はつこい「ジャイロダイン」
Mさんは中学一年だけ同じクラスだった。うすくそばかすののこった丸顔。すこしのくせっけをあごのラインでそろえて。すこし京都のなまりが感じられるしゃべりかたも好印象。
つまりかわいらしかった。
ぼつぼつしゃべるような間柄だった。当時はやっかい真っただ中だったので、うれしいやらはずかしいやら、顔に出したくないのやら、それでもどうとやらで、そのちょっと話すだけでも心中嵐が吹き荒れ、コントロールできない自分を持て余した。
初恋だった。
そんな感じで秋ぐらいになったころ、経緯は不明なのだがMさんに対して「乳首がちゃいろ」という噂が流れ始めた。というか、噂ではなくて、本人もそういわれていることを知っていた。
なぜならこれまた級友のNくんが「Mは乳首、ちゃいろなのか?」と直接聞いていたから。その後しばらくちゃいろちゃいろとはやし立てられていたように覚えている。
「ちがうもん!」
と彼女は答えていたのだけれど、その対応はどうなんだろう、と私は見ていた。
もちろん大興奮でした。
当時も今も噂の発生元はよくわからない。多分、NくんもMさんが好きでそういう話になったんだろう、と今は想像する。ほかの話題はなかったのか。よりによって乳首とは。
やがて、そのNくんが言うに事欠いて、Mさんを「ちゃいろダイン」と言い始めたのだ。「ジャイロダイン」のもじりである。
当時の私たちのあいだで「ジャイロダイン」がどれくらい遊ばれていたのかは知る由もないのだが、まさかここであのゲームが出て来るとは、と笑ったのを覚えている。
結局のところ、私はそういう噂を話題にする勇気もなく、変わらずMさんと話していて、ぼつぼつ、から、けっこう、くらいにまでクラスチェンジを果たしたように思いたい(確認する術なし)。これまた級友のIくんから「おまえ、Mと仲いいの?」と聞かれたくらいだ。たぶんIくんもMさんが好きだったのだろう。
そのあとMさんとは同じクラスになることははなく終わった。私もそれを超える勇気はなかった。「ジャイロダイン」も買わなかった。