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15時10分の雨

平静を装う私を見て、イステル氏はニヤリと笑った後、咳払いをして真面目な表情を作った。


「実は私もタイムループを繰り返しているんですよ」

囁くように言ったイステル氏の言葉に、私は何も言葉が出ない。


何を言い出すかと思ったら。

悪い冗談だわ!


もしや、私をからかっているのかもしれない。

何も答えず、踊りを続ける。


「その証拠に、15時11分になると雨が降ります」

自分が知っている情報を言われて、思わずその顔をじっと見てしまった。

タイムループを繰り返しているのは本当の事なのかもしれない。


「ではいつ雨が止むのですか?」

雨が降る時間を知っているという事は止む時間も知っていて当然なはずだと思い質問をする。


「10分後の15時20分です。勿論、ダンフォード侯爵令嬢もご存じですよね」


確かに、知っているがこれにも返答しない。

イステル氏もタイムループを繰り返しているのだろうが、返事をするのを躊躇ってしまった。


先ほど、『そうではないかと疑っていたので、昨日ダンスの申し込みをしました』と言っていたので、少なくとも、昨日と本日の二日間を繰り返していることは想像がつく。


「イステル様は、昨日と本日の二日間をループしているのですか?」

「ダンフォード侯爵令嬢はどうなのですか?」

「わたくしは、昨日から明日までの3日間をずっと繰り返していますわ」

「もしやと思いますが、明日の16時ごろですか?」


「どうしてそれを!」

「私は昨日のオペラ開演直後から明日の16時頃までを繰り返しているんです。では、ダンフォード侯爵令嬢も、私と同じ明日の16時になると戻ってしまうのですね。その時間に何か起こるのですか?」

「多分、背中を刺されるんです。すぐに意識を無くして……、気が付くと毎回、オペラに向かう馬車の中に戻ってしまいますのよ」


「それはキツイですね。毎回痛い思いをするんだ」

「痛くなんてありませんわ。だって、何が何だかわからないうちに意識が遠のくので」

「あっけらかんとおっしゃいますが、それは大変なことですよ。侯爵令嬢である貴女様が刺されるなんて! ところでそろそろ移動しないと鳥の糞が落ちてきます」

「え?」


びっくりしているとイステル氏がダンスを辞めてエスコートしてくれる。

驚きながら従うと、その直後、ダンスをしている芝生に鳥の糞が何個か落ちて来た。

たまたま飛んできた鳥の群れのうち、数羽が同時に糞をして、数人のドレスが汚れてしまったようだ。

「やだ!どうしましょう」

ドレスが汚れた女性叫ぶと、大慌てでメイドがやってきて控室に案内しますと言っているのが聞こえている。


イステル氏は、カーニバルにあるような大きな屋根のオープテントを指さし、あちらに行きましょうと言った。

そこは強い日差しを避けるために作られたスペースの様で、座り心地のよい大きなソファーや丸テーブルが置かれている。

このテントも結婚式仕様なのか、屋根の帆布はピンク色で、ソファーは淡いブルーの布で覆われていて、隅にはウオーターピッチャーや、ワインなどが置かれており、その横に給仕係が控えていた。


長椅子にエスコートされたので、そちらに座ってから、イステル氏を見る。

「毎回、ああなるんですよ。『避けてください』って言っても無駄です。このままこちらでお待ちくださいね。雨に備えてやらないといけないことがあるんです。話の続きはその後で」

困った顔をしながらつぶやいた後、皆がいるスペースへと戻っていった。


今から何をするつもりなのだろうか?

眺めていると、イステル氏はネイビーブルーの制服の上官たちに次々と声をかけて、このテントへ誘導している。

皆が、奥の丸テーブルに集まって来た。


全員が席に着くとイステル氏はその輪の中に立ち、

「明日から式典続きでお忙しい皆様のために、この場を借りていいものを持ってまいりました」

と言った。


「何かね?いいものとは」

「グレンブグス大尉、こちらです」

イステル氏は床に置いてあった木箱を開け、中から琥珀色の液体の入った瓶を出し、テーブルの上に置く。

「ビンテージ物の高級ブランデーです。これから忙しい日々が続く皆様にと、うちのドラテオ伯母様から預かってまいりました」

「おお!ドラテオ公爵未亡人から。ということは亡きドラテオ元帥の秘蔵のブランデーか。それはありがたく頂戴しないといけないな」


人数分のブランデーグラスに注いで乾杯をした後、全員が一口飲む。

そして口々にブランデーを褒め称えた。

緩んだ空気の中、イステル氏は男性たちに礼をする。

「あちらにいらっしゃるダンフォード侯爵令嬢は、ドラテオ伯母様のご友人でしてね。丁重におもてなしをするように厳命を受けておりますので、失礼します」

「おお、それはおもてなしをしないと、未亡人にお叱りをうけますな」

男性陣から笑いが起こる中、イステル氏はこちらに向かって来た。


給仕係からスパークリングワインの入ったグラスを2つ受け取ったあと、私の目の前に来て、一つを手渡してくれた。

「ありがとうございます」

受け取ったスパークイングワインの中にはイチゴが入っている。


「すいませんでした、ダンフォード侯爵令嬢」

目の前で丁寧に礼をしてから、向かいの一人掛けのソファーに腰かける。

「あの方たち、ここで雨に降られると、その後機嫌が悪くなってしまいましてね、この後の仕事に影響するんですよ。ですから、雨が降る前にああやって別の場所に移動してもらうわけです」


「イステル様の行動は、何度もこの状況を経験してきた結果の先読みですわね。タイムループの話を切り出された時、揶揄われているのかと思いましたわ」


「ダンフォード侯爵令嬢は、これで何回目ですか?私は58回タイムループしています」

「58回? よくそんなに数えていますわね。わたくしは初めのうち、悪い夢がずっと続いていると考えておりましたので数えていなかったのです。数えるようになってから15回目ですわ」


「私も初めから数えていたわけではありませんから。実際にはもっと多いという事ですね。このタイムループのきっかけに何か思い当たることはありますか?」

「全くございませんわ。イステル様は何かありますか?」

「私も全くわかりませんね」


テントで和やかに話をしていると、急に周囲が薄暗くなった。


北の空は明るいが、東の空からすごい勢いで発達した雲がやってきて、急に激しい雨が降って来た。

白い制服の海兵隊員たちは歓声を上げ、雨を楽しんでいるが、ダンスをしていたりおしゃべりに夢中になっていた女性達は急いで近くの木の下に避難していく。


その様子を眺めてから、先ほど受け取ったスパークリングワインに視線を落とした。

ワインはイチゴの色でうっすらピンク色になってきている。

グラスをじっと見ている私に気が付いたイステル氏が先に一口飲んだ。


「スパークリングワインでフランベしながら飲むんですよ」

ラピスラズリ色の瞳がキラキラと輝く。

この優しい声のトーンに、魅惑的な笑顔。きっと沢山の女性が泣かされて来たんだわ。

でも、私には通用しない。


「イステル様ってきっと女性人気が高い上に、慣れていらっしゃるのね」

「何をいいだすんですか?」

イステル氏はクスクスと笑う。

すいません、本業が忙しくて更新できませんでした。

なるべく毎日更新するようにしていますが、間が開くようならアナウンスさせていただきますので、引き続きよろしくお願いします。

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