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うまく行かない時は本当にダメ

馬に跨るのは、男性だけ。

ドレスを着た女性は、はしたないので横乗りになるのだが、普段から馬に乗らないからグラグラして怖い。

エリーおば様の馬車まではイステル氏は馬を誘導してくれた。


「では気を付けてお進みください」

イステル氏はエリー伯母様横で立ち止まると私を見送ってくれた。

そして。馬車のドアをノックした。

馬車のドアが開き、何やら交渉している様子を確認してから、ゆっくりと時計台広場にむかって馬を進める。


角を曲がる時、イステル氏が追い付いてきた。

「早いですわね。二頭立ての馬車なのに、エリーおば様は大丈夫なのですか?」

「エリー伯母様は競馬の馬主もしていますからね。普段馬車を引かせている馬は、成績不振で引退した馬なんですよ。それに、残してきた馬はパワーがありますから心配無用ですよ」


元競走馬で来たのね。それなら早いはずだわ。


「馬ならあっという間につきましたね。馬から降りるのを手伝いますよ。女性のお手伝いができるって素敵ですね。男だらけの海兵隊のお手伝いとは訳が違いますから」


ラピスラズリ色の瞳がキラキラと輝いている。

人懐っこい笑顔が、年上だとは思えない。

きっとスパイとして潜入できるのは、この懐柔する能力のせいだろう。

でも、私は魅了されない。

男性の魅力は爵位と資金力で決まるもの。

どんなに顔が好みでも関係ない。


馬から降りるのを手伝ってもらいながら、あの少年を探すと、広場の一角で靴磨きをしていた。

通り過ぎる人々に声をかけている。

「では、早速小銭が必要になりますね」


イステル氏は先ほど渡した袋から銅貨を一枚出して少年に近づいた。

「靴磨きの君」

「いらっしゃい、ダンナ。靴をピッカピカに磨きますよ?」

少年は満面の笑みを見せる。


「実はお願いがあるんだ。メインストリートの先で複数台が絡む馬車の横転事故があってね、大渋滞しているんだよ。手伝ってくれたら、その分の報酬と、今夜の寝床を提供するよ」

少年は怪訝そうな顔をする。


「警ら隊の頼みでもそれは聞けないな」

「わかっているよ。ここにいて、小さな子供たちや、物売りの少女たちが人さらいに遭わないかと見張っているんだろ?」

「ダンナ、わかっているじゃないか。俺はここのボスだ。簡単には離れられないよ」


「ここにいる君が面倒を見ている全員で手伝ってほしいんだ。『よく働け』とかそんな事は言わない。全員で手伝ってくれたら、一人につき、銅貨5枚をあげよう」

「銅貨5枚?それって本当か?俺の一日の売り上げと同額だ」


「本当だよ」

イステル氏はさっきの袋を見せた。

「さあ、行くか行かないか」

お金は欲しいようだが、少年は躊躇している。


「俺達がここから離れると、動けない病気のじい様達や子供たちがどんな目に合うかわからないし、第一、絶対に戻れるという保証もない」

この後、どれだけ交渉しても少年の気持ちを動かすことはできなかった。

怪しまれたのかもしれない。


「わかったよ。私達はまた来る。せめて、病気の仲間がいるなら、ここにいくといい」

イステル氏はコートの内側に手を突っ込み、自らの名刺を出した。


「王都の北側、貴族街の近くになるが、ヴァンペルト教会というところがある。ここなら病気の人を無料で診察してくれるよ。困ったら私の名刺を出すといい」

「この名刺はダンナのかい?」

少年はイステル氏が渡した名刺をしげしげと眺める。


「ダンナは海兵隊の人なんだね」

「そうだよ」

「わかった。せめて靴でも磨いていくかい?」

「申し訳ないが事故処理の様子を見に行かないといけないからね。次回お願いするよ」


私達は仕方なくその場を去った。

「結婚式の後、ここでクッキーを配り終えてから、イステル様があの少年に名刺を渡しているのを何度も目撃しましたが、教会の場所を教えていたんですね」

「そうですよ。教会に行けば、炊き出しがありますから食事にありつけますしね、治療も受けられます」


「ヴァンペルト教会ってイステル様とどんな関係なんですか?」

「ここは、エリー伯母様。つまり、ドラテオ公爵家がずっと寄付している教会だよ。ホームレス支援に力を入れているんだ」

「ノブレスオブリージュですね。支援して何があるんですか?その人達が何かをもたらしてくれるわけではありませんよね?」

チャリティーに興味のない私は、今までずっと疑問に思っていた事を聞いた。


「確かにそうだけど、ホームレスの子供の多くはマフィアになって、犯罪に手を染める。マフィアになる子供を減らして一人でも多く健全に働いてくれたら、国が豊かになるだろ?」

「一人や二人がそうなっても、あまり変わらないのではありませんか?」

「そうだとしても、長い目で見たら違うよ」


「そうかもしれませんが。現実は甘くはありませんね」

「作戦は失敗でした。しかも少年を説得するのにすごく時間を使ってしまいました。急いで事故現場に向かわないと。馬と上着を返却しないといけません」

時計台を見ると、時刻は13時46分。



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