二人はそれぞれの収納袋に入れておくことにした。

 そしてそれを見た受付の女性は二人に改めて口を開く。



「これで御二人も自由組合員です。細かい会員規約もありますが、基本的には好きにして貰って構いません。規約と言っても常識の範囲ですからね」

「はい、知ってます」

「それと、御二人は自由戦士部門に所属されましたので、戦士ランクを測ります。単純に強さを見る模擬戦ですが、このランクによって仕事にも差が生まれます。試験はいつにされますか?」

「今からは大丈夫ですか?」

「すみません。少し準備が必要ですので……ですが今日の夕方ごろに試験を受ける方がいるようですから、そこに入れてもらう形なら可能です」



 一週間後などと言われればセイも嫌な顔をしたかもしれないが、意外と早く済みそうなので、夕方に試験を行えるように頼んでおく。受付の女性も快く試験登録をしてくれたのだった。

 そして受験票をササッと作り、セイとルカに手渡す。



「これを持って夕方四時までに自由組合事務窓口へお越しください。事務は受付カウンターの一番右端です」



 女性はそう言いつつその場所を左手で差す。セイたちから見て右端ということらしい。二人は縦に頷いて了解の意を表した。それを見た女性はさらに言葉を続ける。



「それと戦闘試験ですから、それなりの恰好で来てくださいね。ただ、武器はこちらで用意した模擬戦用のものを使いますので、用意するのは防具です。セイ様は剣士ということでしたから、特に変わった武器は使われませんよね?」

「はい。俺もルカも剣ですね。ルカの魔術はどうなります?」

「魔術に関しては模擬戦形式ではなく、別の測り方をします。正確には実戦での成果が基準になりますから、模擬戦では本気での魔術行使を控えてください。流石に危険ですからね。それで剣の成績と合わせて時間を掛けつつ正確な戦士ランクを決めることになります」

「なるほど。理解しました」

「いえ、他にも分からないことがあれば質問をどうぞ」



 セイはそう言われてルカに目を向けるが、ルカは首を横に振るだけだった。そこでセイは最後にもう一つの所属部門に関する質問をする。



「異世界人部門はどうなんです?」

「あ、そうでした。こちらに関しては少し事情が特殊です。一度、異世界人部門の部屋に行っていただき、そこで本当に異世界人かどうかを試験するそうです。もしも異世界人というのが嘘だった場合、組合は虚偽報告の罰で罰金を科すことになっています」

「つまり、本当の意味で異世界人部門に所属するのも試験が必要というわけですね」

「はい、申し訳ありません」



 女性は軽く頭を下げるが、試験というのがあっても当然のことだと思える。この世界において異世界人だけのネットワークを形成している以上、外部からスパイをしてくる可能性もある。この世界の住人からすれば異世界人は外来の存在であり、探りを入れておくのも当然だからだ。

 そして異世界人部門では探りを徹底的に排除している。

 表面的には仲良くしているが、水面下ではそういった戦いも勃発しているのが現状だった。



「異世界人部門の部屋はどこです?」

「四階の四〇三号室になります」

「ルカは……入れないですよね」

「そうなります」

「じゃあ、ルカはここで待っていてくれ。暇だったら何か本を貸すけど?」

「いえ、この前借りたものが読みかけなので大丈夫です」

「わかった。じゃあ俺は行ってくる。受付の人もありがとう」

「いえ、試験も頑張ってくださいね」



 セイはルカと一旦分かれて四階を目指す。さすがにエレベーターは無かったので階段を上ることになったのだが、精霊王であるセイは疲れなど無縁だ。軽い調子で昇りきる。



「四〇三……は…ここか!」



 階段を上ってすぐの場所だったため、セイはすぐに部屋を見つけることが出来た。中からは談笑している声が聞こえる。数人ほど居ることが魔力感知でも確認できた。

 扉を開けば自分と同じ異世界人がいる。

 精霊王に転生したセイだが、その中身には日本人としての記憶がある。もしかしたら同郷の人物と出会えるかもしれないと考えると、少しだけ気分が高ぶった。



(緊張するな……)



 セイは被っていたフードを外し、意を決して扉をノックした。






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ルカと鳥うざすぎる笑
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