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ママの星  作者: ホモはメンヘルちゃん
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マルチプル・ファイアリング・イン・ハーモナイゼーション

 夜空に広がる厚い雲にぽっかりとあいたドーナツのような穴を飛びぬけると眼下は漆黒だった。それは恐らく海のように思われた。しかし、海上だと判断して急降下するのは時期尚早だと判断し、私は緩やかに落ちる滑空の体勢に入った。


 本来は滑空でさえも吹雪のような冷たさのジェットを体に受けることになる。しかし未熟だが構築した防護膜と払い下げの航空服のおかげでその冷たさはほとんど感じられなかった。


 ところで防護膜やセイバーのために使うアルゴンを大気中から濃縮する力がまだ未熟だった私は、ある方法でそれを克服した。それは小さなアルゴンのガスボンベを携行することであった。容量は少ないが、ボンベからガスを抽出するだけで必要な濃度のガスを周囲に張り巡らせることができる。我ながら良いアイデアだった。


 だが、これは一時しのぎなのだ。ガスボンベの枯渇が戦闘を中止する理由として許されないだろうから。


 飛行に関しては滑空のほかにロール、ヨー、ピッチングなどを習得し、緩急ある機動も一通りをこなせるようになった。しかし、これに関しても課題は残る。


 それはより強烈なGへの耐性だ。空気抵抗を減らす防護膜があったとしても強力に血液を脳に送るための下半身の筋肉群そして心肺機能の重要度は、高いGのもとでは増す一方なのだ。


 

 私は空を滑りながら、ママから発せられるいつもの青い光を見つけるために周囲を見渡した。そして都合がいいことにすぐに絶海に浮かぶ小島の浜辺で青い光が瞬いているのを見つけることができた。


 島への接近のために大きく緩やかに旋回しながら空を下ると、それがママであるのを確信すると同時に、青い光に照らされて浜辺に竜輝の姿と海面に黒く謎の大きな影を見つけることができた。



「おーーーーい!」 私はそう叫びながらなおも勢いづいて降下した。



 迫りくる私に気が付いたのか、ママと竜輝はこちらに振り向いた。海面の黒い影は動じない。しかし、影の正体がなんであるか想像に難くない。あの影は例のの旧支配者とかいう半生半機なのだろう。私がいよいよママのもとに近づくと、彼女もまた私のもとへ近寄ってきた。私たちは高度を合わせ、吐息がかかる距離にまで間を縮めた。


 ママは私の両手をとり、指を絡ませながら心配そうに瞳を覗き込んだ。



「あらあら、身体の調子は大丈夫なの? あきらちゃん」


「うん、大丈夫よ。でもママこそ大丈夫? 急いで出ていくから何か大変なことが起きてるのかと思って来ちゃった」 それを聞くとママは一寸、驚いたように目を見開くとすぐに柔らかな微笑へと表情を変えた。


「うふふ、ママのことを気にかけてくれるなんて優しい子ね? あきらちゃん。でもごめんね、大したことはないの。ちょっとした打ち合わせなのよ」


「打ち合わせ?」


「そう。戦いにおけるチームワークを構築する打ち合わせよ」


「えぇ、どうして今更そんなことを決めてるの?」


「実は私たち三人が協動したのはこの前の戦いが初めてなの。知り合って長い期間一緒にいたけど、個々の能力に依存し過ぎていたのね。そして、とっても恥ずかしいことに私自身の詰めの甘さと油断が結果的に苦戦の原因になったの。ママ、とっても反省したのね。でもそのおかげで私たちがチームでできることがわかったの」


「ほほぉ……? でも私はあの時一番何もできなかったからもっとお恥ずかし……」


「あはは、でも今この時からあきらちゃんは私たちチームの中でもっと重要になるわ。私たちがチームでできること、それは視界のカバーと照準同調よ。その名もマルチプル・ファイアリング・イン・ハーモナイゼーション!」


「マ……マ……??」


「あの戦いの時、私はアセトを視界に捉えることができなかった。でもテスタメントが搭乗する旧支配者のロックオンセンサーでは確実に捉えることができていた……。一方、旧支配者の狙撃は正確だったけど、着弾の遅さでアセトのスピードに追いつけずにいた。私は姿さえ捉えていれば、攻撃を撃ち逃すことはなかったのに」


「うーん、なんだかすごく歯がゆい戦いだったね。でも考えたら旧支配者のロックオンセンサーとママの追尾魔法が合わされば最強じゃん?」


「うふふ、あきらちゃん、ママと考えは一緒だね? そうよ、旧支配者のロックオンセンサーと私の追尾魔法をリンクさせるために今回の打ち合わせしていたの。ちょっと見てて」



 ママはそういうと、下の浜辺にいる竜輝に何かを投げるようなしぐさをした。それを見ると竜輝は両手で大きく丸を作るとそばにある人の頭ほどの木の実を掴み、ブンッと肩で投げた。


 木の実は私が反応するよりも早く私たちの頭上を斜め上に飛びぬけた。そしてママはくるりと木の実が飛んだ方向に背を向けると片手にプラズマ球を作り、そのままそれを撃ち出した。


 どう考えても当たるわけがないプラズマ球だった。しかし、球はVの字のような鋭い反転をして驚きすくみ上がる私の横を通り抜け、木の実を光の矢のように追いかけた。そして球は見事木の実に命中し、それを黒焦げにしまったのである。


 私はこの光景を目の当たりにし、唖然とした。



「うふふ、どう? 実はさっき、海中から旧支配者が木の実に照準を合わせていたの。私の撃ちだした攻撃はその情報をもとに誘導されてミサイルのように木の実に命中したというワケ。私が見えなくともあの子のセンサーが見えていれば、攻撃は確実に獲物を追う。おまけに私が反応しにくい垂直方向の視界については下から見上げるあの子に任せていればいいから私は水平方向の警戒に集中できる。チームワークはいいことづくめね?」


「おぉ……すごいよ、ママ……ってどうして旧支配者のロックオン情報を受信できるの? アンテナがあるわけじゃないし、ママはロボットじゃないし……」


「うふふ、アンテナは……これ」



 そういうとママは左側頭部にぶら下がっている大きな空色と金線の入ったリボンを指さした。



「えっ!? ええっ!? そ、それはリボンって言うんだけど……?」


「このリボンはね、色んな情報を受信して私がほしい形に変換できるの。すごいでしょ? UHF、VHF、HFその他諸々の規格がこれ一本で視聴できまーす」


「えぇ……ママって能力も不思議だけど身に着けてる装飾も不思議だね……」


「うふふ、さてあきらちゃん。これからが本題よ。私はこのチームワークの中であきらちゃんが活躍できる道が大きく分けて二つあると思うの。一つは、旧支配者が行ったような感じで私を支援することに徹する道。もう一つは、積極的に攻撃を仕掛けることで獲物を追い詰める、もう一人の私のような道。要は空における攻めと守り、どちらかをあきらちゃんにお任せしたいの。自分の役割が明らかになってこそのチームワークなのよ。」


「う、うーん……なるほど、自分の立場が何かをはっきりさせることが大切なのはわかったけど、私なにに向いてるんだろう……? 急には決められないなぁ……」



「うふふ、実際一つの道を選ぶのは難しいことね。でも適性があるのに試練という壁が立ちふさがった結果道を諦めてしまう……なんてことがないように私たちが強くバックアップするわ。しばらく考えて、そして安心して道を選んでちょうだい」


「そうだねぇ、自分の立ち位置がしっかりしていれば今よりもママの力にもなれそうだしね。ねぇ、ママは私がどっちに向いていると思う?」


「うふふ、それを言ったらママの言う通りになっちゃうわ。だからひーみーつ」


「うーん、まいったなぁ……ママは本当いじわるね?」



 星の剣か盾か、私に課せられた役割は私の人生そのものを変えてしまう気がするほど重要であるように思えるのであった。


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