第二章:ゼロ·ロストの影
赤褐色の大地を裂くようにして続く、巨大な峡谷の道を大型装甲車が疾走する。エンジンの唸りとともに巻き上がる砂塵の中、その巨体は揺るぎない安定性で進んでいた。速度は時速320km。だがその速さを感じさせないほどの滑らかな走行は、この鋼鉄の要塞がただの乗り物ではないことを示している。
運転席に座るクロウの目は、目前に広がる断崖と岩柱の迷路を冷静に捉えていた。荒廃した世界の中で生まれたこの道は、まるで自然が人類に最後の試練を与えたかのような景観を持っていた。まさに、グランドキャニオンを思わせる壮絶な地形だ。
「オートモード、起動。現在地からゼロ・ロストまでのルート確定。自動操縦を開始します」
クロウがコックピットの操作パネルに触れると、AIが淡々と告げる。シートを後ろに倒して回転させると、背後の作戦会議室にはすでにレイとアリアが待っていた。
「さて、今後の行動を整理しよう」
アリアが端末を開き、立体マップを投影する。
「現在、私たちは《ゼロ・ロスト》へ向かっている。ここで《グラウル》の討伐を行った後、二日間の野宿を予定。その後、近代都市《ルクス=エルグラッド》に移動し、世界図書館で《エデン・コード》に関する資料を探す」
「ルクス……そこって、かわいい女子が多い都市だったよな?」
レイがニヤつきながら言う。
「はあ、またナンパする気?」アリアは呆れたようにため息をついた。
「前回は10人に声かけて、全員にフラれたくせに」
「今度こそリベンジだ! "君の瞳に、未来を託したい" 作戦でいく!」
アリアは呆れるのを通り越して無視した。
「……私はその間に、保存食や弾薬、医療物資を買い込むわ。レイは無駄な告白を繰り返してなさい」
クロウは微笑を浮かべつつ、話題を本筋へ戻す。
「《ゼロ・ロスト》は旧時代の融合実験施設の跡地。崩壊後は地下空洞が多数形成され、放射線の濃度も高い。現在は《グラウル》が多数巣食っている。俺たちはその最深部を探索する」
シグマキャリアは徐々にスピードを落としながら、巨大な瓦礫群が連なるエリアへと進入していく。
《ゼロ・ロスト》は、かつて国家連合が極秘で建造した巨大研究区画だった。生体融合、武器進化、AI実験などあらゆる技術が投下されたが、ある日を境に完全に沈黙。そして地表ごと崩壊し、今や化け物の巣と化している。
ビルの残骸が刺さった大地。うねる鉄骨。大地には深い亀裂が走り、空気はひび割れた硝煙と機械油の臭いに満ちていた。
「よし、着いた。レイ、準備はいいか?」
「もちろん」
二人はリビングから支援室へ向かう。内部では《リンクサポーター》用のエネルギーブースが光を灯しており、戦闘服《E-スーツ》が装着ラックに整然と並べられていた。
クロウとレイはそれぞれのパワードスーツを装着。身体に自動フィットし、神経リンクが作動する。背部スラスターと腰部のホルダー、武器格納部が稼働音と共に展開された。
「アリア、支援は頼んだ」
「分かってる。無茶はしないでよ」
最後の確認を済ませると、クロウとレイはハッチを開けて外へ踏み出す。
鋼鉄の脚が《ゼロ・ロスト》の土を踏む。その地には、かつて夢と狂気が交錯した記憶と、今なお蠢く異形の恐怖が眠っている。
彼らの旅路は、ここから新たな局面を迎えるのだった。
──次回へ続く──