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バッドエンドはもう来ない……  作者: 白い黒猫
死から一旦逃げてみる
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十一久刻の像

 タクシーの運転手はやたら話しかけてくるタイプで鬱陶しかった。

 私がどこからきたのか? この日の予定とか余計な事を聞いてくる。


 私はそんな声掛けに、適当に答えながら窓の外の風景を見つめていた。

 記憶の今日と同じで天気はよく晴れ渡っており窓の外には美しい海が広がっている。

 海側は入り組んだ断崖絶壁のこの道は、晴天の中ドライブするには絶景を楽しめて素敵な道には思えるが、あんな地震が起きてしまうと話は別となる。

 逆に今の風景が平和なだけに、このあとあんな事が起こるなんてにわかに信じられない。

 そしてこの後地震が起こると分かっているのにこんな道を通ってあの崖に行くというのも無謀だとは分かっている。

 しかし、あの場所に行かないと何も分からない。

 慈悲心鳥崖につき、料金は八千九百円だったが万札を出してお釣りも要らないと車を降りて崖へと急ぐ。

 時間は九時四十七分。地震発生までまだ時間がある。


 もう三度目ですっかり見慣れた向日葵の並ぶ緑道を通り先にある崖の上の広場へと行く。

 見渡すまでもなく人は誰も居ない事が分かる。

 そのことにホッとするのと同時にガッカリするという器用なことをする。

 そっと手すりに近づき下を覗くが、そこに恐れていた光景はない。

 自殺専門サイトに書かれていたことを信じるのなら、波に綺麗に攫われ沈んでいる可能性もなくもない。

 私は嫌な想像を振り払うように頭を横にふり周りを見渡す。

 この空間で目につくものと言ったら銅像しかない。

 あとは木を縦に割って作った風のベンチ。

 私は改めて銅像へと視線を向けて驚く。

 その銅像の顔があのフジワラによく似ていたから。

 切れ上がっているけれど柔和に見える目、緩やかに口角の上がった薄い唇。

 見れば見るほど似ている気がする。

 私は像の下にある台座に視線を動かす。


 【十一久刻の像】とある。上にある神社にも祀られている人物だ。

 説明文を読んでみる。

【塩害の激しいこの地において農地改革に………この地を豊な農地…………道場において地域の子供達に剣術のみならず学問も…………あり「ひさとき先生」の名前で現在も慕われ………

 …………不死…………その死を…………………

 肩の……慈悲心鳥でカッコウ…………傷付…………久刻に助け………久刻に懐………いつも一緒……十一の死後ージューイチジューイチと鳴き…………】


 潮風のせいか、ところどころ文字が錆びにより読めなくなっている。

 今朝ネットで軽く調べた情報と合わせて考えると、この人物はこの辺りに住む武士で輝かしい功績を残した。

 それが周りからの嫉妬を買い冤罪でこの崖のあるところで処刑されてしまった。

 上の神社で明るい笑顔のキャラクーが作られているが、そのモデルとなった人物は壮絶な人生だったようだ。


 あのフジワラという男と気持ち悪い程似ている十一久刻の像が気になる。

 銅像に視線を戻すと、そこに穏やかな笑みを浮かべた十一久刻がいる。

 見れば見るほどフジワラという男に見えてくる。違うのは、髪を縛る位置でこちらはポニーテールのように縛っておりそれが風に靡いている。

 十一久刻について調べたいが、ここにいつまでもいるのは危険。

 スマフォを見ると十時十一分。あれ程の地震があったということは、どこに逃げれば安全なのだろうか? 街に戻るのが良いのか、この先の常世漁村へと行くほうが良いのか?

 常世漁村は海沿いの街。海の側ってかえって危険かもしれない。

 タクシーを返してしまったことも悔やまれる。

 バスは今の時間ない。しかも駅などが遠いからタクシーを呼んでも直ぐ来ないだろう。

 十一久刻の像見つめたまま私は深く悩む。

 私はどうすれば良いのか?



 肩を突然叩かれた。


 それは優しいタッチだったが私を驚かせるには十分の衝撃だった。

 私は大声をあげ身体を跳ねさせ謎のステップを踏む。

 恐る恐る後ろを見ると、()()シャツに黒いジーンズ姿のフジワラが立っていた。

「ごめんなさい。脅かすつもりはなかったのですが、声かけても返事がなかったから」

 フジワラはそう謝ってくる。この訳わからない状況について何か知っていそうな人物だけに会いたかったが、実際対面すると緊張する。

「あ、貴方は……何であんた事を! 死ぬなんてばかなことを!」

 色々聞きたいことがあったのに、最初に出てきたのは咎めの言葉だった。

 私の言葉にフジワラは困ったように眉を寄せる。

 チラリと腕時計に目をやり表情を引き締める。

「ここにいては危険です。まずは崖から離れましょう」

 差し出してきた手をとり私はフジワラについて行くことにした。

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