笑えないようなことを言いながら
ミステリイに、はまっている。僕が、ではない。みっちゃんが。
「推理小説って、あれよね、トリックの発表会みたいなのね」
「え?」
「ひとつの物語として読んだとき、やけに無理やりすぎちゃって多大な違和感をかかえながら読み終わることになっちゃうのよね。そんなこと多いのよ」
「…そうなの?」
「動機に見合うだけの壮大で画期的なトリックだったり、大がかりな装置だったり、誰もが注目するイベントを狙ってとか…」
そこでみっちゃんは、ひとつ間を置いた。僕はみっちゃんが続けると思って何も言わなかったのだけど、みっちゃんは僕に何かを言ってほしそうにしていた。たんなる「うんうん」とか「それで?」といった合いの手のようなことを。なんとなくそうかなあと思って僕が、
「うん。それで?」
と言うと、みっちゃんは二ッとしてから言葉を続けた。
「わからなくはないけどバカみたいとも思うのよね。心底、望んでるのがその人物の死だけでよくってそれ以上のことを考えないんなら殺しちゃうんでいいんじゃないかしら」
「ん?」
「だから、逃げるとか、アリバイ工作とか、そんなことどうでもいいんじゃない。そもそも、死んでほしいという思いの強さが壮大な事件を生むのかしら。違うんじゃないかしら。死んでほしいという思いが強いなら、ただ殺すだけのことでしょ。殺そうと思ったから殺す。それだけじゃない?」
「ああ…」
と、僕が間の抜けた返事をすると、
「まあ、でも、人を殺したことないし、この先も… ね」
と、笑えないようなことを笑いながら言う。
みっちゃんの話、ちゃんと聞いてあげたいけど、僕はミステリイに興味ないから、えんえん話されると困ってしまう。それであからさまとは思ったのだけど、
「なんか飲む?」
「あ、うん」
お店のおかみさんがビールとグラスを持ってきてくれる。手にしたビールのビンがキンキンに冷えていて、あっ、と思った。「ああ冷えてるなあ、うれしいなあ」の、あっ、ではなくて「どうしてこんなにも冷えてるかねえ。適度ということを知らないのか」の、あっ、で、だから嘆く意味での「ああ」というほうが正解に近いと言える。
グラスにビールを注いで口に持っていく。冷えすぎたビールはただただ冷たいと思うばかりでビールの正しい味が感じられない。がっかりだ。けどビールが適温になるのを待ってられるほど猶予もない。ビンの蓋は開けられている。ビールは刻一刻と死に向かっている。鮮度だ。親の仇でも討つみたいに開いたそばから流し込んでいくのが作法というもの。その流儀に則ってグラスを空にする。
「ただただ冷たいってだけだったね」
「うん」
「小説だったら、こんな些細なことからでも人を殺しちゃったりするのかしら?」
「え?」
笑えないようなことを言いながら、でもみっちゃんは、ニイイと笑っていた。
「もう一本飲む?」
みっちゃんはそう言うのだけど、もう一本ビールを追加したとき、みっちゃんの表情がどうなってしまうのか。僕はなんだか怖くなって、お店のおかみさんを呼ぶことはできなかった。




