≪エピローグ≫
結局、真奈美を説得するために、さらに半日、網走に滞在した。
まずは、両親にきちんと報告すること。報告して、もし反対されても、その時は真奈美の好きにすればいいと言った。
もうひとつ、真奈美の夫は、別居後、他の犯罪で警察に拘留中らしい。そのために離婚調停が進んでいないということを知った。その期間に他の男と暮らして調停が不利にならないか、担当弁護士によく相談すること。
この先、時間はたっぷりあるのだから、あせらず、障害は乗り越えず、ひとつずつ消していこう。…そう、話しあった。
それで、真奈美は納得してくれた。
名古屋に戻って二週間。真奈美とは、頻繁に連絡を取っている。
第一の関門、両親はあっさり認めてくれたらしい。喜んでいたとも言っていた。
第二の関門、弁護士の方は少々渋っているらしい。
就職活動の方は芳しくない。申し込んでも、書面で断られることのが多く、二社ほど面談に持ち込めたが、手応えは感じなかった。求人は出しているのだから、何らかの人材は求めているのだろうが、どんな人材を求めているのか募集要項が漠然としすぎていて掴み所がない。中途採用の厳しさを痛感している。
時間が空いているときには、会社に顔を出している。一番の下っ端なのだから、引き継ぎする必要のあることもほとんどない。ただ、家で何もすることがないと社会人感覚が薄れていきそうで怖かった。
三週間目、小包が届いた。開封してみると、一番上に一通の短い手紙。
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拝啓 突然、このようなものを送りつける無礼をお許しください。
貴殿には多大なるご迷惑をおかけしてしまいましたことを心よりお詫びいたします。
つきましては、私なりに精一杯の謝罪の意を表したく考えた結果、もしご迷惑でなければ同封パンフレットをご活用いただきたく存じます。
なお、私に関する詮索はなさらぬようお願いいたします。
敬具
行夢来人
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手紙の他に、名古屋近辺企業数社の中途採用向けパンフレット。
どのエントリーシートにも右上余白部分に「行夢来人」というサインがなされていた。
行夢来人……あの夢の中の男なのだろう。
やはり、存在したのか…。すでに、十中八九はそんな気がしていた。
夢の中に登場することに比べれば、郵便物が届くなど驚くほどのことでもない。
彼の言葉を信じれば、真奈美を救ってくれたのは、彼なんだろう。
そういう意味では感謝する。
だが、もう関わりたくはない。
これからは、自分の力で進みたいと思った。




