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ママの星  作者: ホモはメンヘルちゃん
18/21

煉獄の星女1

 「うーん、惜しいけどもう一回ね」


 「ひぇぇ、もう限界だよ……」


 「んー、そんなこと言っても、あきらちゃん随分いいところまで出来てるわよ。こういう辛い時にどれだけ集中力を維持できるかが生死の分かれ目なのよぉ?あきらめちゃダメよ」




 ママはとろんとした微笑みとともに私に向けて電磁力の弾を投げた。口調は優しげだが、ママの行いは真逆で過酷なものであった。


 

 ひとまず守り手としての道を選んだ私は、日々ママの過酷な訓練修行に挑んでいた。その内容はママの投げる電磁球を捉え、自分の身を守る防護膜として操ることであった。電磁球の威力は、私自らがかろうじて形成できる容量をかなり上回っており、それを用いての防護膜形成は単純にできるものではなかった。




 「ギャッ!?」



 訓練をどれだけ続けただろうか。疲れからか電磁球を制御できずに暴発させてしまう。瞬間的に体を駆け巡る電流は遺伝子開放を受けていない人間には危険な水準だ。



 「う、うーん…….。o○(ぶくぶく)」


 「あきらちゃん……わかったわ。たくさん頑張ったものね。今日はこのぐらいにしましょう」


 

 

 ママは私を抱きかかえて頬ずりをした。ひんやりとした頬がやけどまみれの私には気持ちよかった。



 「……いい子いい子」


 「うぅ……ママ……」



 ママは優しく私を膝枕にかけると、私の額に掌を乗せた。




 「……少し前、といってもあきらちゃんたちの感覚ではとても昔なのだけど、一人の星女が私に戦いを挑んできたときがあったの。そのときね、辛い時でもあきらめちゃダメなんだって思うことがあったの」


 「そのときだけ?」


 「うふふ、もちろん以前にもたくさん思うときはあったけど。あれが一番のできごとねぇ」


 「聞かせてほしいな、その時のこと。何がつらかったの?」


 「うーん、そうねぇ……どこから始めましょうか」



 ママは明後日の方向を見ながら私の頭をゆっくりと撫でまわして、物語の糸口を探った。



 「……彼女は、敵ながら私にいろんなことを教えてくれたの……」











 海の果て、空の果て、そこで私は彼女と対峙していた。


 わが子同然たる人類の教導権を奪い返すため、彼女は私を消し去ろうと灼熱の水星からはるばるやってきた。 




 「ウラエウス、往生際が悪いわね? 貴女がここにいることは叶わないの」


 「イシスよ、そなたの道は間違っている! それはわが子たちに対する抑圧ではないのか!?」


 「それはどうかしら? 貴女こそわが子たちの滅びを助長する存在だわ」


 「……相変わらず互いに理解できそうにないな……斬る!!」




 ウラエウスと呼ばれた星女は半透明だが銀色に光る大剣を両手に構えると、強い眼力をもって私を蛇にらみした。



 ウラエウス……かつて私が水星へと追放した星女の一人。彼女もまた私との考えの相違のもと戦い、敗れた末追放された者である。


 彼女の、液化メタンによって染められた青く長い髪と、太陽の灼熱を吸収した紅蓮色の瞳は闇夜の中ではまるで煉獄の炎のように見える。


 姿は白銀の独特の装飾が施された鎧ドレスに包まれており、身長の高さも相まってかなりガタイがよい。戦士として恵まれた素質を持つ星女である。


 また、彼女は特別に硬い信念をありとあらゆる面で自分の中に持ち合わせていた。そしてそれを体現するがごとく、彼女の武器はよく鍛えられた高硬度の大剣であった。それはかつて地球の金属からできていたが、水星から帰還した彼女の手には”プラエトリウム”という地球にはない金属と太陽の灼熱で打たれた特製の剣が握られていた。



 

 ——グンッ!



 彼女は構えを解いた刹那、残像を残すほどの速さでまっすぐと私との距離を詰めてきた。


 ガツンッという鈍い大きな打撃音があたりに響き、衝撃波と共に広がった。私の防護膜が彼女の斬撃を真正面から受け止めた音であった。


 私もまた大気から剣を作り出し、彼女に向って大きく一閃をふった。


 しかし彼女は本来使えるはずの防護膜を展開することなく、私の斬撃を大剣で受け止めた。



 プラエトリウムでできた武具は気体と固体、どちらに対しても実態があるような振る舞いをする。だから私のアルゴンでできた気体の剣であっても、彼女の剣はそれを防ぐことができるのである。


 さらにこの剣は極めて高い密度を有しながらも、彼女の体内を流れる電気的波長に呼応してその重量と形状を変化させることができる。


 このように非常に多様な可能性と利便性を持つプラエトリウムだが、その加工には金やダイヤモンドとはけた違いの極めて過酷な高温高圧の環境を要する。太陽に近い水星はその環境として最適であったのだろう。


 彼女の大剣を叩いた私の剣は弱よわしい赤い稲妻となって消え去った。




 「これだけで察せぬか? もうそなたの剣は通じない。その防護も直にそなたの体と共に切り裂かれることになるぞ」


 「貴女もこの距離で察したらどうかしら?」



 

 私は防護膜を一気に破裂させ、アルゴンの鋭い破片をあたりに散らした。


 

 「ッチ!?」



 ウラエウスはもろに破片のシャワーを浴び、破片と共に吹き飛んだ。が、直ちに空中で態勢を回復すると再び私のほうへと突進してきた。


 内心しまったと思った。防護膜を発散させた直後は無防備で、全身を覆う防護膜の形成には突進の速度から間に合わないからだ。



 しかし、彼女の性格はわかっていた。



 「相変わらず突進馬鹿ね」



 私は左手のタリスマンに大気を圧縮して盾のような防護膜を形成すると、再び真正面から彼女を迎え撃った。


 彼女は勢い猛烈なまま私に突っ込んでくると剣を縦に大きく振りかぶった。


 その瞬間、私は盾を剣に対して斜めに思い切りぶつけ、彼女の剣を受け流した。彼女は勢い余り、私の横でふらついた。私は間髪入れず勢いを生かして彼女の背中に思いきり回し蹴りを喰らわせた。


 

 彼女は海面に向ってまっすぐ落下していく。今度は彼女が無防備なのである。


 私はプラズマの弓矢を手のうちに作り出すと、彼女に狙いを定めて撃ちだした。

 この光の矢は彼女の近くまで追尾すると数十にもわかれ、あらゆる方向から攻めるようになっている。


 

 彼女は海面をけり再び態勢を素早く回復した。しかし次に奇怪な行動をとった。



 彼女は私の方向へ剣をブーメランのように回転させて投げたのだった。だがすぐに剣の軌道は曲線を描きながら私から少し離れたところを飛び、背後を通って彼女のもとへ戻るものと予測できた。


 明らかに最初から当てる気のない軌道であった。


 彼女は単純だが自分の武器を体から離そうとは決してしなかった。なぜならばそれが彼女の”信念”であったからだ。そんな彼女がなぜ、こんな愚かな攻撃を?と私は理解できなかった。




 しかし、それは昔の彼女とは違う、新しい敵の訪れであることを思い知らされるきっかけなのであった。


 

 

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