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ダンスの約束

今まで何度ループしても、結婚式でイステル氏に会った事はない。

もしかして何かが変わっているという事かしら?


「明日、何があっても、もしも遅れたとしても行きますのでよろしくお願いします」

「わかりましたわ。楽しみにしております」


二人と別れて帰りの馬車に乗る。

今度こそ違う未来になるのかもしれない。

期待に胸を膨らませて屋敷に帰る。


やっぱりエリーおば様と仲良くなることがキーポイントだわ。

目覚めたら、今までとは違う朝になっていますように。


祈る気持ちで眠ったのに、起きてみると全て同じ2日目の朝だ。

この朝は何回目なのかしら?


いつもと同じ会話が繰り広げられている。


菫色の光沢あるシルクにワンショルダーのプリンセスラインのドレス。

スカート全体がフリルで覆われているのがまたチープで好きではない。

大量生産品に多いデザインは、侯爵令嬢が着る物ではないわ。タイムループしている私は、3日に1回これを着ているのと同じだ。


趣味じゃないドレスを着せられる身にもなって欲しい。

自分の好みのドレスを着たい!

でも我慢しないといけない。オーレリア子爵家から、『これを着てほしい』となっているのだから。



馬車に乗り、薔薇園横の教会へと向かう。



オーレリア子爵家のブレンダ嬢は、ボイド伯爵家の次男のデール氏と薔薇園で結婚式を挙げる。

花婿のデール・ボイド氏は海兵隊に所属しており、式には海兵隊の正装をした同僚が沢山参列している。

海兵隊はエリート集団だけど、所属しているのは伯爵家以下の家格の次男や三男が多い。


ブレンダの友人も家格としては子爵家などが多いので、知り合いはほとんど出席していない。

私は同格以上の貴族にしか興味がないし、興味がある相手とじゃないと話さない。

だから、今まで誰とも話さずに毎回結婚式に出席してきた。


楽しくもない結婚式。

着たくもないドレス。


私は婚約者がいないので同伴者もいない。

誰か知り合いがいれば少しは気が紛れるかもとは思っていたが、それがイステル氏では知り合いとは言えない。


とはいえ、これまでの結婚式とは何かが違うはずだ。

淡い期待を持ちながら、教会に入り、指定されている席に着く。

私が到着するのは式が始まる5分前で、それより後に入ってくる招待客は今までいなかった。

イステル氏は席についているのだろうか?

辺りを見回せど今までと顔ぶれは変わらず、イステル氏の姿は見当たらない。


そうこうしているうちに、今まで通りパイプオルガンに合わせて式が始まり、終わっても追加の参列者はいなかった。


ライスシャワーの後に、隣接する薔薇園のパーティー会場に向かう。

結局、イステル氏は式に参加しなかった。


薔薇園の中にある芝生の広場に到着すると、円形テーブルに、指定席が設けられていた。

全員が席に着くと、スパークリングワインを掲げながらお祝いの歌を歌う。

まあ、正しくは歌うふりをするのだけれど、パーティー開始から30分くらいで嫌になって帰るのが今までの行動だった。


それくらいになると、皆、踊ったり歌ったり、一人くらいいなくなっても気が付かない状況になる。

帰ろうかしら?


帰りたいけど我慢してここにいなければいけない。

今回はイステル氏とダンスの約束をしてしまっから。


このタイムループを終わらせるための鍵はエリーおば様ではないかとほぼ確信している。

オペラの場で、エリーおば様の前で約束したのだ。

だから、イステル氏を待って、どんな変化が起きるのか確認しないといけない。

今まで通りの行動ではまた明日の16時に刺殺されてしまうだろう。


でも、もしもパーティーが終わるまでいるとなると、18時頃までここにいる事になってしまう。

そんなの絶対に避けたい。


こんなに時間が経ったのに、何故姿を現さないのかしら?

イステル氏が本当に来るかどうかだけでも知りたいが、誰に聞けばいいのかわからない。

というのも、空席は数席あったのだ。


ため息を吐いて、どうしたものかと考える。

誰かにイステル氏が来るのか聞きたいが、『イステル氏とはどのような関係なのですか?』と聞かれてはこまる。

かと言って、何も聞かれずに『ダンフォード侯爵令嬢はイステル氏が好きなのよ』などと、邪推されても面倒だ。


今後、刺殺されず生き残る未来があるなら、婚約者は同格の貴族から選びたいから、変に関係性を誤解されるのも嫌だ。


誤解を生まずに誰に聞こうかしら?

この場合は何故空席が多いのか聞いて、それで判断した方が良さそうだから、ここはオーレリア子爵に聞くとしよう。


どう質問しようか考えた時に、7回目のループの時に聞いた言葉が蘇ってくる。

少しくらい楽しそうにしながら、人を不快にさせないように話しかけなければ。


頭の中でシュミレーションをして、なるだけにこやかな顔を作り立ち上がった。



「オーレリア子爵様、この度はおめでとうございます」

「ダンフォード侯爵令嬢!この度はお忙しい中、我が娘の結婚式に侯爵家を代表してご参加頂き誠にありがとうございます」


「いえ、おめでたい場ですもの。わたくしも参列できて嬉しく思っておりますわ。ところで、新郎様側の招待客席にいくつか空席がございますが、何かあったのですか?」

「私も詳しくは存じませんが、新郎が所属する海兵隊は、明日の式典で何らかの役割があるそうで、そのために数名が遅れてくると伺っております」


「遅れてくるのですか……」

そういえばイステル氏のお仕事が何なのか聞いてなかったわ。

もう14時だ。

いつもなら帰路につく時間なのにイステル氏は来ない。


「明日の式典が終わると、新郎が所属する隊は、数ヶ月の任務で国を離れる予定でしてね。それで今日、結婚式を挙げることになったのですよ」

子爵は眉を下げて娘を見た。


「結婚早々に離れ離れになるのはお寂しいですわね」

「仕方ありませんよ、国を護る仕事をしているのですから」


子爵と少し話した後、席に戻った。

何時まで待てばいいのかしら?


普段なら、約束の相手が遅れてきたら激しく激怒するか、待たずに帰るが、イステル氏を待つしかなく、遅れてやってきても怒る事はできない。

それもこれもエリーおば様と約束をしたからだ。


話し相手のいないパーティーで、ただただ椅子に座っている苦痛を味わい、14時30分になった。


バラ園の入り口に何台かの馬車が停まり、ネイビーブルーの海兵隊の制服を纏った数名の男性と、しつらえのよいスーツを着たイステル氏が降りて来たのが見えた。

年齢は様々でお父様くらいの方もいるし、お兄様くらいの方もいる。


既に参列している海兵隊の隊員は真っ白な制服を着用しているのに対し、今入って来た面々はネイビーブルーの制服なので、高い階級の隊員が遅れてやってきた事がすぐ分かった。

きっと一番階級が上なのが、お父様くらいの年齢の方なのだろう。

沢山の勲章を胸につけている。

イステル氏だけがスーツなので、事務方の職員なのかもしれない。


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