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バッドエンドはもう来ない……  作者: 白い黒猫
死から一旦逃げてみる
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三度目の始まり

 ホテルで私は我に返る。

 手にしているワイングラスが小刻みに揺れている。

 グラスを両手で持ち震えを抑えながら一口ワインを飲みテーブルにグラスを置く。

 何度か深呼吸してから、視線を動かす。

 テーブルの上のスマホは『2026.7.11 0:01 土曜日』の文字。

 目の前にはすっかり馴染みとなってしまった夜景が広がっている。


 この奇妙な体験を夢と片付けることはもう流石に出来なかった。

 かと言って受け入れ難い状況。

 なんでよりにもよって自殺を予定していた日に、地震で死ぬという事態となり、それを繰り返さなければならないのか。

 意味が分からなかった。


 私は思考を整理する為に、冷蔵庫開けて瓶に入ったミネラルウォーターを取り出す。

 なんでこんな事になっているのかを考える。

 地震が発生したのは十一時過ぎ。

 それより早くに崖から飛び降りたら私は無事自殺ができるのか?

 もしまた時間が戻ったら、無駄死にとなる。

 逆に今日何もしなかったら、明日を迎えられたりするのか?

 苦渋の決断となるが自殺するのを明日以降にするべきなのかもしれないということまで考える。


 いくら考えても分からず解決策も思い浮かばない。

 ふとフジワラという男の事を思い出す。

 崖から飛び降りた彼はどうなったのか?

 時間が戻ったということは生き返っていると考えても大丈夫なのか?

 それとももう死んでしまったのか?


 荒唐無稽なことが起こってしまっているだけに、何をどう考えても有り得ない事でもないようにも終える。


 スマホで【藤原】で画像検索検索してみるが誰もがよく知る芸能人や政治家などの顔ばかり出てくるだけ。

 ついでにここの地名とともに検索をかけるがヒットするものが多すぎてあの男が見つかる訳がない。

 

 震える指で【慈悲心鳥(ジヒシンチョウ)崖】を検索してみる。

 海流の関係で遺体が上がりにくいことと、飛び降りたら確実に死ねることから自殺の名所として有名。

 最近崖の部分に銅像を置いたりと公園として整備したことで自殺者は減少方向にあったらしい。

 

 同時に、慈悲心鳥神社近辺は怪奇現象の起こりやすいミステリースポットでもあったようだ。

 あの崖は昔処刑場だった。

 そのためにそこで非業の死を遂げた人たちの怨霊が集まっているという怪しげな情報が出てくる。

 その怨霊たちが、新たなる仲間を求めて生者を呼び海に引き込むからあの場所で投身自殺が多いという説もあった。

 慈悲心鳥神社はそんな怨霊たちの心を鎮めるために建てられたと怪しげなサイトには書いてある。


 実際行ってみたが、そんなおどろおどろしい場所には感じなかった。

 霊感とかないのでなんとも言えないが……。

 神社の方のサイトを見るとあそこの神社に祀られているのは十一久刻。

 あの辺りの農地改革、学問推進などの多くの功績を残したという人物。

 【ひさとき君】とかいう肩に鳥をのせたファンシーなキャラクターまで作られていて至って平和な感じである。

 気象学に精通した人物だったとかで、なぜかテルテル坊主型のお守りがある。

 受験生が入試の日に天気にも恵まれるようにと合格祈願御守りとセットで買って行くことが人気ならしい。


【慈悲心鳥崖・藤原】【慈悲心鳥神社・藤原】と試しに入れてみたが意味はなかった。

 あの男のことを知るには、あの崖に行くしかない。

 そう考えると身体が震える。

 あそこで感じた、フジワラの死に対するショックと、自分の二度の死の瞬間を思い出したから。


 あの辺りに行くバスは一時間に一本しかない。

 しかも朝の時間はあの崖に行くコースのバスはない。

 だからこそ、十一時前にあの場所に到着するバスを利用していた。それが一番早かったから。

 免許を持っていないからレンタカーも使えない。となるとタクシーで行くしかないだろう

 幸いな事に、家も持ち物も全て売り払ったのでお金はいっぱいある。

 私は朝イチでチェックアウトして駅に行き大きな荷物をロッカーに預けて、駅前にやってきたタクシーを捕まえて慈悲心鳥崖に向かった。


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