港町アルポワール
活気あふれる酒場でグラスをぶつける音が鳴り響く。陽気な音楽が絶えない賑やかな場所。
ここはオルビア国最大の港町アルポワール
国外との交易の中心地であり王都に引けを取らぬほど発展したオルビア国の重要拠点である。
近年、造船技術が発展し大型帆船等を利用した大規模な貿易事業が盛んになりつつあるこのアルポワールの街は民間の船乗り達の安らぎと娯楽の場であった。
オルビア国の海は強力な魔物が多く、航海には常に命の危険が付き纏う。
航海にでた船が魔物に襲われ乗組員や貨物が全て行方不明なんてことは日常茶飯事だ。
だが、それに見合うだけの高い給金とスリルを求め海の男に憧れる者たちは後を絶たなかった。
数ある貿易会社のなかでも-リヴァイアサンの爪-と呼ばれる集団が港に乗り入れるようになってからは航海の成功率は格段に上がりオルビア国の貿易事業も好調
彼ら独自の造船技術や航海方法に特別な秘密があるらしく、高い成功率と大量の物資輸送力を活かし、瞬く間にアルポワール港の海運事業を牛耳ってしまった。
今日はリヴァイアサンの爪の大型輸送帆船ブライヤー号が仕事を終え酒場で大規模な祝宴会を開いている最中であった。
皆大声で笑い顔を真っ赤にしながら酒を酌み交わしている。
「ハハハハハッ_____
今回の仕事はデカかったな、おかげで報酬はガッポリだ!!!」
「全くだ!
面倒事もあったが、お頭に着いていけば俺達リヴァイアサンの爪は安泰よ!」
乗組員達が上機嫌に話していると酒場の奥からひと際体格の良い、眼帯をした男があわられた。
「テメェら楽しんでいるかぁ?
楽しんでねぇ奴はこのラゴウ様がぶっ殺して血祭りに上げてやるから覚悟しろぃ!
ブハハハハハハッ_」
釣られて、酒場一体が笑いに包まれる。
「お頭ぁ!ブライヤー号の乗組員にそんな腑抜けた奴ァいねーですぜ!
いたらとっくに航海でくたばってらぁ!」
酒場中からオゥと同意するような声が上がる。
「ブハハハ___
レジーの言う通りだ!そんなやつが俺様の船に乗っていたら航海に出る前に俺がぶっ飛ばしてやらぁ!
テメェらは俺様が認めた海の男達だ。
だが、今回の仕事は一層長く険しい航路だった、身も心も疲れただろう…
そんなテメェらに俺からのささやかなプレゼントを用意した、今夜は楽しんでくれ…」
お頭が手を叩くと酒場の明かりが落とされ薄暗い雰囲気となった。
同時に店の奥から踊り子のような衣装を着た若い女が大勢酒を持って現れる。
皆、妖艶な化粧をし女性らしさを強調した扇情的な衣装を着ている。
酒場の男達から歓声が上がった。
続いて酒場の真ん中にあるステージに3名ほどの女性が上がり、音楽に合わせて踊り始めた。
腰をくねらせ、挑発的な目線を振りまきながら踊る踊る。
男達はみなステージに釘付けになり楽しんでいる様子だった。
段々と音楽のテンポが早くなり踊り子達の動きも観客のボルテージも上がっていく。
若くて美しい女性が頬を赤らめ、激しい息遣いで踊る様は酒場の男達の欲望を多いに刺激した。
ステージ上の中心の踊り子は特に美しく、薄い水色の透けた衣装で妖艶な踊りを披露し、ラゴウに対し誘うような目線を向けサービスしていた。
「おい…」
ラゴウと名乗ったブライヤー号の船長が酒場の店主を呼び止め、2·3言葉を交わした後に鍵を受け取って、酒場の2階へと姿を消した。
アルポワールの港に面した酒場は2階建ての似たような作りの建屋が立ち並び、酒場と娼館が一緒になっている店が多い。
航海を終え、まとまった給金を受け取ったら酒場へ行き、気に入った女を買って朝まで過ごすのが海の荒くれ男達の日課だ。
ラゴウが2階の個室の部屋を開け、部屋のソファに腰掛ける。
脚を伸ばしグラスを片手に酒を飲んでくつろいでいると部屋の扉がノックされる音が響いた。
「入りな」
扉が開くと、先程ステージの中心で踊っていた美しい踊り子が部屋に入ってくる。
静かに扉を閉めると、そのまま部屋の鍵を掛けくつろいでいるラゴウの足元に膝をつき頭を下げた。
「お声掛け頂き、ありがとうございます
強くて逞しい殿方の目にとめていただき私も嬉し限りでございます。
気に入って頂けるよう、今宵は目一杯サービス致しますので、お楽しみくださいませ」
そう言って踊り子の女は慣れた手つきでラゴウの上着をスルスルと脱がしていく。
「へっへっへっ
若ぇのに随分と手慣れているじゃねぇか、気に入ったぜぇ。
こりゃ楽しめそうだなぁ、名前はなんてぇんだ?」
「カペラと申します」
「カペラか、良いじゃねぇか。
堅苦しいのは抜きだ、楽しませてもらうぜぇ」
カペラの焦らすような手つきと美しい顔立ちにラゴウの口角も無意識に上がり自然と彼の手はカペラの衣装に手を伸ばしていた。
「もう、そんなに焦らなくても…
時間はたっぷりあるのですから
まずはベットに横になって、ラゴウ様が一晩中元気に動けるようにまずはマッサージをして体をほぐして差し上げますわ」
カペラの積極的な発言にラゴウのニヤケが止まらない。
促されるままに服を脱がされ、下着1枚でベットに仰向けで横になる。
「では、失礼いたします…」
カペラは部屋の灯りを落とし、窓越しに見える月明かりに照らされながら衣装を脱いで下着姿となる。
横になったラゴウに乗り上げるようにして、マッサージを始めた。
「ヘッヘッ
こりゃたまんねぇな…」
足の付け根から太腿、胸板から肩、上腕と手を這わせ全身のマッサージを進めていくカペラ
仰向けが終わったら次はうつ伏せになって背中のマッサージが始まる。
少しすると、背中に2つの柔らかい肉の感触を感じ耳元で囁くような声と息遣いが聞こえた。
「それでは、本格的に始めさせて頂きます
天国へご招待いたしますのでお覚悟なさって下さいね」
この時、ラゴウのテンションは最高潮に達していた。
すぐにでも起き上がりカペラを押し倒して組み敷いてやろうと思うほどに興奮していたのだが、ふとおかしな事に気がつく。
身体が言うことをきかないのだ。
腕にも足にも全く力が入らず、起き上がることはおろか寝返りをうつこともできない。
おかしい、と思って大声を上げようと口を開くのだが小さなうめき声を上げるので精一杯。
混乱していると不意に首元にチクリと微かな痛みが走り耳元で女の声が聞こえた。
「駄目ですよ
天国へご招待しますって申し上げたじゃないですか
大人しく死んでください………ねっ!」
言い終わると同時にラゴウは身体が灼けるように熱くなるのを感じた。
内臓が燃えるように熱い!
血液が逆流し口や鼻、耳など身体中の穴から血が流れ出てきた。
苦しみ悶え必死に助けを呼ぼうとしたが相変わらず声は出ない。
しばらくの間、うめき声を上げ続け身悶えした後
ベットにうつ伏せになったままやがて動かなくなった。
窓から見えていた月明かりに雲がかかり始め、辺りがより一層暗くなった深夜に酒場の窓が静かに開く。
「まずは1人………と
先は長いなぁ」
カペラと名乗った女が軽い身のこなしで窓から飛び降り人気の無い暗い路地に溶け込んでいく。
スンスンと辺りの空気の匂いをかぎ小さな声でボソッと 「雨かな……」と呟いた。
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降りしきる雨の中、アルポワールの大通りを雨衣を頭から被った人影が1つ、小走りで移動している。
一昨日の夜から続く大雨で、いつもは活気ある港も船は出ていないし交易市場もほぼ無人だ。
不意に大通りから人影が道を逸れ、1本路地に入ったところで人影は大きな家の扉を開け家の中に入る。
━━━ガタッ━━━
「おまたせ、薬もらってきたぞ!」
雨衣を脱ぐ人影
「おかえりアッシュ」
「お疲れさんやな」
「お疲れ様でした」
出迎えるはルナ ジェイド アルフレッドの3人
「ふぅ、全くこうも雨続きだと滅入ってくるな」
「お疲れ様でした、アッシュさん
今のアルポワールは天気が不安定な時期ですから…
ですが、もうそろそろやむと思いますよ」
奥の部屋から声がする。
「先生、それほんとかよ?
アンタ、昨日もおんなじ事言ってなかったか?」
「そうでしたっけ?
まぁどっちでもいいです。
それより、薬を早く渡して下さい、ソフィさんに早く良くなってほしいんでしょう?」
奥の部屋からメガネをかけた細身で長身の白衣を着たアルフレッドのそっくりさんが現れた。




