メッセージ
五度目の今日。どうするべきか一人で部屋で悩む。
気になるのは不死原の事。彼が無事なのかどうか。もし彼が死んでしまったら私はこんな世界に一人で取り残されてしまうという恐怖も感じる。
時間が戻ってすぐに不死原のInstagramとFacebookに連絡を入れておく、画面を見つめ続けるが返事はない。Facebookのところに電話番号が載っていたので電話をかけてみるが、どうやら受付サービスの電話らしく月曜日に電話しなおして欲しいとアナウンスがかかるだけ。
今日は土曜日。今の私には明後日というものが来てくれる保証が全くない。
あの神社に行き不死原の家を教えてもらい家を教えてもらうべきか?
しかし突然やってきた見知らぬ相手に、簡単に住所なんて教えてもらえるものなのだろうか? 電話帳で調べる?
スマホで試しに調べてみたら不死原さんはあの土地に多数いた。しかし不死原渉夢は見つからない。家族と住んでいるからか? それとも電話帳にあえて載せてないからか。
画面に並ぶ【不死原】の文字を見て改めて感じる。なんて異様な苗字なんだろうと。死ぬに死ねない今の状況。まさに【不死】とも言える。彼がこんな名前であることが、この現象に無関係とも思えなくなってきた。
結局また慈悲心鳥神社に向かう。十一久刻像のところに行くがやはり不死原はいない。
【神社の方にいます】とメッセージを書いたハンカチを足のところに結びつけて、神社に向かった。
社務所に行くと前回私のお世話をしてくれた奥さんが受付をしている。彼女は初めて会ったかのように私を迎える。まだ私達は出会ってないことになっているので当然とも言える。
「この御守りかわいいですね!」
ひさときくん御守りを手に取りそう声をかけてみる。この流れでなんとか不死原渉夢に辿り着けないだろうか? という下心もある。
「でしょ! これちょっと有名な画家さんがデザインしたのよ」
奥さんは嬉しそうに乗ってきてくれた。
「そうなんですか! なんていう作家さんなんですか?」
「交渉のショウに夢と書いてショウムさんよ」
ここまでは笑顔で答えてくれた。
「名前も素敵なんですね。この御守りください。ショウムさん、どこに行けば会えますか?」
奥さんの少し笑みがひく。話の持って行き方が強引で怪しかったように思う。
「忙しい人だから〜」
ぼんやりとした言葉を返してきただけだった。
親戚として当然の対応なのかもしれない。
今日は神社の周りも見てみる。神社の周りの石柱に刻まれている名前を見ていく。その大半が十一か不死原の苗字。改めてそのニつの家の勢力が凄まじいことを感じる。
不死原 渉夢
赤い文字でそう書かれた石柱を発見する。
「フジハラさん、どこにいるの?」
私は呟きながらその文字を撫でる。ふと視線を感じて社務所の建物を見ると奥さんが遠くからこちらを見つめていた。
地震を神木の所でやり過ごし、今回も神社の人に保護してもらったが今回は宮司さんや奥さんは優しくなく、私がどこから来たのか、何をしている人なのかという探りの質問をやたら受ける。
しっかり怪しい人だと認定されてしまったようだ。
この日は常世村ではなくその先の鉄道が走っている都市まで送られてそのままそこで放り出されてしまった。
色んな意味で疲れ果てた。駅前にあった寂れたビジネスホテルに飛び込み部屋に入りベッドに倒れ込むように体を投げ出した。そのまま眠りに落ちていく。もうワンピースが皺になってしまったなんて事も気にする気力もない。
※ ※ ※
『佐藤さんは一人じゃないよ。
俺がこれから、ずっと一緒にいるよ。
お願いします、 俺の彼女になって下さい!
俺、佐藤さんのこと全力で笑わせるから。一生笑って過ごせるように!』
母を亡くし塞ぎ込んでいた私を気にかけ話しかけてくれた重男。
調子者な彼が珍しく真面目な顔での告白。
入院している母親の介護に苦しんでいた時、彼の明るさに救われて惹かれたのは真実。思えば二人とも子供で、無邪気に様々な事を楽しめていた時間だった。
※ ※ ※
またなんとも言えない夢を見て目を覚ますと、まだ質素なビジネスホテルの部屋だった。時計を見るとまだ二十三時四十三分。
スマホを確認する。Facebookに何かメッセージが来ていて飛び起きる。
【今日、神社の方に来ていた女性って君だよね? 宮司の眞壁から連絡がありました】
不死原からだった。
【はい佐藤です。よかった無事なんですね! 心配しました】
ドキドキしながら返事を出す。
【俺は大丈夫です。
今、貴方は安全なところにいるの?】
私は今いる場所とホテルの名前を答える。
【ホテル内なら安心だね。
明日だけど、危ないから神社の方に行かずに安全なところにいて欲しい】
【明日じゃなく。六回目の今日のことです】
続けて二つメッセージがくる。
【どこで貴方を待っていたらいいの?】
メッセージの返信が来なくなり少し不安になる。ベッドサイドの時計を見ると二十三時四十七分。
【申し訳ありません。まだ確認したいことがあって。そちらに伺えません】
ショックで身体が震えてくる。こんな世界の中で一人放り出されるのは辛すぎる。
【少しでも。会えませんか?】
私はそう入力して送る。また返事が来ない。
【明後日会いましょう。迎えに行きます】
【七回目の朝のことです。どこに行けば良いですか?】
ハラハラしていたら、立て続けに二つのメッセージがくる。
私は自分が十一日の朝宿泊していたホテルの名前を伝える。
【了解です。九時ごろにそちらのホテルに行きます】
私はその言葉にホッとする。
【待っています!】
そう送ろうとしたら視界が暗転する。ビジネスホテルのベッドではなく綺麗なホテルの部屋の窓際のソファーに座っていた。
手に持っていた筈のスマホはなく代わりにワイングラスを持っている。とりあえず落ち着くためにワインを一口飲んだ。




