待ち焦がれた未来
本日3回目の投稿となります。
戴冠式の数日後から本格的な捜査が始まった。
あのオペラ座は運営元が破綻して、現在はラブラジュリ家が出資していた。
オペラ座は歌劇、音楽コンサート、演劇にバレエなど年間を通して多くの公演を行っている。
その公演は国内の団体にとどまらず、海外の団体も行っていた。
そのため色々な地域の荷物の搬入や搬出と、人の出入りがあり、闇取引にはもってこいだったらしい。
法律で禁止されている人身売買や盗品の転売、数々の裏オークションの開催、日用品から武器までのブラックマーケットへの横流し。
驚いた事に、その闇組織のトップはルアーナ様で、裏組織のオーナー業と要人相手の娼婦の斡旋と、自らも娼婦をしていたそうだ。
私たちが見た半裸のブリス王子は、ルアーナ様のお客様だったらしい。
客たちは、医療院の馬車を装った、ラブラジュリ家が用意した馬車で出入りしていたらしい。
娼婦をしていた良家の子女を運ぶのも同様の方法を取っていたようだ。
確かに医療院の馬車だと、どこでも出入りできるし、昼夜問わず出入りしていても怪しまれない。
全容がわかったが、売春組織の顧客名簿には、自国の要人だけでなく、他国の王子や要人などあった。
しかも、派遣される娼婦の名簿には、良家の未婚女性から、未亡人や人妻の名前が多数あった。
そのため、公表には色々な圧力が加わった。
要人の名前が多数あるので発表がはばかられ、結局、ラブラジュリ家のお家の取り潰しのみが正式に発表された。
理由は未発表だったので、何も知らない貴族の間で嘘か本当かわからない噂話が広まった。
独房に幽閉されたルアーナ様の事は、『未知の病気になって、人に移らないように隔離された』という噂話を多くの人が信じた。
淑女の鏡とまで言われたルアーナ様が犯罪組織のトップだとは、多分誰も信じないだろう。
それから、時計台広場のホームレス襲撃事件は、闇で流れた武器を巡ってのギャングの抗争だったようで、あの少年達は巻き込まれたそうだ。
そもそも、その武器はオペラ座に隠してあった武器で、エルが見つけて回収したから、抗争の勢いが弱くて死者を出さなかったとも教えてもらえた。
もしも、時計台が見える位置に避難所を設けていたら、我が家の警備兵に多数の負傷者を出したことだろう。
結局、見えにくい位置にあったのがよかったらしい。
最後に、ダンフォード邸の火事は、私がオークションで落札したルビーのネックレスと、オペラで着ていた人工ルビーのドレスを狙ってルアーナ様が起こしたものだったようだ。
この3日間の出来事は、ラブラジュリ家の闇組織の犯行だったのだ。
どこまでも絡むラブラジュリ家の闇組織の犯行に頭を抱えてしまう。
唯一、シルファランスホテルで私を襲った人だけが、本当に人違いで襲ったらしい。
人違いで殺人犯になるのって最悪だ。
殺人未遂と殺人犯では刑の重さが違うから、あの人にとっても殺人未遂くらいで終われてよかったのだろう。
ある意味、このタイムループを起こした神様は、あの殺人未遂犯の守護霊なのかも。
それなら、彼をタイムループさせればよかったのに。
でも、それだと私がエルと出会えなかったからこれでいいのかもしれない。
エルと私は事件の捜査の最中で正式に婚約を発表した。
社交界では一部の貴族から「気位の高いダンフォード侯爵令嬢が、伯爵と婚約した」とあまりいい噂話ではない風に伝わっていった。
「美しい伯爵を金で買った」とか「貰い手がいないから爵位が下の家に嫁ぐ」とか散々な言われようだけど気にしない。
エルほど信頼出来て頼りになる人はいないのだもの。
それに爵位なんて関係ないわ。
爵位や外見だけを見ていたから、リュック様みたいな人に騙されそうになったのだもの。
ルアーナ様の正体も誰も気が付かなかった。
人は見かけより中身よ。
フローラは、婚約発表の日に、珍しく外出して我が家にやってきた。
「婚約おめでとうございます。末長く幸せになれますわ。長い時間かけて作った絆ですもの。それから、アビゲイル様は世界を変える人だって信じてましたわ。たくさんの人の運命を変えたんですもの」
「ありがとう!お祝いに駆けつけてくれるなんて嬉しいわ」
何も知らない人が聞いたら、時計台広場のホームレス襲撃事件から沢山のホームレスを救った事だと思うだろう。
でも違う。
ラブラジュリ公爵家の真実を暴き、武器商人達を追い詰め、偽札の流通を止めた事を指している。
ラブラジュリ家はお家取り潰しで、領地などを管理する貴族を今選出中だ。
フローラにはなんでもお見通しである。
「今日はお祝いの品を持ってきましたの」
長細い箱を渡された。中を開けると、何故かペンが入っていた。
「真っ赤なゾーイのドレスは希少価値がありますわ。インクで汚さないようにしてくださいませね」
驚いてフローラの顔を見る。
まだエリーおば様に出会う前、オペラに入る時に、係員がペンを落としてゾーイのドレスを汚し、それでオペラに入れたのよね。
「フローラ、知ってたの?」
「何をでございますか?このペンは世界を変えるキッカケをくれたかもしれませんし、違うかもしれませんわ」
クスクスと笑うフローラをハグをする。
あの頃の私とは何かが大きく変わっていることを自分でも感じている。
気がつけば、目まぐるしく過ぎた皇太子殿下戴冠式から2ヶ月が経過した。
明日は、久しぶりにオペラ座が開く日だ。
ドラテオ公爵家が新たなスポンサーになり、ラブラジュリ家の息のかかった職員は全て一掃して、新たなスタートを切るのだ。
オペラにいくために、エルは約束通り新しいドレスをプレゼントしてくれた。
届いたドレスは今まで私が着なかったようなシックなダークブルーのドレスだ。
ホルターネックになっていて、スカートの裾には真っ白なラインが入っていた。
「ラナ、このドレスにはどのイヤリングがいいかしら?」
「ダイヤモンドがお似合いになると思います」
あれから、ラナは私専属の侍女になった。
私の事を『向こう見ずで無鉄砲な天然のお嬢様』だと思っていて、世間や屋敷の他の侍女達の『気位の高い鼻持ちならない嫌な侯爵令嬢』という認識とは大きく乖離している。
「アビゲイル様、時間ですよ」
準備をおえた私を侍女見習いが呼びに来た。
「ジル、主人の事は『アビゲイルお嬢様』と言いなさい。それから『お時間ですよ』と言うのです」
「はっはい。気をつけるわ」
時計台広場で花を売っていた少女は、ラナの下について見習いをしている。
靴磨きの少年は、クリフの下について、侍従見習い中だ。
窓の外を見ると、二人が厩舎に入っていくところだった。
ループを知らないクリフは私を乗馬の天才だと思っていて、私のための馬を迎える準備をしてくれている。
馬なんて別に必要ないのに、と思いながらサロンに向かうと、既にエルが待っていた。
「アビー!そのドレスすごく似合っているよ」
「ありがとう。なんだか不思議なデザインなんだけど」
迎えに来たエルに聞いてみる。
「アビーは勲章を辞退したけど、勲章授与者である事を表すピンバッチはつけてもいいんだよ?首元に」
「だからホルターネックなの?」
「そうだよ」
「じゃあスカートのラインは?」
「国家安全局所属の職員の軍服のラインは一本なんだ」
エルの壊滅的なセンスに笑ってまう。
「真面目にそんなことを考えているところも素敵よ」
エルにキスをしてから、腕を組み、馬車に乗り込んだ。
これからの明るい未来を期待して、オペラを観に行くのだ。
今度は渋滞に巻き込まれませんように。
あの空砲を鳴らす教会の横を通り過ぎるとき、扉から誰か出てきた。
ループが始まる時、必ず見たあの司教様だ。
手には大きなネジ巻きと、工具箱を持っている。
「司教様、どこにいくのかしら?」
私の視線の先をエルも確認した。
「時計台広場の時計のねじ巻きだよ。以前の管理者がちゃんと修理してなくてね。広場の時計はちょっと狂ってたらしい」
「なんでも知ってるのね」
「もちろんだよ。私は国家安全局のスパイだからね。昨日、アメジストの帽子飾りを落とした事も知ってるよ?」
「なんで知ってるのよ。さては、クロノが相談したのね」
「あたり!慈善活動に高価な物をつけていって落としたって。アビゲイル様には怖くて指摘できませんってさ」
「何よそれ。昨日はつけてません。一昨日、絵画の鑑賞会に行って無くしたんですよ」
「無くしたのには変わりないじゃないか」
「ナルコステ侯爵夫人と一緒だったのよ。あの方、高齢で自分の物だと勘違いして持って行ったのかもしれないわ」
「それはありうる。ナルコステ夫人は、以前、陛下の犬のオヤツを、新しいお菓子だと思って食べようとしたんだよ」
「それってテーブルの上にあったんでしょ?皆勘違いするわよ」
二人で笑い合う。
馬車の外まで大笑いした声は聞こえたようだ。
今は怒る事なんてなくなった。
それから、幅広い年齢の貴族と交流を持つようにもなった。
同世代の貴族だけと過ごすよりも、毎日ちょっとした事件を見つけられて楽しい。
毎日笑って過ごしていて、以前の私が何故あんなに怒りっぽくて、めんどくさがりな性格だったのか、自分でも忘れてしまった。
あの謎のタイムループは何だったのだろう。
いまだにわからないが、もういい。
タイムループのお陰で私は命拾いして、エルという最高の人と巡り会えた。
タイムループは2度とごめんだけれど、たまにエルとあの時の思い出を語り合う。
私たちだけの、秘密の記憶なのだから。
これでこのお話はおしまいです。
不定期更新にもかかわらず、お読み頂きありがとうございました。
もしよかったら、評価いただけると幸いです。
時間はかかりますが、また次の作品も執筆予定です。
今後も、お読みいただけると嬉しいです。




