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ママの星  作者: ホモはメンヘルちゃん
9/21

プッシュ・アウト!:ママ

モンゴルで家畜をさばいた時の経験が話のもとです。

 何が起こったのか、それを理解するのには少々の時間が必要だった。



 何かが弾ける音がした後、大きな衝撃が私を叩き視界は真っ黒にそまった。


 だが、すぐに私の視界は再び世界を取り戻した。


 そこにはのけぞりながら吹き飛ぶアセトの姿があった。



 私もまた衝撃によってとアセト共に吹き飛んでいた。しかしその衝撃が私に直接的な損傷を与えていないのは経験と感覚からすぐに察することができた。比較的強固な防護膜が残っている背後から衝撃を受けたことでダメージは少なかったのだ。


 

 しかし……いったい何が起こっている!?



……誰が私を吹き飛ばしたのだ……?




 私の頭は体に感じる強い衝撃と理解のできない状況で混乱していた。なにせ私もまたアセトと同じように空高くへと吹き飛ばされているのだから。



 胸のペンダントから機械のような女性の声が力強くはっきりと発せられた。


「……ママ……そんなことは…………ない!」


「テスタメント!!?」


「っ……いっけぇッッ……!!」




 砲の使用限界である3発目のプラズマ水弾が、姿をあらわにしたアセトに向かって打ち上げられた。



……だがちがう!何か様子が違うのだ!!向かってくるのは水弾ではない………!!!

 

 あれは人影!薄雲を蹴散らしながらまっすぐこちらに突き進んでくる者がいる!!





「ぅぁぁぁぁぁあああああああああああああッ!!!!!!」





 徐々に見えてくる……桜色の髪型、白い着物、かん高い幼な声……あれは竜輝!……竜ちゃん!!



 なぜ!何をしているのだ!?何をするつもりなのだ!!??




「あああああああああぅ!! ッううああああああああッ!!!」




 竜輝の姿と叫び声が近づくにつれ、その異形がはっきりとあらわになってきた。


 鬼と犬の混ざったような形相をした竜輝の右腕からは長く太い樹の幹が伸びている。その先端は血管のようにドクドクと脈動する蔓と幾分かに分かれた細い幹によって巨大な斧様の刃と融合しており、刃紋にあたる部分はすでに血塗られたように真っ赤に染まっていた。



 彼女はミサイルのように雲を突き抜け、きらきらとした水滴を散らしながら、私を追い抜き、吹き飛んで無防備となっているアセトに追いついた。



 まさか……旧支配者の高射砲の水弾といっしょに撃ちだされたのか……?


 とすると私を吹き飛ばした衝撃は、旧支配者の放つ水弾……??


 私を吹き飛ばしてアセトと玉突きをさせた・・・!?



 「あああああああああああっっ!!! ッッッいくぞォッッ!!!」

 



 竜輝はそう叫ぶと右腕にあたる幹をギュルンと蚊取り線香のようにしならせ、力を大きくためた。


 しかし、アセトは宙返りをして体勢を回復した。そして、透明化することなくまるで操り人形のような素早い挙動でプラズマの刃を展開し、グンと竜輝のほうへと突っ込んでいった。


 両者は一瞬のうちに生死を分かつ準備を整えたのだ。



 バヂンッッッ!!!



 両者の武器がぶつかりあい、爆発に近い形で衝撃波が広がった。だが、両者は衝撃に引き離されることなく、己の獲物を力づくで相手に突き立てんとばかりに鍔迫り合った。両者はなおも宇宙へと落ち続けていく。



「ゥゥゥウ……ッウォォオオオ”オ”オ”オ”オ”ッッッ!!!」



 竜輝は自分の体の筋繊維に触手のような樹木を覆わせながら、魂を燃やし尽くさんとばかりに吠えた。するとその顔はみるみるうちに幼子のそれではなくなり、完全に狼へと化したのである。何千もの細い木の幹で編み上げられた半狼人が宇宙へと落ちる。



 アセトの顔には竜輝の怒れる斧刃がガチガチと近づいていた。両者の怒りと怒りをぶつけあった結果、アセトの力は圧倒されているのであった。



 アセトを支配する寄生体は鍔迫り合いでは不利であると判断したのか、竜輝を離そうと鍔迫りの手をそらそうと試みた。だが、竜輝は左腕ごと大きく鋭い爪をもった樹木の手腕にすると、アセトの頭を強引に掴み殴った。それはアセトに、逃れられない残酷な結末が訪れることを予感させていた。



「ガァァアア”ア”ア”ア”ア”ア”ッッッ!!!!」



 完全に樹木の狼と化した竜輝は、さらに吠え上げると左腕に渾身の力を込めた。体液を激しく送り込まれた左腕は一回りも二回りも大きく肥大化していった。


 この地球でもっとも力を持つ種は疑うまでもなく植物だ。なかでも樹木種は抜きんでた怪力を誇っており、どんなに硬い地盤であろうとも容易く貫き、ひねりつぶすのだ。その気になれば、壊せないものなどこの地球に存在しないだろう。そんな力で頭を掴まれているのだ。この後に予想される仕打ちは最も苦痛を伴う方法である。



 ブチッ!ッブチ!ビリビリビリィッッ!



 何かがつぶれ、紙がちぎれるような音があたりに重く響き渡る。だが潰されているものもちぎられているものも決してそんな軽薄なものではないのだ。竜輝の左握りこぶしからアセトの橙色の血液がびゅうびゅうと飛び散り、掴まれた頭と首の間で伸びる数本の筋繊維と皮膚はみるみるうちに細くなっていった。10本あった筋繊維と皮膚の糸は、あっという間に5本、3本そして0へとなり、完全にアセトの体は二つに分かれてしまったのだ。


 私は引き裂かれる宿敵の血雨を浴びながらその様子をただただ見つめていた。



……震えが……止まらなかった。

 

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