第三章:《ゼロ・ロスト》侵入戦 —融合する咆哮—
廃棄区域——かつて最先端の技術が集められていた巨大地下研究施設。その崩壊と共に放棄されたこの区域は、今や異形の怪物が徘徊する危険地帯として封鎖されている。
「……行こう、レイ」
俺――クロウは隣に立つ親友、レイに声をかけた。パワードスーツの装甲が起動し、関節部に青いラインが走る。目の前には重厚なゲート。その先が《ゼロ・ロスト》だ。
一方その頃、大型装甲車の内部、支援室では幼馴染のアリアが支援態勢に入っていた。彼女は悠牙の《リンクサポーター》——エンゲードの戦士にエネルギーと戦術支援を与える、唯一無二の存在だ。
リンクサポーターとは、精神と神経を通じてエンゲード戦士と繋がり、最大出力で能力を引き出す役割を担う。契約は互いの信頼と強い意志が前提であり、契約は一人のリンクサポーターに対し、三人までしか行えない。さらに一度リンクすれば、他の戦士には力を供給できない排他性を持つ。
「こちらリンクサポートルーム。アリア、準備完了。出力制御、問題なし」
通信越しに届く彼女の声に、悠牙が頷く。
「了解。――支援、頼むぞ」
そして俺たちは《ゼロ・ロスト》の深部へと足を踏み入れた。
***
崩れかけたコンクリートの壁、錆びた鉄骨、そして瓦礫に覆われた道。ここは、忘れられた街だ。だが確かにそこに息づいている“異常”の気配が、全身の神経を刺激する。
「この空気……生き物の気配ってより、獣の臭いだな」
「レイ、警戒しろ。今回の依頼情報じゃ、20体の《グラウル》が確認されている」
俺は腰に装備した短剣とショットガンを確認する。リンク状態に入れば長剣と高威力散弾銃へと変化する。閃光弾は三本、最終手段だ。
レイも自分の短剣と自動小銃を確認した。奴もリンク状態で長剣と高威力小銃へと変化するはずだ。
「それにしても、あいつらが一箇所に集まってるなんて……妙すぎる」
右手の通路に差し掛かったとき、それは現れた。
異形の咆哮と共に、瓦礫を突き破って飛び出す黒い塊。《グラウル》——下級10体が、こちらに牙を剥いた。
「出るぞ!」
「おう、来いよッ!」
銃声が炸裂し、剣が閃いた。だが、数が多い。
俺はショットガンを放ち、二体を撃ち抜く。連射は効かない。短剣に切り替えて、斜めから突っ込んでくる個体に一閃。
だが、レイは違った。
「――“解放”ッ!!」
怒号が響いた瞬間、悠牙の身体が眩い光に包まれる。
「烈覇!」
その一言と共に、悠牙の武器が変形。短剣は漆黒の長剣へ、自動小銃は圧倒的な重厚感を持つ強化ライフルへと姿を変えた。
覚醒状態。エンゲード戦士の真の力——それはリンクサポーターとの完全接続により開放される戦闘モード。能力値は通常時の10倍。速度、力、反応、すべてが異常なまでに高まる。
「ハアアアアアッ!!」
悠牙は怒涛の連撃で6体を叩き斬った。残りの4体を俺が一掃する。
息を整える暇もなく、周囲を確認した俺は、ある異常に気づく。
「……おかしい。情報では20体のはずだ。今倒したのは10体」
「残りがまだいるのか?」
「アリア、残存反応は?」
『……待って、スキャン中――ッ、あった! 地下だわ、二つの生命反応。……!』
地面が震えた。
轟音と共に床が崩れ、地面から異様な触手と爪が飛び出す。そこにいたのは、残りの下級2体、そして、禍々しい気配を放つ中級個体。
そして次の瞬間。
中級が咆哮を上げた。
「グオオオォォオアアアア!!!」
その声に呼応するように、倒したはずの下級の残骸が集まり始める。バラバラの肉塊が蠢き、黒い塊となり、中級と融合していく。
「融合体……!? 上級クラスだと!?」
俺は思わず声を漏らした。
「嘘……だろ……」
目の前には、下級の無数の腕と中級の頭部を併せ持つ《融合体グラウル》。重低音の唸りと共に、こちらに睨みを利かせてくる。
「くそ……!こいつは、依頼以上のヤバさだ……!」
息を呑む俺とレイ。その時、通信越しのアリアの声が響く。
『……クロウ、レイ。あれは正規依頼外の存在よ。情報隠蔽の可能性あり。……でも、あなたたちなら、勝てる。リンク出力、最大で送るわ』
「アリア……!」
俺たちはそれぞれの武器を構え直した。
次回、全力戦闘。融合した《上級グラウル》との戦いが、幕を開ける。
——続く。