七月十一日の呪い
零時を超えて戻ってしまった時間。私は一番長い時間呆けていた。
スマホを手にして、Facebookで不死原を検索し連絡を入れる。
【起きていますか? 不死原さんは今日どこに行かれるんでしょうか?
私も一緒に行ったらダメですか?】
そうメッセージを送るが一時間待っても返事は帰ってこない。立ち上がり冷蔵庫に飲み物を取りに行く。水を飲んでサイドテーブルの置いてからベッドに寝転がる。
初めて寝てみたベッドは快適な筈だけど、私の心を癒してくれなかった。
考えてみたらかなりの時間起きっぱなしになっている。心が疲れていたのかそのまま落ちるように眠りに落ちていった。
※ ※ ※
『ねえ、一緒に暮らさない?
俺もここでヒロちゃんと一緒に暮らしたい。
そして帰ってきたヒロちゃんにおかえりって言いたい。二人でいた方が楽しいよね!』
私の住んでいた場所に重男というパーツが加わった。私が帰る場所に待っている人が出来る。私にとってそのことは心が震えるほど嬉しい事に思えた。
※ ※ ※
目を覚ますと七時になっていた。またつまらない夢をみたようだ。
性格上ダラダラすることができないために、あまり遅くまで寝ているということが出来ない。
五回目の時、まともなものを何も食べていなかったことを思い出し、ホテルのモーニングを食べに行くことにする。
スマホを確認するがメッセージの返事は来ていない。
ため息をつき着替えて一階のレストランに向かう。
最高のサービスで頂く豪華で美味しい朝食は私の気持ちを少しだけ元気にしてくれた。
しかし部屋に戻ると私は今置かれている現実を思い出し気持ちは重くなる。
スマホを確認するが不死原からの返事はない。
今日どうするべきなのか?
不死原に会えないのに慈悲心鳥神社や崖に行く意味があるのだろうか?
もっと上手い聞き出し方をして、宮司の奥さんから不死原の家を教えてもらい行ってみるか?
そんな事を考え頭を横にふる。会えたとして勝手な行動をした私に不死原は良い気はしないだろう。
もう一度お風呂に入りスッキリしてから私は一旦ホテルをチェックアウトする。
駅に行き邪魔な荷物をコインロッカーに預け観光案内センターへと向かう。調べ物をしたいのでパソコンを使えるような良い所がないかと聞き、紹介されたカフェへと向かう。
そこは最近のリモートでの仕事や就活の為に生まれたカフェで半個室でパソコンを扱えるようになっていた。
私はパソコンのある席を借りて調べ物をすることにする。
スマホだと画面も小さく、電池や電波の問題もあってジックリ調べ物をするのに向かない。
大きめのカップに入ったコーヒーを注文して、あの土地の事を調べることにした。
海岸線しか行ってなかったから分からなかったが、あの地域は少し奥に行くと農業と酪農等の盛んな地域だったようだ。
ブランド野菜やブランド豚を特産としており、更に漁業の方も活発で、健全財政の市で、住民の平均収入も高い裕福な場所だという。
あの市は別名フジハラ王国とも言われている。そこの懐刀とも言うべき存在が十一家。
不死原一族と十一一族は産業活動だけではなく地方議会の方も取り仕切っており、あの土地においては絶対権力者。
政治と民間がいい意味でタッグを組んでいることで、地域にとっては恩恵の方が大きい事もあり地域住民からの信頼も厚く人気も高い。
人気ファミレスチェーンを出しているサムライ株式会社も十一家の人がの設立した会社で本社が実は、この市にあったことに気がつき驚いた。
サムライとは社長名の十一からきているという。
確かに呪いとか怨霊とかいったものとは無縁な世界に見える。
神社は学問の神様とされているが、商売繁盛の力の方が強いから、そちらを前面に押し出した方が良かったのでは? とさえ思った。
【サムライ株式会社、七月十一日の怪】という記事を見つける。
サムライ株式会社は2020年7月11日に会社のある店において社員一人が亡くなるという悲劇に見舞わられた。
その丁度一年後の2021年7月11日、沖縄の店舗でも台風による高波で流された物により近くを歩いていた通行人四名と社員二名が巻き込まれ三名が亡くなるという悲劇がさらに起きた。
どちらも十一時頃に起こった事故だけど本当にそれは偶然なのか? といった内容のもの。
世間でも話題になっていたニシムクサムライを二年連続襲った悲しい事故。
私もなんとなく覚えていた。確かにあの時サムライ株式会社の七月十一日の呪いと騒がれていた。
しかし次の年にも何か起こるのでは? と言われていたが何もなくそのままその話題は下火になっていた。
世界滅亡の予言と同じで、外れた瞬間に世間は興味を失ってしまうから。
試しに【2022年 十一 事故】【2023年 十一 事故】【2024年 十一 事故】【2025年 十一 事故】と順番に検索してみる。すると一件だけヒットした。
【2025年7月11日 彫刻家の十一残刻氏死去】
リンクをクリックしてみる。
【彫刻家の十一残刻氏(29歳)は2023年7月11日11時頃、11番街ストリートを通行中強風で落下してきた看板と接触して死亡とある】
十一残刻で調べてみると、読み方は【ザンコク】ではなく【ザントキ】と読むようだ。そして誕生日は十一月十一日。
彼の作品の写真がいくつか出てくた。
その中にあの崖にあった十一永刻も像があることに気がつく。
私はその画像のある記事をクリックしてみてみる。
像の落成式の時の記事の写真の数々。
私が今日という日の中で出会った宮司さん夫婦、それに町の偉い人らしき人、そして作者の十一残刻氏とその隣にいるのは不死原渉夢。
仲良さそうに十一残刻と話す不死原渉夢の姿もあった。
名前からもわかるが、十一残刻はやはりあの土地の関係者だったようだ
2020年 ビアバー ニシムクサムライ零の事故
2021年 ビアバー ニシムクサムライ11号店での事故
2025年 十一残刻氏の事故
2026年 十一残刻氏が作ったサムライの像のところで事故
こうして見ると、不死原家が呪われているというより十一家の方が呪われているように見える。
目が少し疲れたので、画面から視線を外してから目の辺りをマッサージしてからスマホを確認するが不死原から連絡はない。
ため息をついたタイミングで店内のスマホが不快な警報音を発してくる。
グラッと周囲が揺れ出したことに気がつく。
店中で悲鳴が上がるが、私は冷静に時計を確認する。
やはり11時9分ちょっと前から十二分超えたくらいの時間揺れている。
私が死んだのはもしかして11時11分11秒だったのでは? とそんな事まで考える。
周りは揺れが治ったのに騒ついているが、私は気にせずにキーボードを叩く。
事故で死亡した被害者の誕生日を調べてみると、11月11日の人が必ずいて、それ以外の人は月こそ違うが11日生まれの人ばかり。
私も今日が誕生日。
不死原の事もFacebookで確認したらやはり誕生日は十一月十一日。
四年も7月11日に11月11日生まれの人が11時11分に死亡。そんな偶然がそんなに続くものだろうか?
逆に抜けている年が気になってくる。
【7月11日 事故】で調べてみる。
普通の交通事故から火事などその日に起こった事故が大量に出てくる。
【7月11日 11時 事故】少し減ったがそれでも多い。
その中で目についたのは2019年の記事。都内で突然起こった竜巻で三人の人物が死亡。その被害者の一人佐藤宙という人物が11月11日の誕生日だった。
誕生日以外に何の共通点があるのだろうか? 私は考える。
サムライ株式会社の事故と十一残刻と不死原の事故も十一家に関わる人たちという繋がりはある。
しかし佐藤宙がここに加わったことで共通点が見えなくなった。
ニュース記事に出てくる佐藤宙についての情報は、システム開発の会社に勤める営業マン。地位はマネージャー。
友人や家族のコメントでは、面倒見の良い穏やかで人から慕われている人だったようだ。
しかしこれは亡くなった人に対してのコメント。
ここで悪いことをマスコミにわざわざ言う人もいないだろう。
ごくごく普通の人に見える。同時に亡くなった二人についてもそう。
普通の会社員。誕生日は月は違うものの十一日と言うことだけが共通点。
私は大きく深呼吸して、今回の地震がどうなっているのかを調べてみる。出てくる情報は全く変わらない。
地滑りが起こったであろう時刻というのを調べてみると十一時二十分過ぎに地域に振動があったという情報を見つける。
つまりは地震の後緩んでいた地盤がゆっくり崩れ、その辺りの時間で地滑りとなったのだろう。
そして、不自然にそこから逃げたような人はいなかった。真夜中に起こったのなら兎も角。昼間の事。
地滑りに巻き込まれた記憶があるのなら普通人は回避の行動をとる。
しかしあの地域の人は普通に生活して地滑りに何度も巻き込まれ続けている。
私達と何が違うのか? 私は七月十一日に起こった事故を調べつつ、今日のニュースをチェックしていたが、新しいことは何も起こっていなかった。
十六時辺りになると、震度六のあのフジワラ王国と呼ばれる都市より、震度五の末時町のある場所の方が何故被害が出たのか? という話題に移り。メガソーラを設置した市を批判する内容が加わっている。この流れも同じ。
十八時過ぎになってやっと不死原から連絡がきた。
【申し訳ありません。バタバタしていて連絡が遅くなリました】
私のことを忘れていなかったようだ。
【いえ、今どうされているんですか?
今日色々調べてみました、これから会えませんか?
お話ししたいことがあるんです!】
七月十一日に起こり続けている気持ち悪い共通点を持った事故について話し合いたかった。
【車は山に置いてきてしまったから、もうそちらに行けません】
やはり地滑りの現場近くにいるのだろうか?
【え! 大丈夫なんですか?!】
【ええ。自衛隊の人に保護してもらっていますから。
もう少ししたら家族に迎えにきてもらうので大丈夫です】
あまり安心できる感じでもない。
地滑りの向こう側にいるということは、車が無事でもこちらに会いにくることは難しいのは理解できた。
【分かりました。調べて分かったことお話ししたいので、明日話を聞いてください】
【貴方が泊まっているホテルに行きます。人が来たから、また明日】
そして連絡が途切れた。二人ともが使った明日という言葉に思わず苦笑してしまった。
予定では人生最後の日だった筈が、何とも長い一日になってしまったものである。
死ぬにしても、このループを抜け出さなければ意味がない。
流石に長時間滞在しすぎて居づらくなった店を出て、二十四時間営業のファミレスに移動した。
入った後に、そのファミレスがサムライ株式会社の経営している店だったことに気がついたが、もうどうでも良かった。
ドリンクバー付きの冷しゃぶ定食を頂き、スマホを弄る。
不死原の方は家族と一緒にいるようだから暇でもないのだろう。
ネットニュースをチェックしていたら。山を散歩していた近隣の住民一人が保護されたというニュース流れていた。
このループ現象を体験してから初めて出てきた新しいニュースだった。
2019年の竜巻事故が 【11:11:11世界の真ん中で】の物語世界。
2020年のニシムクサムライ零の事故が、前作【世界の終わりで西向く侍】の物語の世界となります。
ご興味があればどうぞ。




