まさかの質問
ネイビーブルーの一団が入って来た途端、既に盛り上がっていた白い制服の海兵隊員たちが整列し敬礼した。
ダンスをしていた新郎新婦も踊るのをやめ、新郎は敬礼をし、新婦はカーテシーをする。
「グレンブグス大尉、本日はお忙しい中ありがとうございます」
新郎であるボイド・デール氏が挨拶をした。
「おめでたい席だ。堅苦しいのはよそう、おめでとうボイド君」
お父様くらいの年齢の人がグレンブグス大尉だったようで、新郎を祝福する言葉をのべる。
二人は握手をかわし、その後、遅れてやってきた一団と新郎が順番に握手を交わした。
もちろん、スーツを着ているイステル氏が一番最後だった。
遅れて来た一団が全員席に着くと、今まで踊っていた全員が着席した。
そして、グレンブグス大尉の祝辞を聞き、スパークリングワインで乾杯をする。
既に酔っ払っている海兵隊員達から歓声が上がり、またパーティーが再開された。
馬鹿騒ぎが再開されると、イステル氏が椅子から立ち上がった。
こちらに向かって歩いてくる。
若いご令嬢が、途中で呼び止めた。
「あの!同伴者がいらっしゃらないなら踊って頂けませんか?」
「申し訳ない。先約があるんです」
イステル氏は丁寧にお断りをして、一直線にこちらに歩いてくる。
「ダンフォード侯爵令嬢、遅れて申し訳ありません。是非、私と踊って頂けますか?」
イステル氏は椅子に座ってゆっくりとスパークリングワインを飲んでいる私の横に着て、ダンスに誘ってくれた。
「長らくお待ちしておりましたわ。おばあちゃんになるかと思うくらいに」
一曲踊ったら、すぐに帰ろうと心のなかで思いながら、差し出された手に右手を乗せた。
椅子から立ち上がりながらちらっと新婦の友人たちを見る。
皆目を見開いて驚いている。
少しだけ怒りが含まれた眼差しだが、私の方が格上なので、誰も表情には出していない。
私から無礼だと言われた場合、彼女たちの御父上の立場にも影響しかねないからだ。
イステル氏がまっすぐ私の所に来たのがそんなに意外だったのね。
栗色の波打つ髪にラピスラズリ色の瞳。そして、事務方の職員だと予想できるのに、スーツの上からでもわかる鍛え上げられた肉体。
見た目は好みだけれど、爵位が低いのでは、相手にならないわ。
本当に残念。
それよりも天気が心配だ。
通り雨は15時11分。
曲の途中で帰らないと、コートを受け取って馬車までは距離があるから、通り雨に遭ってしまう。
「美しいご令嬢は、歳を重ねてもずっと美しいままですよ。エリーヌ伯母様のようにね」
「確かにそうかもしれませんけど、エリーおば様の年齢になる間に死んじゃうかもしれないじゃない?」
私の返答を聞いてクスっと笑う。
「とりあえず、一曲お願いします」
皆が躍っている輪の中に入った。
そう言えば一年くらい誰とも踊った記憶がない。
本当に久しぶりのワルツだわ。
「ダンフォード侯爵令嬢は、自分の使命って考えたことありますか?」
踊りながら質問される内容ではないと思うが、そこは平常心を装う。
「わたくしの使命ですか?」
「そうです。人生って何かしらの使命があるのではないかと考えたことはありませんか?」
唐突過ぎる質問に驚くが、海兵隊に所属しているからそのような事を考えるのかもしれない。
国を護るってきっと大変な仕事なのだろう。
「あまり考えたことはございませんわ。ただ、今のヒントを探しているだけです」
「ヒントですか?それは見つかりましたか?」
「ええ。多分」
エリーおば様が何らかのヒントないし、キーポイントであることに間違いない。
「もしも、人生がやり直せるとしたらどうしますか?」
「やり直す、ですか?」
「そうです。もしも失敗しても、あるポイントに戻れば何度でもやり直せるとなった場合です」
タイムループを繰り返している私は、まさに今何度でもやり直せる状態だ。
現状について、『やり直している』とは考えた事が無かった!
確かに、どうにかして死の向こう側に行こうとしている私は、やり直しながら足掻いているのかもしれない。
「ではわたくしから質問いたしますが、どうやったら、そのやり直しを終了させられると思いますか?」
この質問にイステル氏は一瞬、沈黙したあと、ほんの少し表情を崩した。
「今から質問する意味がもしも解れば、お答えください。ダンフォード侯爵令嬢、タイムループを繰り返していませんか?」
予想だにしていない質問に、踊る足が止まり立ち尽くしてしまった。
「足を止めないでください」
びっくりして立ち止ったが、また踊りを再開して咳払いをした。
「やはりそうですか」
確信に満ちた声色だが、私は返事をしない。
「そうではないかと疑ったのです。ですから昨日、前もってダンスの申し込みをしました。どうしてもこのお話がしたかったんです」
「……何をおっしゃっているのかわかりませんわ」
私の頭がおかしいとでも言いたいのかしら?
最初のうち、家族や執事にタイムループを訴えたが、頭がおかしくなったのかと心配された事もあった。
だから、ここで認めると頭がおかしいと認定されて病院に連れて行かれるのかもしれない。
そんな怪しげな行動、昨日とった覚えはないけど、でもこの人は海兵隊の人で軍の人だから、人を違った角度から見ているのかもしれない。
もしや軍にはそんな人専門の病院があって、研究対象として何か怪しい薬を投与されたりするのかも。
何としても平静を装う。
刺殺は免れても一生幽閉なんて嫌だ。