手篭めにされたメイドですが旦那様に「メイドの君は身分が低いから13年後に頑張ったら結婚しよう」と言われました。13年後は30歳なので好きな相手と結ばれていますよ?
注意 虐待と性被害の描写があります
私の名前はエレナ。
もう誰も本名で呼んでくれなくなって、ただの「エレナさん」「あのメイド」としか呼ばれない。
17歳の冬の夜に、私は領主様のベッドに押し倒された。
泣いても許されず、暴れても殴られ、結局すべてを奪われた。
翌朝、乱れたシーツの上で震えている私に、
彼は冷めた声で言った。
「メイドの分際で俺の妻になるなど、あり得ない。
だが——13年後、お前が30歳になったら、俺が娶ってやろう」
「……は?」
「だからその時まで、この屋敷で俺の言いなりになって働け。
13年間、誰とも寝ず、誰にも愚痴をこぼさず、俺の機嫌を損ねず、
完璧にメイドとして仕え続けたならば……その時、正式に妻にしてやる」
私は笑ってしまった。
涙と一緒に、喉の奥で変な音がした。
だって——
13年後って、私が30歳ってことでしょう?
貴族の正妻に、30歳の平民のメイドがなる?
そんな話、狂った冗談でしかない。
なのに彼は真顔で続けた。
「俺は一度言ったことは守る男だ。
お前が本当に13年耐え抜いたなら、その言葉に偽りはない」
それから13年。
私は逃げなかった。
他の使用人が次々と辞めていき、新しい若いメイドたちが入ってきても、
私はただ黙々と働いた。
朝4時起床、夜中2時就寝。
背中が曲がり、指は節くれ立ち、髪は白髪が目立つようになった。
鏡を見るたびに、かつての自分を思い出せなくなった。
そして今日。
私は30歳になった。
朝の支度を終え、いつものように旦那様の寝室に紅茶を運びに行くと、
彼はベッドの上で新しい若い女を抱いていた。
金髪で、18かそこらの、肌が透けるような白さの娘。
「……おはようございます、旦那様」
私はいつものように頭を下げた。
彼は女の肩に手を置いたまま、こちらを見もせずに言った。
「エレナ。今日でお前は30歳になったな」
「……はい」
「約束通りだ。
俺は今日、妻を迎える」
私は静かに息を吐いた。
「……おめでとうございます」
すると彼は、初めてこちらをまっすぐ見た。
「妻は、この娘だ」
若い女がくすくすと笑った。
私の視線に気づいて、わざとらしく彼の胸に顔を埋めた。
「13年間、よく耐えたな」
彼は淡々と続けた。
「お前がここまで意地を張るとは、正直予想外だった。
だから……せめて最後に、約束を果たしてやる義理はあると思った」
彼はベッドサイドの引き出しから、1枚の紙を取り出した。
結婚許可証。
しかしそこに書かれていた名前は、
私のものではなかった。
「これは……?」
「俺が今日、正式に娶る女の、婚姻届だ。
お前には関係ない」
私は紙を見つめたまま、動けなくなった。
「だが約束は約束だ。 あと15年…この家に奉公しろ。お前に、最後の『妻の座』をやる」
彼はゆっくり立ち上がり、私の目の前で膝をついた。
「エレナ。 今は俺の……『側室』になれ」
若い娘がまたくすくす笑った。
「側室なら30歳でも問題ないだろう?
お前が望んだ『結ばれる』ってのは、これで十分だろう」
私は、ゆっくりと首を振った。
「……もう、結構です」
「ん?」
「13年間、旦那様の言葉を信じて、ここにいました。
でもそれは、私がまだ『いつか報われる』と信じていたからです。
でも今、わかりました」
私は静かに、しかしはっきりと告げた。
「旦那様は、最初から私を妻にする気などなかった。
ただ、私がどれだけ惨めに耐えられるかを見たかっただけですね」
彼の表情が初めて、少しだけ歪んだ。
「……生意気な口を」
「いいえ。もう、生意気でも何でもありません。
私は今日で、この屋敷を辞めます」
私は背を向けた。
「エレナ!」
呼び止められたけど、振り返らなかった。
「待てと言ってるだろう!」
「もう、待てません」
私は廊下に出て、初めて自分の足で歩いた。
後ろから聞こえたのは、
若い娘の嘲るような笑い声と、
彼の怒鳴り声だった。
でも、もう関係なかった。
30歳の私は、
好きな相手と結ばれることはなかった。
ーーーーーーー
「……はっ?」
目を覚ますと、横には愛する夫がいた。
「どうした、エレナ」
「前のお屋敷の夢を見たの」
夫は、そんな私を優しく抱きしめてくれた。
散々虐待されていた私のことを知り、旦那様に手籠にされて監禁されたことも知っていて、助け出してくれた人だ。
「そんなことは思い出さなくていい。まだ夜が明けていない、二度寝しよう」
「はい」
こじんまりとした二階建てのペンシルハウス。
旦那様の家は不正取引をやりまくってて豪華だったが、同時に瘴気が漂っていて、他の従業員へのいじめや監督称した暴行、不正ばかりだった。
しょっちゅう従業員が行方不明になっていた。
私は手に残っている折檻の後のあざを見つけた。
いまだに消えていないが、旦那様はその手を取ると優しく包んでくれた。
「あの家は黒い噂が絶えないーー遠くない未来に没落するだろう。これからは君の人生に集中するといい」
「はい、旦那様」
あの日走り去った私を、旦那様は紹介状なしに受け入れてくれた。
無給奉公なんてバカげたことだといい、ちゃんとお給金を出してくれたし、契約は守られる。
そして、旦那様は身分差を理由にせずにある日唐突に結婚の申し入れをしてくれた。
これが普通なんだーー
私はいま、旦那様のとなりにいられて幸せだ。
この世界だと30は現代の40すぎくらいの扱いです




