第一章:夢へ至る旅路
怪物が現れたのは、今からおよそ百年前のことだった。突如として次元の裂け目から現れた異形の存在たちは、言葉も理屈も通じず、人類を襲い、食い散らし、破壊し尽くした。
人々は都市を捨て、ドームで覆われた隔離都市へと逃げ込むしかなかった。
だが、絶望の中に、一つの希望が現れる。
ある研究者が《グラウル》の死骸を調べることで、そこに含まれる未知のエネルギーを発見。その力を人の肉体に適合させることで、超人的な身体能力と武装拡張を可能にすることが判明した。
この力を宿した者たちは《エンゲードの戦士》と呼ばれ、人類の最前線で《グラウル》と戦う存在となった。
さらに30年後、その戦士たちの力を引き出す特異体質の人間が発見された。彼らは戦士とペアを組み、戦闘支援や共鳴による能力の強化を担う。《リンクサポーター》と呼ばれる存在だ。
だが──それでも、戦いは終わらなかった。
そして現在。戦いが始まって70年。人々は再建されたドーム都市で日常を取り戻しつつあったが、外の世界は今もなお《グラウル》の脅威にさらされている。
ドーム都市《ネオ=リメリア》。その片隅に、一人の少年がいた。
名はクロウ=カガミ。16歳。
彼は幼いころ、《エンゲードの戦士》である師匠に拾われ、都市の制度に逆らいながら独自に修行を積んでいた。
9歳のとき、師匠から禁忌の言葉を聞かされた。
《エデン・コード》――かつて人類と地球を救い、そして消えた人工知能。
「エデン・コードがあれば、世界を変えられる」
その言葉が、クロウの心に深く刻まれていた。
そして16歳になった今年、彼は正式に《エンゲード戦士》として登録され、遂に旅立つ決意を固めたのだった。
その日、彼は大型装甲車に装備と水を積み込みながら、出発の準備をしていた。
だが、二人の存在が彼の前に立ちはだかる。
「行く気なんでしょ、クロウ。……また、勝手に」
背後からかけられた声は、幼馴染の少女・アリア=ホウジョウ。
「まさかとは思ったけど、マジで学校サボってたのな。ったく、もう少し理性ってもんを持てよ」
口を挟んできたのは、親友のレイ=グランツ。
「お前ら……なんでここに」
「だって、心配するに決まってるでしょ! あんた、《リンクサポーター》なしで出るつもり!? そんなの自殺行為だってわかってる!?」
アリアの怒りにクロウは苦笑する。
「大丈夫だって。俺、修行積んでるし、そこらの戦士とは違うから」
「その油断が命取りなんだよ!!」と、今度はレイが一喝する。
言い合いは激しくなるばかりだったが、そこに──突然、黒いスーツを着た一人の男が現れた。
「失礼、君ら。《クロウ=カガミ》君で間違いないかな?」
「……ああ、そうだけど。誰だ、あんた?」
男は懐から古びたタブレットを取り出し、クロウに一枚の映像を見せた。
そこには、半壊した旧都市の廃棄建物と、蠢く巨大な影……《グラウル》の姿が映っていた。
「急な依頼で申し訳ない。ここから北に30キロの廃棄区域にて、《グラウル》の反応が確認された。至急、対応を要請したい」
クロウは目を輝かせた。
「──いいぜ、その依頼。俺が受ける」
「ちょっと待って! 行くって、まさかそのまま……!」
「そうだけど。依頼を片づけたら、そのまま《エデン・コード》探しに旅立つ」
言い放つと同時に、アリアとレイの荷物を乱暴に《シグマキャリア》へ放り込む。
「だからさ──二人も一緒に来いよ」
「はあ!? 何勝手に決めてるのよ!」
「……ま、最初からそのつもりだったしな。お前一人で死なれたら後味悪い」
レイが肩をすくめ、アリアが呆れたようにため息をつく。
こうして三人は、旅立ちの第一歩を踏み出す。
廃墟に潜む《グラウル》、そして人類最後の希望を巡る冒険が、今、幕を開ける──。
(次回へ続く)