包囲の中で3
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「グッ……」
アッシュは身体にかかる圧力が和らぐのを感じ、ほんの少しばかりの意識を取り戻した。
続いて、一瞬だけフワッとした浮遊感
ドサッという衝撃を感じるとともに地面に叩きつけられ意識がハッキリと覚醒する。
両隣にいるジェイドとアルフレッドも地面に落ちた衝撃で目を覚ましているようだ。
目をあけるとそこには、決着がついた直後のルナとバルトの姿があった。
「ルナ?? ……………………………………ルナっ!!!」
崩れ落ちるバルトに続いて、ゆっくりと後ろに倒れるルナ。
アッシュは大急ぎでルナの元に駆けつけ、倒れてくるルナの身体を受け止めた。
「ルナ!
おい、しっかりしろ! ルナっ!!」
「う………うぅ…………」
苦しそうにうめき声をあげるがアッシュの呼び掛けに対するルナの反応は薄い。
必死に呼び掛けを続けるアッシュだったが、ふと足元のほうからゴボゴボと吐血混じりのバルトの声が聞こえてきた。
「ククククク………ざまぁ……みやがれ………」
「!!!!!──────お前!!」
「テメェら…逃げられると思うなよ……
俺達に狙われている限り…逃げ場はねぇ…
この国にいる限り……テメェらに安息は…無ぇからな……」
「なんだと!?」
「せいぜい足掻いて………惨めにくたばりやが……れ………」
そう言って、バルトは事切れる
言い終わると同時に水のヴェールを失った闘技場の外が騒がしくなってくる。
追加の派兵があったのか、大きな声での号令やガッチャガッチャといった重たい足音が響く。
程なくして、ルナを抱き抱えるアッシュの近くの地面に兵士達の放った弓矢が突き刺さった。
「クソッ、もう来やがった!
みんな、大丈夫か? 逃げるぞ!」
アッシュが叫ぶと同時に闘技場になだれ込んでくる兵士達。
ジェイドとフィリアはソフィを抱え、アッシュはルナを抱えて破壊された通路に向かって走る。
「アッシュさん、早くこちらに!
後ろは私が引き受けます!」
起き上がったアルフレッドがアッシュ達の背中に降り注ぐ矢の嵐を炎の魔術で一掃する。
ジェイドを先頭にもと来た通路をたどって闘技場の裏の森に抜け、逃走用に隠しておいた馬に飛び乗り駆け出す。
ダングフォートの街は段々と夕日が沈みかけ夜が迫っていた。
「行き先は?」
「説明してるヒマあらへん!とりあえずついて来ぃや!」
ジェイドを先頭に街を突っ切る。
街なかは至る所に松明が掲げられ、ユラユラと揺れる炎に写し出された影が疾走する姿を捉えていた。
騎乗で武器を振るい、次々と兵士達を蹴散らして進むアッシュ達。
すると正面にダングフォートの街を囲う城壁の正門が見えてきた。
同時に正門前に長槍を構えて隊列を組んでいる兵士達も見受けられる。
「隊列構え! 奴等を通すな!」
兵士の号令と同時に長槍部隊がこちらに向かって槍を突き出し陣形を組む。
正門前を隙間なく埋められ、馬での突破は不可能かと思われた。
「おいマズいぞ!このままじゃ──」
「────行って下さい!大丈夫です!
槍は私が何とかしますっ!!」
馬上で杖を構えるフィリア。
「荒ぶる暴風よ、我の前の障壁を割り開き吹き飛ばせ
─ウェッジ・トルネード─」
詠唱を終えると同時にフィリアの杖先から竜巻が発生する。
まるでフィリアの意思に従うかのようにまっすぐに敵兵士の陣形に突き刺さり、強力な風の力でかき乱した。
「今や!」
ジェイドの合図で一斉に正門に突撃する。
フィリアによって吹き飛ばされた兵士達は陣形を組み直そうとするが、当然間に合うはずもなく、ただただ蹴散らされるのみだった。
正門をくぐり抜け、街の外に出た。
ダングフォートの城壁の外は小高い丘になっており、身を隠せる場所が少ない。
そのため、ジェイド達は急いで丘を登ってできるだけ早く安寧の森に入り夜の闇に紛れて身を隠すようあらかじめ計画を立てていたのだが、先頭のジェイドの目に飛び込んできたのは驚きの光景だった。
「な……なんやこれ!?」
「おい、ウソだろ……」
煌々と照らされるアッシュ達一向。
街の外には城壁を包囲するような形で兵士達が詰めかけ、大量に掲げられた松明の炎が逃げ場の無い事実を突き付けてくる。
よく見ると、ダングフォートの街の兵士の装備ではなく王国旗を掲げた兵士達に囲まれていた。
小高い丘を覆い尽くす程の大軍がダングフォートの街を包囲しアッシュ達に敵意を向けている。
「クソッ、何でこんなところに王国軍が!?」
「っ!!! 私がっ!!
────ウェッジ・トルネード────」
再度魔術を放つフィリア
先程よりも多くの魔力を込め、大型の竜巻を複数発射する。
王国軍の包囲網に向かって飛んでいくフィリアの魔術
しかし、それは兵士達に直撃する寸前で透明な壁に阻まれた。
一瞬、景色が波打ったように揺らめき、魔術が空中に吸収されるように消える。
「っ!魔術障壁!?」
お返しと云わんばかりに、今度は王国軍の方から弓矢が放たれる。
アッシュ達一向に迫る大量の矢。
皆それぞれが、防御の為に武器を構えたその時。
「皆様、ここは私にお任せ下さい。
いきますよ【サラマンダー】
フレイムウォール」
アルフレッドが一歩前に出て、炎の魔法を放つ。
地面より立ち上る業火が王国軍とアッシュ達を分断し飛来する矢を全て焼きつくした。
「魔術障壁ですか…
厄介ですなぁ………
やれやれ…これをやるとけっこう疲れるんですが…
仕方ありませんね………
久々に出番ですよ【イフリート】
──ラヴァ・エクスプロージョン──」
アルフレッドが魔法を唱えると、王国軍の包囲網の一番端
ダングフォートの城壁下の地面が突如として盛り上がり、地面が大きく抉れ大爆発を起こした。
爆発に巻き込まれた兵士達は跡形も無く吹き飛び、抉れた地面からは溶岩のようなドロドロの液体が吹き出している。
空中に吹き上がった溶岩は魔術障壁にぶつかり、吸収されること無くそのまま障壁を突き破った。
爆発に巻き込まれなかった兵隊達も障壁を破った溶岩に狼狽え、包囲網の端に穴が開く。
「さぁ、今です! こちらに!!」
馬を駆り、包囲網の一点突破を目指す。
アルフレッドの穿った穴をついて一気に駆け抜け、溶岩の川を飛び越える。
追撃を試みる兵士達が弓矢を浴びせかけて来たが、アルフレッドが更に溶岩の噴火を起こし、追手を遮断する。
「どこ、行くんや! 森とは反対やで!」
元々ジェイドはダングフォートの南側、安寧の森に逃げ込む予定だったが、アルフレッドが穿った穴は森とは反対側。
「当てがあります!
死にたくなければ今はこのままついていらして下さい!」
完全に日が沈み。
夜が訪れる。
アルフレッドが放った溶岩の魔法が夜空を赤く照らし終えた後
一向は闇に紛れ姿を隠しながらも、追手から逃れるべく北へ北へと駆けて行くのであった。
2章終わりになります。
3章もよろしくお願いします。
3章に入る前にネタバレしない程度のキャラ紹介諸々を書きたいと思います。




