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ママの星  作者: ホモはメンヘルちゃん
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発現者

 不意に視界が赤らむのを感じ、私は目を覚ました。暖色の天井照明がまぶしい。

 いったい何があったのだろう。瞼を細く閉じ、照明を眺めていると気絶前に壮烈な己との闘いがあったことをなんとなく思い出した。あの戦いからどれだけの間、気を失っていたのだろう。私は上半身をもたげて時が確認できるものないか探した。しかし視界にうつったのは、テーブルに向かい合って喫茶をしている二人の姿だった。

 「おはよう、あきらちゃん。よく頑張ったね。」ママは私と目が合うとわずかにと微笑みながら、私のもとへと歩み寄ってきた。彼女が私の背中をさするなり、私は何やら新しい感触が背中に芽生えているのをすぐに感じた。それはくすぐったいような不思議な感触で、私は身をよじった。

 「あきらちゃんから出てきた血や体液は、清浄にしたあとに身体に戻しておいたから大丈夫よ。どう?体が軽いでしょう。ほぼ、身体は生まれたばかりの状態よ。」言われてみれば、確かに私は目覚めてからいいようのない解放感を感じていた。頭がすっきりしている。

 「・・・ママ、私ほんとに翼が生えちゃったの?」ママはニコリと犬歯を出して笑うと、ベッドのわきから姿見を動かして手のひらで一撫でした。そこにうつったのは50㎝ほどの長さをした白い双翼を生やした私の背中だった。だらんとして元気がないように見えるが、まごうことなき白翼だった。

 「うっわぁ~ぉ・・・。」私は己の姿に対し、まるで声にならない感嘆を上げることでしか反応できなかった。姿見がにわかに信じられず、顔を思いっきり後ろに向けると確かにそれがあるのだった。

 「まだ動かすには難しいでしょう。あきらちゃんの一部でも今は神経のつながりが不十分なの。練習をすれば上手く動かせるから頑張ろうね。ほぉら」そういうとママはバサリと6枚の大小混じった翼を実体化させて、ゆっくりと宙に浮いた。翼は威風堂々とした雰囲気をにじませながら彼女に従属していた。

 「すごーい、私もママみたいになれるかしら・・・。」私は翼の威厳におされながら憧憬の意をつぶやいた。

 「遺伝子の解放と身体能力の向上に励めばね。私は人類種のオリジンなんだから、似たような要素をあきらちゃんも持ってるはず。でも人類種がみんな一緒の遺伝子をもつとは限らないの。だから、解放できない能力も中にはあるってことも知っておいてね。」ママは、人差し指と親指で顎をスリスリしながら応えた。

 「能力の向上についてだけど、人の身体的な強さには一時的な限界があるのは確かよ。でもどうして一時的な限界といったのかというと実は解放によってまた限界を越えることができるの。逆にいえば、一時的な限界に到達しなければその先はないのよ。」

 「じゃあ、遺伝子の解放でオリンピック選手とかはもっとすごい記録が出せたりするの?」私は人類で最も限界に近いだろうと考えられる例を持ち出した。

 「出せるだろうね。限界への到達と解放の繰り返しで、人はほぼ限りなく能力を引き延ばせるわ。うふふ・・・、肉体的な能力の向上だけじゃなく精神的な能力も解放で使えるようにもなるのよ。例えば、魔法とか超能力とか人が超自然的な力を表すときに使うこれらの言葉は、実は潜在的に秘められた能力なのよ。」そう言うとママは両手で水をすくうような仕草をした。するとママの手中に青白い球が浮かび上がり、その幼い顔を照らした。

 「プラズマの小球よ。精神的能力が顕現した基本的な姿よ」ママはそれを見つめながら説明してくれた。

 「ほほぅ、つまり生まれながらの超能力者は一種の遺伝的変異者であると。あるいは何らかの方法で解放を受けた者だということね。でもなんでこんなに人の能力は劣化しちゃったの?」遺伝子があらゆるの能力の源であるのになぜそれが失われたのか、私は不思議でたまらなかった。プラズマ球を手のひらに包み込みろうそくの灯を消すようにそれを消したママは、微笑みを浮かべていった。

 「そうね、現代に生まれながらにして失われたはずの能力を持っているものたちは変異者といえるでしょうね。では、なぜ能力が劣化したか。それは私がそうさせたからよ。・・・遺伝子と能力を封印したのは私。理由はそうねぇ、能力を悪用するものたちがあまりにも増えたからよ。」ママはストンと地に足を落とすと、私の横に腰を掛けた。

 「能力の・・・悪用?」私は言葉の意味は理解できたが、その具体例が思い浮かばなかった。

 「それは”争い”。その昔、私と似たような能力を持つものが多く存在していたのよ。些細な争いが次の争いを呼んで、次第に彼らの争いが激化して・・・この星が壊れる寸前にまで陥ったことがあるの。本当に危なかった。それ以来、私は将来生まれ来る人間たちの遺伝子や能力に対してすこしずつ制限を施してきたの。何世代もかけて、制限を駆けられた子たちが周囲から不自然な存在だと思われないようにね。それには色々な困難を伴ってきたのだけど、今もそれは続けているわ。」ママはにこやかに語った。しかし、そんな理由があったのにもかかわらず、何故私に解放を施してくれたのだろう。

 「ねぇ、ママ。そんな理由があるのに、どうして私には解放をしてくれたの?」その私の質問を待っていたかのように、ママは私の手をやさしく握ってこう言った。

 「あなたが必要だからよ、あきらちゃん。あなたのように意志が強くて優しい子が、私たちの戦いには必要なの。」想定外の”戦い”という言葉に私は驚いた。戦い?なんの?

 「え!?えぁ?戦い?誰と?」突然の懇願に戸惑っていると、今まで静かにカップを傾けていた竜輝がこちらに歩み寄ってきて口を開いた。

 「遠い星の海からこの地球を手にしたい者たちがやってくるんだって。今までは、人間の能力をはく奪した分ママ独りでそいつらを追い返してたんだけど、今回はそれが難しいくらい相手が強くなってるらしいの。あきらちゃんみたいな子なら力を解放しても悪いことには使わないだろうし、私たちと一緒に戦ってくれると確信したのよね。」竜輝はいつものように腰に手を当てて戸惑う私にことを説明した。

 「つ、つまり私に地球防衛隊員になってほしいってこと・・・?」話が非現実的すぎて信じられないが、彼女の言うことを素直に解釈するとこういうことになるのだろう。

 「そういうことね。地球そのものにあなたは優れた防人として選ばれたってことよ。その証拠にあなたは自分の可能性を拓くために自ら苦難に志願して、これを勇気で克服したわ。動機がなんであっても目の前の困難に対してすぐに果敢に挑もうとする、そういうところあたしも優れたところだと思うわ。」竜輝は強気なまなざしをしている割には、結構恥ずかしいことを口にするものだ。

 「うぉ・・・。でも、色々もらしたし気絶もしましたが。」私はそれでも自分の見苦しさが恥ずかしかった。

 「精神力が一番大切よ。身体的な能力に制限がかかっているから今弱いのは当然。だけどママは精神力の強さそのものに制限をかけた覚えはないみたいよ。それに、あきらちゃんの持つその強さは超自然的能力を繰るものとしてとても大切な要素よ。」

 「えぁ、そうなの?」ママは私の視線の先で深くゆっくりと頷いた。

 「あきらちゃん、あなたが必要なの。私たちと一緒にきて。」ここまでママに懇願されるととにかく相手はなんだかすごい存在なのだから返す言葉はもう一つしかないのである。

 「えぇ・・・うん、はい。が、頑張りまひゅ・・・。」私は混乱で抱負を嚙みながら、応諾した。しかし、この事態への理解に乏しいまま返した返事が、長い時を経てどういう結末をもたらすのかを私は予想していなかった。いや、なんとなくわかってはいたが返事を聞いたママが嬉しそうに私を抱きしめる様子を見ると、私はそれ以上は何も言えなかった。

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