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ママの星  作者: ホモはメンヘルちゃん
7/21

閑話;浜辺に流れ着いていたスマートフォンの音声記録

 オーストラリア・シドニーの海岸で私の子供がひとつのスマートフォンを見つけてきたんです。

 

 とりあえず、海水にひどく濡れていたけれど、防水だからなんとか大丈夫かもって、なくして困っているだろう持ち主さんのことを調べるために充電してみると、やっぱり動作したんです。


 でもやっぱり壊れてるみたいで画面にはカメラアプリしかアイコンがなかったんです。ちょっといけないと思いつつも、なんとか持ち主さんのことを突き止めたくて内部メモリにたった一つだけ残されたムービーを再生したんです。


 それは画面が真っ黒で音声だけが流れるものでしたが、すごく奇妙な内容でした・・・。

 


 恐らくは暗いであろうコクピットの中で、ぼくは敵がやってくるのを静かに待っていたのだ。



 だがやってきたのは沖で溺れ漂流していた君で、敵意がないからとりあえず助けたというわけさ。



 あと・・・約16時間、10時間前はやはり緊張はしていたが、今は退屈なのだ・・・すこし話し相手になってくれないか?




 ん?なぜ、コクピットが「恐らくは暗いだろう」と思ったのか、だって?


 ぼくの目は見えない、一切の盲目だ。生まれつきのことだから、なぜ見えないのかはわからない。きっと運が悪かったのだろう。それか前世でとにかく悪いことをしたのか。


 ぼくは目が見えない代わりに音に対して極めて敏感だ。そう言い切れる自信がある。音が見えるといってもいい。そして音については誰よりもうまく使いこなす自信さえある。音を上手く使いこなせれば、日常生活において不便を感じることはない。慣れてしまえば、簡単なものだし、これ以上便利なものもない。


・・・もっとも、深海の民で使いこなせない者は誰一人いないのだが・・・。


 


 音の便利さがよく分からないって・・・?

 

 そりゃあ君、人間の可聴域なんてごく狭いものだ。だから普通に生きているだけでは音の便利さをいまいち享受できないだろうな。


 地球には人間の可聴域を超えた超音波を使いこなす生物のほうが多いのだ。ユーザーが多いってことは、それだけ便利だってことさ。


 妨害、暗殺、傍受、平和なところでは情報伝達や高級な音楽プレーヤー、超音波探傷に音波式食器洗い機まで・・・ほらほら意外と思い浮かんできただろう?


 ・・・ぼくたち深海の民は、前者の3分野に限定した、つまり軍事技術を陸上の国家との取引材料にして陸上と交易している。具体的にはアンテナレーダー、潜水艦用ソナー、航空電子にも応用されるセンサー類だ。


 交易拠点は主に各国の海上に建設されている資源採掘基地だ。人目に付かない海上の採掘基地は機密性の高い軍事技術を取引するのに格好の拠点だからな・・・。海底へ作業員を送るエレベーターを採掘リグに偽装できるのもいい。


 ここ百年間は我が国の製品の優位性が人間たちの争いを大きく変えてきた。今では空の上で電子戦機が飛び回り、その支援を受けて航空機は全方向に敵の存在と行動を数百km先から感知できるようになった。有視界戦闘の必要性は極限まで圧縮されたといってよい。



 ・・・面白いとは思わないか、盲目の国が作る製品が、何よりも優れた目になるとはな。



 ・・・ちょっと待ってくれ。兵士たちの定時連絡の時間だ・・・。



 ・・・・・・・・・・・



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 ・・・あーそれで、どこまで話したか・・・?



 なに?そんなことをすれば争いが加速するんじゃないかって?


 それは違うさ。人間たちが頼りにする核と同じ考えだ。


 我々の製品は真の平和的抑止力なのだ。


 だが核のようなダーティーでスマートじゃないものとは一緒にしないでほしい。世界中の国家を相互監視状態にし、武力行使に代わる新たな平和的外交戦略建設の資となるに過ぎないものだ。


 いいかい?世界中がナイフを喉に突き立て合う代わりに、静かに聞き耳を立て合っているほうが誰も傷つきはしないのだ・・・。




 ・・・核も人間もなんであれママの星の秩序と安寧を乱すものは許さない。今ここにいる目的もそれが理由さ。エイリアンか宇宙人かよくわからないが、これから我々の敵がママを壊しに来る。我々はそれを追い払う、もしくは殺すのだ。


 ぼくが搭乗している旧支配者と亡霊部隊を動員してね。




 旧支配者とはなにかって?

 

 海溝の奥に棲息する魚竜のなかみを取り出して、そこにCFRP、チタン、生体複合素材製の手足とタービン機関、超高圧砲台をフレーム付けされたコンポジットな半機械の生命体だ。深海の生物由来のボディを流用しているし、見た目が改造を経てあまりにもいびつなんで、クトゥルフ神話に出てくる旧支配者にちなんでよんでいる。ところで、ぼくは技術者たちを尊敬している。

 

 暴れまわり深海の秩序を乱す魚竜どもを、旧支配者として、素晴らしい兵器に変えてくれたのだから。

 



 まず、生体脳と我々が製造するプロセッサを併用して動作制御や火器管制、その他電算処理を並列して行っている。量子コンピューターなんてものはないが、素晴らしいことに我々の技術者は、生物の持つセンスとプロセッサの演算能力を共存させているのだ。それには我々が製造するセンサーなどの感覚器が処理の入り口となる。


 パワーオンからオフまでの制御プログラムには、生体脳の仕様に合わせ遺伝子を模したATGCの4つからなる塩基対言語を採用している。




 ・・・なぜ深海の民が陸上の言語を用いてプログラムを作成するのかって?


 それは陸上の技術者たちと共同で研究したものだからだ。陸海国家の共通認識として現在主流のゼロイチプロセッサを超える次世代型をハードソフトともに作る必要があった。そこで、そのためのソフトプラットフォームとして研究されたのが神の言語と称される遺伝子を模した塩基対言語だ。


 これの優れた点は高速並列処理を得意とするだけでなく、対応できない仕様がほぼ皆無であること。また、高度なエラーの自己修復機能があることだ。




 動力にはコールド・ガスタービンが生成する電力が70%とATP(アデノシン三リン酸)の分解エネルギーが30%の割合で使用されている。あらゆる動作で魚竜が本来持っていた力の約3倍まで出力として発揮できるわけだな。水中での巡航速度は約2,000ノットだ。


 さすがに小型の推進魚雷には負けるが、移動の際に発生する衝撃波がフレアの役割を果たすから、事前に気づいていれば問題はないな。たぶん。



 ウェポンベイはない。今搭乗しているタイプの旧支配者は高射砲のように運用するからだ。こいつは一本だけ背面部にプラズマを纏った高水圧の水弾を発射するノズルを背負っている。しかし、水弾は子供の遊び道具ではない。発射の際には、水弾がプラズマを纏うのだが、このときCFRPを焼き切るほどの温度にまで上昇する、この世で最も熱い水さ。


 故に、撃つたびに砲身は急激に劣化していく。


 加えて、プラズマ水弾を3発撃つごとに電力の再充電と砲の冷却のために10分間の待機時間が必要となる。

その間はATPによる生体エネルギーかアキュムレーターで蓄圧された非常用圧力で回避行動などを行う。動きはかなり悪くなるが、まぁしょうがない。なのでその時はキリキリと無理やり動かす、ただでさえ金食いなのに大破してしまってはどうしようもない。



 ・・・メンテナンス?



 精密なドック検査が高頻度で行われている。金食いと言われる理由として部品の交換箇所の多さとメンテナンスの頻度があげられる。出撃前後のチェックはもちろん、3回の出撃でフェーズA検査だ。頻繁消耗品目の交換が主に目的で、これに通常は2週間を費やす。

 

 5回目の出撃でフェーズB検査、これはAで交換しなかった箇所の交換作業だが、フレームの探傷検査が項目に加えられる。これも通常は2週間喰う。


 8回目の出撃で再びA、10回目でB、これを1サイクルとして行うのが普通だ。だが、稼働時間が60時間を超えると定期検査という総合重検査がはいることになっている。試作品や装備の換装、機関部のオーバーホール、フレーム交換などはなるべくこの時期に行うようにしている。生体パーツの休養期間でもある。これはおおよそ一か月程度を要する・・・半機械であるのだから最低限のバカンスは欠かせないな。




 ・・・それにしても君は・・・漁師なのだろう・・・?



 ・・・なぜ、こんな話を聞きたがるのかね・・・?




 ・・・ふむ?・・・前は軍用機の整備をやっていた・・・?




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・


 ・・・・・



 ・・・そうか、目にブラストのアレルギーを・・・。それは気の毒だな。

 

 退役してもなお技術的な興味や情熱を持ち続けているとは感心だ。さぞかし仕事が面白かったことだろう。君のような技術者が人間であることが惜しいものだ・・・深海にほしいくらいだな?



 ・・・しかし残念ながら我々は深海の民、ごく少数の限られた人間にしか継続的な接触を許されない。それは我々の忠実な傀儡となる愚かな人間のみだ。・・・君は明らかに違う・・・だから我々とはここでお別れだ。



 ・・・・・・・。



 ・・・そうだ、我々と接触したことについては一切忘れてもらう・・・もう間もなく、君を陸上まで送り届ける兵士がこちらにくる。そうしたら、コクピットを開いて兵士に君の身柄を引き渡す。そのとき少しパニックに陥るかもしれない。なにせ30mの水深だ。我々にとっては浅瀬でも人間の体では猛烈な負荷がかかるからな。


 なので、その時はしばらくの間気を失ってもらうが、次に目覚めた時は痛みも後遺症もなく、必ず一切の記憶を失っているから心配しないでほしい。なに、チップなどは埋め込まんよ。



 ・・・これから死ぬかもしれないというときに、ママは面白い人間をよこすものだ・・・。君は私を忘れなければならないが、生きていれば我々は君をずっと覚えておこう。



 ・・・迎えが来たな。コクピットを開くと一気に海水が流れ込んでくるから息を止めておいてくれ。





 ・・・さらばだ、人間よ。君に―――――――――――――







 ―――――――――――しばらくの雑音の後、音声は途切れた。

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